「トップの覚悟と躊躇なき支援」能登半島地震、支援・受援の“ホンネ”を語る(吹田市長×輪島市長)
地域安全学会 実務者企画委員会は、シリーズ「能登半島地震を振り返る」の特別編として、支援側(大阪府吹田市・後藤市長)と受援側(石川県輪島市・坂口市長)のトップ対談を行いました。 発災直後、首長は何に迷い、何を決断したのか。制度の枠を超えた「躊躇なき支援」の裏側と、被災地が直面した過酷な現実について、両市長が語った“ホンネ”をレポートします。
■主なトピックス
- 支援の決断: 議会・財政・責任問題…首長が乗り越えるべき「8つの心理的ハードル」とは。
- 現場の教訓: 被災地職員に「すみません」と言わせてはいけない。真に対等な支援のあり方。
- 受援の苦悩: 1割以上の職員が退職。被災しながら業務にあたる職員のメンタルケアと限界。
- 未来への提言: 平時からの「水平連携」と、支援部隊を受け入れる「防災広場」の必要性。
■基調講演:支援側の論理(吹田市・後藤市長)
「困った時はお互い様。金の話は後回しでいい」 後藤市長は、支援を決める際に立ちはだかる「前例踏襲」や「コスト論」を、「トップの覚悟」で突破しました。特に強調されたのは、支援者のデリカシーです。「宿や食事はどうすれば?」と聞くような支援者は、被災地の負担にしかなりません。**「自己完結型の支援部隊」であること、そして被災職員に気を使わせない「心意気」**こそが重要であると語られました。
■パネルディスカッション:受援側の現実(輪島市・坂口市長)
「支援はありがたいが、調整だけでパンクした」 坂口市長からは、発災直後の通信途絶や孤立、そして膨大な支援申し出への対応に追われ、職員が疲弊していく実態が明かされました。また、全国から駆けつける支援部隊のための**「活動拠点(ベースキャンプ)」となる平地が不足**していたことが、復旧の足かせとなった点も指摘。都市計画における「防災広場」の重要性を訴えました。
■総括
本勉強会では、単なる検証にとどまらず、**「中間支援組織の制度化」や「支援側・受援側のDo & Don’tリスト」**の必要性など、次なる災害への具体的な提言がなされました。行政職員、防災関係者にとって、マニュアル改訂のヒントとなる貴重な知見共有の場となりました。
第22回オンライン勉強会・シリーズ能登半島地震を振り返る(特別編)
「トップの覚悟と躊躇なき支援」(支援・受援のホンネ)
開催日: 令和6年(2024年) 主催: 地域安全学会 実務者企画委員会
- 開会挨拶・趣旨説明
南沢(委員長・山梨大学) 本日は「トップの覚悟と躊躇なき支援」と題し、能登半島地震における支援側・受援側それぞれの視点からお話を伺います。あくまで当時の対応の検証ではなく、今後どこでも起こりうる災害に備えるための知見共有が目的です。本日は、中長期にわたり支援を行っている大阪府吹田市の後藤市長による基調講演、および受援側である輪島市の坂口市長を交えたパネルディスカッションを行います。
有吉(吹田市 総務部 防災政策推進監) 本日のテーマは、多くの課題が指摘されている「応急対策職員派遣制度(対口支援)」です。自治体の権限と責任が集中する首長が、発災直後に何を考え、何に迷い、どう決断したのか。「ホンネ」をお話しいただく場とします。
- 基調講演:支援側の論理と覚悟
登壇者:吹田市長 後藤 圭二 氏
本日の私のミッションは、支援の「なぜ」 をお話しすることです。なぜ吹田市が、前例のない長期的・大規模な支援に踏み切ったのか。その素材を提供し、学会の皆様に料理(考察)していただき、全国共通のレシピ(教訓)にしていただきたいと考えています。
背景:吹田市の特性と「ノブレス・オブリージュ」
吹田市は財政力や地理的条件に恵まれた中核市であり、危機管理への投資も積極的に行ってきました。私自身、元水道技術者として阪神・淡路大震災や大阪北部地震を経験しており、「恵まれた自治体には責任がある(ノブレス・オブリージュ)」という考えがベースにあります。
首長・行政組織が直面する「8つの心理的ハードル」
支援を決断する際、必ず以下の「壁」が現れます。
- 前例がない: どの部署が担当するのか?事務分掌は?
- 説明責任: なぜ吹田市なのか?市民・議会への説明は?
- 余裕人員論: 「他所を助ける余裕があるなら職員を減らせ」という社会的圧力。
- 人選: なぜその職員が行くのか?資格や適性は?
- 責任の所在: 派遣職員に何かあったら誰が責任を取るのか?
- 経費負担: なぜ市の税金を使うのか?国がやるべきでは?
- 戦術: 具体的に何をするのか(現場は混乱しており不明)。
- 出口戦略: いつまでやるのか?何の制度に基づくのか?
