寒冷期の災害発生を想定内とした備えと対応【令和7年度防災気象講演会 第2部 講演②】
タイトル:寒冷期の災害発生を想定内とした備えと対応 講演者:日本赤十字北海道看護大学 看護薬理学領域 教授・災害対策教育センター長 根本 昌宏 氏 (令和7年度防災気象講演会 第2部~これからの備え~講演②より)
はじめに:寒冷期災害の厳しい現実
東日本大震災(3月11日)や能登半島地震(1月1日)発生時の気温は、0℃〜マイナス2℃程度でした。しかし、厳冬期の北海道ではマイナス5℃以下になることも珍しくありません。寒冷期の災害では、**「災害が起きた後にどうやって健康を守るか」**が極めて重要な課題となります。
1. 避難時の課題とリスク
真冬の深夜、停電による暗闇と暴風雪、凍結した路面の中での避難は困難を極めます。
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安否確認の重要性:大切な人と連絡が取れないと、危険な地域に足を踏み入れてしまう恐れがあります。事前の取り決めが不可欠です。
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車中泊・車避難の危険性:液状化で荒れた道路や吹雪での車移動は困難です。また、車中泊には**「エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)」「一酸化炭素中毒」「低体温症」**の3大リスクが伴います。
2. 寒冷期の健康リスクと対策
① 低体温症
予防が全てです。発症してしまうと救急搬送しか助かる道がありません。
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対策の優先順位:
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濡れたままにしない(乾いた衣類を持ち歩く・着替える)
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床に直接寝ない(床は外気と同じ冷たさ。椅子に座るかベッドを使用する)
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加温する
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カロリーのある食べ物を摂取する
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② 一酸化炭素中毒
発電機や、煙突のないストーブ(カセットボンベ式や練炭など)を屋内で使用すると、一酸化炭素中毒で命を落とす危険があります。
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対策:十分な換気を行うか、屋外の発電機やポータブル電源からコードを引いて、普段使っている安全なストーブ(FF式など)を稼働させるのが有効です。
3. 避難所の環境改善「TKB+W」
避難所(体育館など)は本来生活する場所ではないため、環境が悪化すると「災害関連死」や様々な疾患(誤嚥性肺炎、心不全、不眠、うつなど)を引き起こします。環境を整える**「TKB+W(トイレ、キッチン、ベッド+暖房)」**が不可欠です。
T(トイレ)
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仮設トイレは冬場には凍結して使えなくなることがあります。
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安全で暖かい屋内で使える**携帯トイレ(便器に袋を被せるタイプ)**が有効ですが、事前の使用訓練が必要です。
K(キッチン・食事)
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おにぎりやカップ麺ばかりの食事が続くと、便秘や塩分過多による疾患を誘発します。
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咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)が難しい高齢者には「とろみ食」が必要です。アレルギーの有無や必要な食事形態を周囲に知らせる**サインプレート(表示)**の活用が推奨されます。
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口腔衛生を保つための**歯ブラシ(口腔ケア)**は、誤嚥性肺炎を防ぐために極めて重要です。
B(ベッド・就寝環境)
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雑魚寝の弊害:床からの冷気で体温を奪われるだけでなく、人が動くたびに舞い上がるホコリを吸い込み、呼吸器疾患の原因になります。
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ベッド化のメリット:高さ35cmほどのベッドにするだけでホコリを吸わなくなり、咳が収まります。また、ベッドに「番地」を割り振ることで、保健師などの支援者が要配慮者を巡回・把握しやすくなります。
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スチールベッドの提案:段ボールベッドは組み立てに時間がかかりますが、折りたたみ式のスチールベッドなら約30秒で展開でき、省スペースでの備蓄も可能です。
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プライバシー確保:女性専用スペースの確保や、保温効果も兼ねた1人用パーソナルテントの活用も有効です。
4. 命を守るための「3つの必須アイテム」
避難の際、水や食料に加えて、以下の3つを必ず持ち出してください。
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上履き(スリッパ等):避難所の冷たい床から足を守るため。
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歯ブラシ:口腔ケアによる感染症・肺炎予防のため。
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持病の薬(常用薬):高血圧や糖尿病などの薬は避難所では手に入りません。
まとめ
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想像力とフェーズフリー:災害を「想定内」にするための想像力を持ち、普段使っているものを災害時にも役立てる(フェーズフリー)視点が大切です。
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事前の訓練:「訓練していないことは、本番では絶対にできない」という教訓を胸に、地域住民、行政(防災担当・保健福祉担当)、医療従事者が連携した実践的な合同訓練を普段から行っておくことが、命を守る最大の備えとなります。