2026年・南海トラフ地震危機と国家的レジリエンスの構造的欠陥に関する包括的分析
2025年後半の複合災害危機と防災庁設置の戦略的意義
日付: 2026年1月
主題: 2025年第4四半期の地殻変動・都市災害の教訓、構造工学的脆弱性の深層、および新設される防災庁の戦略的マンデートに関する詳細評価
宛先: 政府政策立案者、都市計画専門家、広域防災・危機管理ステークホルダー、重要インフラ事業者
- エグゼクティブ・サマリーと文脈的フレームワーク
1.1 2026年1月という歴史的分水嶺
2026年1月現在、日本列島は地質学的緊張と行政的変革の極めて重大な交差点に立っている。2011年の東日本大震災から15年が経過し、震災の記憶の風化が危惧される中で、2025年後半に発生した一連の地殻変動と都市災害は、国家の安全保障基盤たる防災体制の脆弱性を白日の下に晒した。特に、史上初めて発令された「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は、科学的予測の限界と社会的な受忍限度を試す「ストレステスト」として機能した。
本報告書は、2026年1月16日に名古屋大学減災館で開催された「第170回げんさいカフェ」における、防災工学の権威・福和伸夫氏(名古屋大学名誉教授)と隈本邦彦氏(江戸川大学名誉教授)の専門的対話 を中核的な定性データとし、2025年末の危機的事象群と2026年に向けた展望を包括的に分析するものである。両氏の議論は、政府公式発表の楽観的なベールを剥ぎ取り、構造工学、地震学、そして行政心理学の観点から、日本が直面している「不都合な真実」を浮き彫りにしている。
1.2 2025年クライシス・シーケンスの教訓
2025年11月から12月にかけて発生した一連の災害——三陸沖地震、佐賀関の大規模火災、香港の超高層ビル火災、そして青森県東方沖地震——は、単発の事故ではなく、来るべき南海トラフ巨大地震の「予行演習」として捉えるべき複合危機であった。これらの事象は、日本の木造密集市街地の燃えやすさ、超高層都市の脆弱性、そして予知体制の不確実性を同時に露呈させた。
1.3 防災庁設置の深層的意義
この危機的状況に対し、政府は2025年12月26日、防災庁に関わる基本方針を閣議決定した 1。本報告書では、この新組織が単なる行政機構の再編にとどまらず、各省庁がひた隠しにしてきたインフラや対応能力の欠陥を「白状」するための「懺悔室(Confessional)」としての機能を持つべきであると論じる。形式的な「想定」ではなく、現場の実情に基づいた「本音」の防災行政への転換こそが、国家存亡の危機を回避する唯一の道筋である。
- 2025年第4四半期の危機シーケンス分析:警告の解剖学
2025年の晩秋から初冬にかけて日本列島を見舞った連鎖的な災害と地殻変動は、南海トラフ地震発生前の「静穏期」の終わりを示唆するものであった。ここでは、時系列に沿って各事象の物理的側面と社会的インパクトを詳細に分析する。
2.1 三陸沖の「サイレント・アラーム」(2025年11月9日)
2025年11月9日17時03分、三陸沖を震源とするM6.9(暫定値M6.8)の地震が発生した 2。深さ16km、盛岡市や矢巾町で震度4を観測したこの地震は、物理的な被害規模こそ限定的であったものの、地震学的・防災行政的には極めて重要な意味を持っていた。
2.1.1 境界線上の恐怖と「後発地震注意情報」の不発
福和氏の指摘によれば、この地震のマグニチュードは「後発地震注意情報」の発令基準(概ねM7.0以上)のギリギリ下(M6.8〜6.9)であったため、情報は発表されなかった。これは行政上の基準としては正しい運用であるが、地殻の物理的ストレス状態としては、巨大地震のトリガーとなり得る規模に達していたことを意味する。社会は「警報が出なかったから安全だ」と誤認したが、実際には日本海溝のアスペリティ(固着域)は限界に近い状態にあったのである。
2.1.2 「オーバーシュート」現象と地震サイクルの破綻
