1-3各学校等における情報収集・発信の状況について PDF
災害時情報通信に関する提言
~「圏外」と「停電」を前提とした、アナログな情報戦略~
第1章:情報収集手段の確保
【教訓】「車」は単なる移動手段ではない。最強の「情報受信基地」である。
1. 現状と事例分析
停電により、職員室のテレビ、PC、インターネットは瞬時に「ただの箱」と化しました。その時、唯一機能した情報源は、駐車場にある「車」でした。
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【事例:カーナビ・ワンセグの独り勝ち】
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「カーナビ、ワンセグ (240件)」「携帯電話等のテレビ機能 (156件)」
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停電した校舎内で情報が遮断される中、教職員は自分の車や校用車に駆け込み、カーナビのテレビやラジオで津波情報や被害状況を収集しました。これらが最も確実な情報源でした。
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【事例:ラジオの復権】
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「車のラジオやテレビで情報を得た (137件)」
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映像が見られなくても、ラジオは貴重な情報源でした。しかし、電池式の携帯ラジオを常備していない学校も多く、結果として「車」に頼らざるを得ませんでした。
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2. 具体的提言
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提言①:「車両」を「情報班」の拠点とする 災害時、校用車や教職員の自家用車を「情報収集ステーション」として公式に位置づけてください。
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アクション: 発災直後、情報担当職員は直ちに車へ移動し、エンジンをかけてテレビ・ラジオから情報を吸い上げ、ホワイトボードで校内に共有する手順を確立する。
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提言②:「電源不要」の受信機配備 車がない、あるいはガソリンを温存すべき状況に備え、乾電池式または手回し充電式のラジオを職員室だけでなく、各教室・避難所に配備してください。
第2章:連絡手段の確保
【教訓】電話はつながらない。「人」を送るのが一番早い。
1. 現状と事例分析
電話回線の混雑(輻輳)や基地局の流失により、通信インフラは壊滅しました。この時、学校と行政をつないだのは「通信」ではなく「交通(移動)」でした。
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【事例:人海戦術(伝令)】
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「役所へ教職員を派遣した (154件)」「関係機関が学校を訪問した (134件)」
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電話がつながらないことに時間を浪費せず、すぐに職員を車や自転車、徒歩で教育委員会や役場へ走らせた学校が、結果として早く連絡を取り合えました。
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【事例:孤立の恐怖】
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「関係機関と全く連絡が取れなかった (35件)」「4日目に市職員が来るまで何もできなかった」
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物理的に道路が寸断された学校は、完全に孤立しました。この間、外部からの指示は一切届きませんでした。
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2. 具体的提言
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提言③:「伝令(メッセンジャー)」の制度化 「電話はつながらないもの」と割り切り、発災直後に若手教職員などを「伝令係」として任命し、教育委員会や避難所本部へ派遣するフローをマニュアル化してください。
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アクション: ガソリン不足に備え、移動手段としての「自転車」や「バイク」を学校に配備する。
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提言④:「地域・公的機関」との直接連携
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「消防団・消防署の巡回広報」「駐在所員が来校」
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遠くの教育委員会より、近くの「消防団」「駐在所」が頼りになります。平時から地元の防災組織と顔なじみになり、巡回ルートに学校を入れてもらうよう依頼してください。
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第3章:意思決定とマニュアル
【教訓】連絡がつかない時は、「現場判断」が正義である。
1. 現状と事例分析
「指示待ち」をしていた学校が孤立する一方で、連絡不能を悟り、独自の判断で動いた学校が難局を乗り切りました。
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【事例:あえて連絡しない英断】
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「生徒の安全確保に確信があり、市の機能も麻痺していると判断したため、あえて通信(連絡)をしなかった」
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「校長の判断により、やるべき事(水確保など)を確実に行った」
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通信不能な状況で、無理に電話をかけ続けることはバッテリーと時間の無駄です。「連絡がつかないなら、現場の長(校長)が全権を握る」という覚悟が奏功しました。
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【事例:インフラの物理的破壊】
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「中継基地、電柱、アンテナ塔の流失・倒壊」「災害時優先電話の基地局が被災」
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どんなに優先電話や専用回線を用意しても、物理的に流されれば終わりです。システムへの過信は禁物です。
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2. 具体的提言
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提言⑤:「通信不能時の全権委任」規定 「教育委員会と連絡が取れない場合、避難場所の変更、学校待機、引き渡しの可否など、全ての判断を校長に一任する」という免責規定をマニュアルに明記してください。
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アクション: 「指示がないから動けない」という状況をシステム的に排除する。
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提言⑥:「オフライン」を前提とした備え クラウドやサーバー上のデータは、停電時には閲覧できません。児童名簿、緊急連絡先、ハザードマップなどの重要情報は、必ず「紙」で印刷し、アナログ媒体としてファイリングしておいてください。
結論
情報通信における東日本大震災の教訓はシンプルです。 「災害時、ハイテクは脆く、アナログはしぶとい」
今後の備えとして、最新のデジタル通信網を整備することは重要ですが、それと同時に、
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「車」という独立した情報基地を活用すること
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「人」が走って情報を伝える体制を作ること
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「連絡がつかない」ことを前提とした現場決裁権を与えること
この「アナログな3本柱」を確立することが、通信途絶時の命綱となります。
(以下「平成23年度 東日本大震災における学校等の対応等に関する調査 報告書 平成24年3月 文部科学省」の要約)
東日本大震災における被害状況と対応に関する報告
1-3 各学校等における情報収集・発信の状況について
(1) 災害情報の収集手段
質問事項: 震災当日、地震や津波などに関する災害情報などはどのような手段で収集しましたか?
