1-4 帰宅困難な状況の発生状況 PDF
帰宅困難対応に関する提言
~「孤立・籠城」を生き抜くための備蓄と体制~
Ⅰ. 待機体制:「公助の担い手」の子を守る覚悟
保護者が迎えに来られない最大の理由は、保護者自身が社会インフラを守る立場(エッセンシャルワーカー)だったからです。
提言1:長期待機を前提とした「子守り計画」
「夕方には親が来るだろう」という楽観論を捨て、数日間の宿泊を覚悟する必要があります。
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【事例:迎えに来られない親たち】
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「両親が教員、市役所、病院勤務のため、災害対応で引き取りに来られなかった(エッセンシャルワーカー)」
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医師や消防士、そして我々教員の子どもたちは、親が地域の命を守っている間、学校に取り残されます。学校は彼らを「最後の一人」まで守り抜く責務があります。
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【事例:物理的孤立】
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「周辺は海になり、40名程度の生徒が帰宅できなかった」
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「1日目は神社の境内で野宿、2日目は被災した中学校へと移動した」
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孤立した場合、野宿や移動を繰り返すサバイバル状態になります。この時、学校が「砦」として機能しなければ、子供たちは路頭に迷います。
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Ⅱ. 備蓄戦略:「電気なし・水なし」の現実解
「乾パン」や「ファンヒーター」は、極限状態では役に立たないことが判明しました。
提言2:備蓄の「真空パック化」と「分散配置」
津波や火災で備蓄が全滅するリスクを回避します。
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【事例:真空パックの勝利】
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「真空パックの毛布:真空パックされていたため、浸水後も使うことができた」
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「備蓄倉庫があったが、津波による火災で焼失した」
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対策: 毛布や衣類は必ず真空パック保管とする。また、備蓄倉庫を1カ所にまとめず、校舎の2階以上や分散して配置することで、全焼・全水没のリスクを防ぐ。
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提言3:「熱源」の確保(脱・電気依存)
停電時、最新の空調設備は無意味でした。原始的な熱源こそが命をつなぎます。
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【事例:凍える教室と代用品】
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「カーテン、教室のジャージなど、あらゆるもので防寒した」
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「電気によらないストーブ(石油ストーブ、だるまストーブ)への要望(347件)」
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対策: 電源不要の「反射式石油ストーブ」と「灯油」を必ず備蓄する。これは暖房だけでなく、煮炊き(お湯作り)や照明代わりにもなる最強のサバイバルツールです。
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提言4:「水を使わない」食料選定
水は飲むために温存すべきで、調理に使う余裕はありません。
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【事例:乾パンの不評】