決断と「躊躇なき支援」への回答
これらの問いに対し、私は次のように結論づけました。
- 議会・市民へ: 「困った時はお互い様。担える力がある者が担うのは人の道でしょう」
- 期間・戦術: 「行ってみないと分からない。現場のニーズ次第で適宜判断する」
- 責任: 「全ての責任は市長である私が取る」
- 経費: 「戦いの渦中に金の話をするな。後で何とかする」
- 出口戦略: 「見放さない」。期限ありきの制度的派遣ではなく、相手が自立するまで支えるという心意気がなければ失礼にあたる。
支援の質の教訓:「心意気」と「デリカシー」
- 「すみません」と言わせない: 坂口市長との協定時、「うちの職員に『すみません』と言わせないでください」と頼みました。「すみません」は言うたびに心が傷つくキラーワードです。対等な支援であるべきです。
- 事務職・管理職の重要性: 発災当初に必要なのは、作業員だけでなく、**「心意気のある事務職の管理職(ジェネラリスト)」**です。市民対応や行政手続き、組織マネジメントができるプロが必要です。
- 自己完結型の支援: 「宿は?食事は?風呂は?」と聞くような支援者は送ってはいけません。それは被災地の負担になります。「現地で負担をかけない、自立した部隊」であることが絶対条件です。
今後の課題・提言
- 平時の水平連携: 国(垂直)だけでなく、首長同士のLINE等による迅速な水平連携が不可欠。
- 非常時の法運用: 災害廃棄物の分別(廃掃法)など、平時のルールが復旧の足かせになる。非常時の法運用枠組みが必要。
- 「置き土産」への配慮: 「こうすべき」という助言だけ置いて短期間で帰る専門家は、現場にとって時に迷惑です。共に汗をかく姿勢が必要です。
- パネルディスカッション・質疑応答
コーディネーター:坂本 教授(兵庫県立大学) パネリスト:坂口 茂 氏(輪島市長)、後藤 圭二 氏(吹田市長)
被災地(輪島市)の実情と苦悩
坂口市長:
- 初動の混乱: 発災時、道路寸断により私自身も孤立し、庁舎到着は3日目でした。通信(衛星含む)も使えず、物資も「ラストワンマイル」が届かない状況でした。
- 職員の疲弊: 職員自身も被災者でありながら、市民からの怒りや不安を一身に受け止め続けました。結果、この1年で1割以上の職員が退職しました。 心身ともに限界でした。
- 支援受け入れの難しさ: 「何か手伝うことはないか?」という電話や、「こうした方がいい」というアドバイスへの対応だけでパンクしました。後藤市長がおっしゃる通り、**「自立して動いてくれる、マネジメントができるベテラン職員」**の存在が本当にありがたかったです。
支援・受援のコミュニケーション
後藤市長: 4月に協定を結びに行った際、輪島市の部長級職員が皆、発災時と同じ服を着て家に帰れていない中、協定式のために散髪をして整えていたと聞きました。「失礼のないように」という被災地側のデリカシーが、逆に自らを追い詰めていると感じました。だからこそ、支援側は「お構いなく」を徹底し、負担をかけない配慮が必要です。
質疑応答からの重要ポイント
- マスコミ対応はどうすべきか?
坂口市長: 18年前の地震の経験から、「時間を決めて対応する」ことを徹底しました。しかし今回は発災直後、情報が出なさすぎて「市長死亡説」まで流れたため、途中からは積極的に前に出るようにしました。 後藤市長: マスコミは潮が引くようにいなくなります。「引き留め戦略」が必要です。公式発表だけでなく、非公式な発信も含めて関心を持たせ続けること。また、広報担当ではなく**「スポークスパーソン(一元的に発信する顔となる人物)」**を配置することが重要です。
- 派遣職員の期間と引き継ぎについて
後藤市長: 1週間や2週間では短すぎます。吹田市は**「3人ずつ1ヶ月派遣し、2週間は重複させる(オーバーラップさせる)」**方式を取りました。これにより、輪島市の職員に引き継ぎの手間をかけさせず、吹田市の職員間で業務を引き継ぐ体制を作りました。
- 今後の備えへの具体的提言は?
後藤市長(支援側の視点):
- 中間支援組織の構築: 国・県と被災市町村の間に入り、支援の交通整理やマネジメントを行う「中間支援組織」の仕組みが制度として必要です。
- 「Do & Don’t」リストの共有: 支援側が「やるべきこと・やってはいけないこと」、受援側が「断るべきこと」を整理し、共有知にする必要があります。
坂口市長(受援側の視点):
- 「防災広場」の確保: 今回、全国から支援部隊が来ても、活動拠点(ベースキャンプ)となる平地が全くありませんでした。 平時から、テントやコンテナを設置でき、車両が集結できるオープンスペース(防災広場)を都市計画に組み込む必要があります。
- 上下水道の耐震化: 耐震化できている管は無事でした。特にトイレ問題は人間の尊厳に関わります。地味ですが、インフラの強靭化こそが復旧のスピードを左右します。
- 閉会
まとめ 今回のセッションでは、制度やマニュアルを超えた「首長の覚悟」と、現場職員の壮絶な実態が浮き彫りになりました。特に「支援側は被災地に負担をかけない自立完結型であるべき」「短期間の助言型支援は現場を混乱させる」といった教訓は、今後の災害対応において極めて重要な示唆となります。
(以上)