停電でテレビやネットが使えない中、「車(カーナビ)」と「ワンセグ」が情報の生命線でした。
【主な手段(件数上位)】
- カーナビ、ワンセグ (240件)
- 携帯電話等のテレビ機能 (156件)
- 携帯電話(PHS含む) (86件)
- 固定電話(有線電話) (56件)
【人づて・直接の情報収集】
- 来訪者からの情報:
- 保護者、近所の人、外出していた知人からの伝達。
- 教育委員会や法人職員が車で駆けつけ、情報を伝えた。
- 園バス運転手からの報告。
- 避難場所で学校関係者や避難者から聞いた。
- 公的機関の動き:
- 消防団・消防署の巡回広報。
- 駐在所員が来校し、道路状況を伝達。
- 自衛隊ヘリからの緊急避難指示(上空からの呼びかけ)。
- 町内会区長が配布したチラシ。
【その他の手段】
- メディア・通信: 新聞、ラジオ、海外からの国際通話。
- 目視: 避難場所から直接見た情報のみ。
【収集不能】
- 通信機能が全て絶たれ、情報収集が不可能だった。
- 何も分からなかった。
(2) 関係機関との連絡手段
質問事項: 震災当日、関係機関(教育委員会や役所)との連絡は、どのような手段で行いましたか?
通信不能のため、「人が直接動く」手段が主流となりました。一方で、完全に孤立した学校もありました。
【人海戦術(直接訪問・派遣)】
- 学校から行く: 役所へ教職員を派遣した。(154件)
- 向こうから来る: 関係機関(教育委員会、市職員など)が学校を訪問した。(134件)
- 管理職の直談判: 校長・教頭が直接出向き、連絡・調整・指示を受けた。
【無線・経由連絡】
- 巡回していた市職員と出会い、無線で対策本部に連絡してもらった。
- 避難所を経由して連絡した。
【連絡不能・孤立】
- 孤立状態: 関係機関と全く連絡が取れなかった。(35件)
- 待機: 校外に出られず、4日目に市職員が来るまで何もできなかった。
(3) 通信手段が使えなくなった理由
質問事項: どのような理由で通信手段が使えなくなった状況が発生しましたか?
単なる停電や混雑だけでなく、物理的な「流失・倒壊」が大きな要因でした。
【インフラの物理的破壊】
- 津波被害:
- 中継基地、電柱、アンテナ塔の流失・倒壊。
- 建物自体が被災し、電話機や通信機器が流された。
- 災害時優先電話の基地局が被災し使用不能に。
【システム・電力の問題】
- 過負荷・ダウン: 電話回線の混雑(輻輳)、ネットワークサーバのダウン。
- 電源喪失: 通信機器や防災無線のバッテリー切れ。
【その他】
- 道路遮断により復旧や移動が不可。
- 電話、ネット、メール全てが不通 (45件)。
(4) 通信手段が使えなくなった際の対応
質問事項: 通信手段が使えなくなった時、どのように対応しましたか?
ここでも「車(ラジオ)」と「足(移動)」が活躍しました。また、現場判断で「あえて連絡しない」という選択をした事例も見られます。
【代替手段の確保】
- ラジオ・テレビ: 車のラジオやテレビで情報を得た。(137件)
- その他の通信:
- ショートメール(SMS)。
- 災害時優先電話、町の有線電話、非常用電話。
- 家庭用発電機の利用。
- 近所の無線局(アマチュア無線等)や駐在所の警察無線を借用。
【物理的な情報収集】
- 事後確認: 道路等が復旧してから、教職員が関係機関まで行き情報を入手した。(86件)
- 避難所連携: 体育館が避難所になったため、そこに詰めていた市職員から情報を得た。
【現場判断・独自の動き】
- 自律的な行動:
- 「現地でできる対応」を考えて行動した。
- 校長の判断により、やるべき事を確実に行った。
- 生徒・教職員・校舎の現状把握と、断水に備えた水確保を優先した。
- 連絡の断念(英断):
- 生徒の安全確保に確信があり、市の機能も麻痺していると判断したため、あえて通信(連絡)をしなかった。
まとめと分析
このセクションからは、災害時の情報通信における**「デジタル敗北、アナログ勝利」**の構図が如実に読み取れます。
- 「車」の価値: 停電時、校用車や教職員の自家用車は、単なる移動手段ではなく**「発電機付きのラジオ/テレビ(情報受信機)」**として決定的な役割を果たしました。
- 「足」で稼ぐ情報: 電話がつながらない以上、「行って聞く」「来てもらって聞く」という物理的な移動が最大の通信手段でした。
- 現場判断の重要性: 「連絡がつかないこと」にパニックにならず、「今はつなぐ意味がない(現場対応優先)」と割り切った学校側の判断力が光っています。