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「火やお湯が必要なレトルト食品(使用不可)」
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「喉が乾きやすいビスケット(水不足で使用困難)」
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「おやつ(糖分・塩分補給)への要望」
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対策: 乾パンよりも、水なしで飲み込みやすい「ゼリー飲料」「缶詰(水分含む)」「羊羹(ようかん)」などを備蓄する。アルファ米も「水だけで戻せる」タイプを選ぶ。
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Ⅲ. 環境整備:「暗闇」と「トイレ」の対策
夜の学校は完全な暗闇となり、トイレ問題が精神を蝕みます。
提言5:「光」と「プライバシー」の確保
不安な夜を過ごす子供たちのメンタルケアに直結します。
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【事例:完全な暗闇】
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「停電により街灯もなく『完全な暗闇』となり、移動が危険」
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「投光機、ろうそく、電子ライターへの要望(175件)」
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対策: 教室全体を照らす「ランタン」や「投光機(発電機式)」に加え、トイレ移動用の「ヘッドライト」を人数分用意する。
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【事例:代用トイレの限界】
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「簡易トイレ、トイレットペーパーへの要望(54件)」
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対策: 断水時でも使える「凝固剤入り簡易トイレ」を、生徒数×3日分×1日5回分(膨大な量になります)備蓄する。生理用品や目隠し用ポンチョも必須です。
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Ⅴ. 結論
帰宅困難時の学校は、単なる「待機場所」ではなく、社会機能を維持するための**「子供たちのシェルター」**となります。
**「電気は来ない」「水は出ない」「外は海や瓦礫」**という前提に立ち、
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「石油ストーブ」で暖を取り
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「真空パック毛布」で寝て
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「水なし食品」で食いつなぐ
この原始的だが確実な備えが、孤立した学校で子供たちの命と心を救います。
帰宅困難・学校待機に関する提言
~「数日間の孤立」を生き抜くための備えと体制~
Ⅰ. 現状分析と課題(データからの教訓)
震災時のデータは、学校が直面した過酷な現実を示しています。
- 待機の長期化・宿泊化: 津波による孤立や保護者の被災により、数日間の学校宿泊が発生した。「待っていれば親が来る」という前提は崩壊した。
- 停電時の脆弱性: 電気暖房が使えず、極寒の中でカーテンを体に巻くなどの対応を余儀なくされた。「石油ストーブ」への渇望(347件)が圧倒的であった。
- 備蓄のミスマッチ: 「水が必要なレトルト」「喉が渇く乾パン」は不向きであった一方、水濡れに耐えた「真空パック毛布」が生死を分けた。
Ⅱ. 具体的提言
提言1:【備蓄】「ライフライン途絶」を前提とした物品選定
「あれば便利」ではなく、「電気・ガス・水道が止まっても使えるか」を基準に備蓄品を総入れ替えすべきです。
- 「電源不要」の暖房確保:
- エアコンやファンヒーターは無力化する。**「対流型石油ストーブ(だるまストーブ)」と「灯油」**を必ず備蓄する。これらは暖房だけでなく、煮炊きや湯沸かしにも使用できる。
- 「水・火不要」の食料へ転換:
- 調理水が確保できない場合、アルファ米やレトルト食品は食べられない。そのまま食べられる**「缶詰」「栄養補助食品」「水分を含むゼリー飲料」**を主力にする。乾パンは喉が渇くため避けるか、水をセットにする。
- 「真空パック」と「分散備蓄」:
- 毛布や着替えは、浸水や湿気から守るため真空パック加工されたものを導入する。
- 備蓄倉庫が津波で流失・焼失した事例を踏まえ、物品を1箇所にまとめず、**校舎の2階以上(垂直分散)**にも配置する。
提言2:【環境】「居住機能」を持たせる準備
学校は教育施設から「生活の場(避難所)」へと役割が変わります。
- トイレ対策の最優先化:
- 水洗トイレは断水で即座に使えなくなる。**「凝固剤入り簡易トイレ(マンホールトイレ等)」**を生徒数×3日分以上確保する。衛生環境の悪化は感染症を招く。
- サバイバル資材の常備:
- 校舎が損壊し、校庭や自転車置き場で過ごすケースも見られた。雨風をしのぐための**「大型ブルーシート」「テント」「ロープ」**を備蓄する。
- カーテンを毛布代わりにした教訓を活かし、緊急時にはカーテンを取り外して使用する訓練を行っておく。
提言3:【体制】「保護者が来られない子」を守る覚悟
保護者が被災者、あるいは災害対応従事者(エッセンシャルワーカー)である場合、学校は「親代わり」を務める必要があります。
- 「長期保護」プロトコルの策定:
- 「夕方まで待つ」マニュアルではなく、「保護者が迎えに来られない場合は、学校で宿泊させる」ことを明記し、寝具や数日分の食料計画を立てておく。
- 教職員自身の家族への対応:
- 「両親が教員で迎えに行けない」という事例があった。教職員が学校の子どもたちを守るためにも、教職員自身の家族の安全確保計画(実家へ預ける等)を平時から促す必要がある。
- 「引き渡し」の厳格化と柔軟性:
- 混乱に乗じた連れ去りを防ぎつつ、親族や知人への引き渡しを円滑にするため、「緊急時引き渡しカード」の事前登録と更新を徹底する。
Ⅲ. 結論
帰宅困難対策とは、単なる時間稼ぎの準備ではありません。 **「孤立した状況で、子どもたちの体温と水分を維持し、恐怖心を和らげ、数日間命をつなぐためのサバイバル計画」**です。
備蓄品リストを「電気なし・水なし」の視点で点検し直すことから、直ちに着手することを強く推奨します。
(以下「平成23年度 東日本大震災における学校等の対応等に関する調査 報告書 平成24年3月 文部科学省」の要約)
1-4 帰宅困難な状況の発生状況
(1) 児童生徒等の帰宅困難な状況の発生要因
質問事項: 帰宅困難な状況はどのような要因で発生しましたか?(その他の回答)
【1. 保護者の事情(迎えに来られない)】
仕事・公務によるもの
- エッセンシャルワーカー: 両親が教員、市役所、病院勤務のため、災害対応で引き取りに来られなかった。
- 勤務事情: 仕事の関係ですぐには迎えが不可能だった。保護者が遠隔地に出かけていて時間がかかった。
- 被災・足止め: 保護者自身が被災した、または職場で足止めされ、迎えに来ることができなかった。
家庭内の事情
- 家に家族が誰もいないため(鍵っ子など)、学校で待機させた。
- 一人で下宿している女子生徒のため、安全を考慮し学校待機とした。
【2. 学校の孤立・物理的な移動不能】
津波による孤立
- 水没・孤立: 学校が浸水し外部に出られなかった。周辺が海になり、半ば孤立状態となった。
- (記述)「周辺は海になり、40名程度の生徒が帰宅できなかった」
- 道路寸断: 地震後の津波により各浜が被災し、学校が孤立した。
- 暗闇: 停電により街灯もなく「完全な暗闇」となり、移動が危険で行動困難になった。
- 路面状況: 余震や大量のがれきにより、徒歩通行すら困難だった。
【3. 自宅・地域の壊滅的被害】
帰る場所の消失
- 壊滅: 「街が全てなくなったため」。
- 津波被害: 宅地周辺が津波被害を受けた。
- 原発事故: 自宅が原発事故による避難区域に含まれていたため、帰宅できなかった。
【4. 警報・指示による待機】
- 大津波警報: 警報発令中のため、移動を中止し待機した。
- 保護者の指示: 一度帰宅しかけたが、保護者の指示で避難所(学校の体育館)に戻ってきた。
【5. 寮生への対応】
- 入寮生(遠距離からの学生寮在籍者)がおり、保護者への引き渡しが即時には不可能だった。
読み取りのポイント
このデータからは、帰宅困難の要因が複合的であることがわかります。
- 「公助」の担い手のジレンマ: 「両親が教員・市役所・病院勤務」という記述は重要です。地域を守るべき人々の子どもが、学校に取り残されるという構造的な課題があります。
- 物理的な「孤立」の恐怖: 「周辺は海になり」「街が全てなくなった」という記述からは、単なる交通麻痺ではなく、地形が変わるほどの被害により物理的に閉じ込められた状況が伝わります。
1-4 帰宅困難時の待機・備蓄・必要物品
(2) 帰宅困難な児童生徒等の待機の方法
質問事項: 帰宅出来なかった児童生徒等はどこで待機しましたか?(その他の回答)
通常の避難所(体育館等)だけでなく、屋外や特殊な場所で寒さを凌いだ事例が多く見られます。
【屋内・施設内での待機】
- 避難所・学校施設:
- 避難所で待機。(76件)
- 避難所(体育館)で、職員とともに待機。
- カーペットの敷かれた音楽室と6年生教室に分散して待機(防寒対策)。
- 教職員とともに校長室で待機。
- 教員と特別教室で待機(少人数の場合)。
- 昇降口で保護者を待った。
- 特殊な場所:
- 校舎屋上の屋根裏倉庫内(津波回避等のためと推測される)。
- 隣接する学童クラブ。
- 第4次避難先となった高校の一室を借用。
- 職員宅。
【屋外・過酷な環境での待機】
- 校庭・野外:
- 避難場所の校庭で待機。(55件)
- 校庭脇の自転車置き場をシートで覆って待機。
- 校庭にテントを張り、たき火をして『仮避難本部』を設定。迎えに来た車で夜を明かした。
- 避難先(周辺):
- 周辺の民家等。(44件)
- 野宿・移動: 1日目は神社の境内で野宿、2日目は被災した中学校、3日目は隣町の中学校へと移動した。
- 県道脇の高い山の中と、学校裏山の神社の社。
(3) 備蓄品の使用状況
質問事項: 学校(園)で準備していた備蓄品は使えましたか?(その他の回答)
「代用品の活用」と「使えなかった理由(メンテナンス不足・津波)」の対比が重要です。
【役立ったもの・代用品】
- 代用品(防寒): カーテン、教室のジャージなど、あらゆるもので防寒した。
- 学校設備: 高等部の調理実習用の食材、個別に預かっていた薬品・医薬物品。
- 備蓄品:
- 合宿用の毛布が重宝した。
- 真空パックの毛布: 真空パックされていたため、浸水後も使うことができた。
- ストーブ等の暖房器具。
【使えなかったもの・消失】
- 焼失: 備蓄倉庫があったが、津波による火災で焼失した。
- 不適合:
- 火やお湯が必要なレトルト食品(ライフライン断絶で使用不可)。
- 喉が乾きやすいビスケット(水不足で使用困難)。
- 整備不良: 新品の発電機が使えなかった(後に修理して使用)。
(4) 帰宅困難な児童生徒等が発生した際に必要となる対応や備品など
質問事項: 今後、必要と考えられる対応や備蓄品などはありますか?
回答数(件数)が、現場の切実なニーズを表しています。「食料」と「暖房(電気不要)」が圧倒的多数です。
【最優先・必須アイテム(回答多数)】
- 水・食料 (573件):
- 水、乾パン 、缶詰、インスタント食品。
- 塩、みそ、梅干し、おやつ(糖分・塩分補給)。
- 暖房・燃料 (347件):
- 電気によらないストーブ(石油ストーブ、だるまストーブ)。
- 燃料(灯油等)。
- 防寒用品 (202件):
- 毛布、防寒衣料、シュラフ(寝袋)、布団。
- 電源・照明 (175件):
- 乾電池、懐中電灯、発電機 、発電用ガソリン。
- 投光機、ろうそく、マッチ、電子ライター。
【衛生・生活用品】
- 衛生 (89件): 紙コップ、紙食器、洗面用具、タオル、マスク。
- トイレ (54件): 簡易トイレ、トイレットペーパー、水洗トイレ用の水。
- 衣類: 着替えの下着、靴下、運動着、雨具。
【資機材・その他】
- 調理: ガスコンロ 、簡易コンロ用ガスボンベ(カセットボンベ)。
- 居住空間: テント、ビニールシート、ブルーシート、段ボール、ござ、ロープ、風雨を凌ぐ建物。
- 通信・救助:
- 非常用通信手段(衛星電話、無線)、携帯充電器。
- ラジオ、ハンドマイク、トランシーバー。
- ヘルメット、担架。
- 医療: 応急処置セット、包帯、さらし、医薬品。
まとめと分析(読み取り)
このセクションのデータは、マニュアル改訂における具体的な「物品リスト」として非常に有用です。
- 「電気不要」の重要性: 暖房において「電気によらないストーブ」が347件も要望されています。エアコンやファンヒーターは停電時に無力化するため、石油ストーブと灯油の備蓄が必須であることがわかります。
- 「水・火なし」で食べられるもの: レトルト食品や乾パンが「使えなかった」という声(水がない、喉が乾く)に対し、要望では「缶詰」「おやつ」「そのまま食べられるもの」が求められています。
- 真空パックの勝利: 津波被災地において、水濡れを防ぐ真空パック加工が生死を分けるほどの効果を発揮した実例(毛布)は、沿岸部の学校にとって重要な教訓です。