この時期、筑波大学の八木教授らによって提唱され、福和氏も言及した「オーバーシュート」理論 3 は、従来の地震予測モデルを根本から覆すものであった。
- 従来のサイクル論: ひずみが一定速度で蓄積し、限界に達すると解放される(地震発生)。解放後はひずみがゼロになり、次の地震までの時間が稼げる。
- オーバーシュート理論: 断層破壊時に動的摩擦が低下し、蓄積されたひずみ以上に大きく滑ってしまう現象。これにより、周辺の断層に想定以上の負荷がかかり、連動して次の巨大地震を早期に誘発する可能性がある。
福和氏は、2011年の東北地方太平洋沖地震(M9.0)もこのオーバーシュートで説明できるとし、11月9日の地震が単なるガス抜きではなく、隣接領域へのストレス転嫁を引き起こした可能性を示唆した。
2.2 佐賀関の「糸魚川型」火災(2025年11月18日)
地殻が不安定化する中、大分県大分市佐賀関で発生した大規模火災 4 は、日本の木造密集市街地の致命的な脆弱性を改めて突きつけた。
2.2.1 49,000平方メートルの焼失が意味するもの
11月18日の火災は、強風下で170棟以上を焼き尽くし、山林にまで延焼した。これは2016年の糸魚川市大規模火災の再来であり、南海トラフ地震発生時に予測される「同時多発火災」の縮図である。福和氏はこの火災について「南海トラフだったらどこで起きてもおかしくない」と指摘している。
金融機関は即座に災害復旧貸付等の支援措置 5 を講じたが、物理的な延焼阻止失敗の事実は重い。日本の地方都市の多くは、耐震化こそ進みつつあるものの、防火化・不燃化においては依然として昭和期の構造を残しており、津波避難以前に火災によって退路を断たれるリスクが顕在化した。
2.3 香港超高層ビル火災と垂直都市の死角(2025年11月26日)
佐賀関の水平方向の延焼に続き、11月26日には香港で超高層ビル火災が発生し、100名を超える死者を出した 7。
2.3.1 日本のタワーマンションへの警鐘
福和氏は、この香港の事例を「日本でもありそう」と危惧した。日本の都市部、特に湾岸エリアではタワーマンションが林立しているが、以下の点で極めて脆弱である。
- 煙突効果(チムニーエフェクト): 階段室やエレベーターシャフトを通じて有毒な煙が一気に上層階へ拡散する。
- 避難の困難性: スプリンクラー等の設備が地震の揺れで破損した場合、消火手段を失う。香港の事例では警報装置の不作動も指摘されており 7、ハードウェアの信頼性に依存した安全神話が崩壊した。
- 垂直避難の罠: 津波対策として推奨される「垂直避難」は、建物が火災に見舞われていないことが前提である。地震による電気火災と津波が同時に発生した場合、高層階は安全地帯ではなく、逃げ場のない密室となる。
2.4 青森県東方沖地震と「初の注意情報」(2025年12月8日)
一連の危機のピークは12月8日に訪れた。青森県東方沖でM7.5(暫定値)の地震が発生し、震度5強を観測した 8。
2.4.1 歴史的な「後発地震注意情報」の発令
この地震を受け、気象庁は運用開始以来初めて「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表した 9。これは、M7クラスの地震が、M9クラスの巨大地震(アウターライズ地震や連動型地震)の「前震」である可能性が高まったことを警告するものである。
福和氏はこの一週間を振り返り、「防災関係者はヘトヘトになっていた」と語る。自治体、研究者、メディアは24時間体制で「次の巨大地震」に備えたが、幸いにも後発地震は発生しなかった。
- 「空振り」の功罪: 注意情報が解除された12月16日以降、社会には安堵と共に「狼少年」的な慣れが生じている恐れがある。しかし、福和氏はこれを「良すぎた(何事もなくて良かった)」としつつも、関係者の疲弊による判断力の低下を懸念材料として挙げた。
2.4.2 12月8日のバスツアーが目撃した「連鎖の脆弱性」
福和氏はこの日、豊田市から碧南火力発電所、拠点病院、明治用水を巡る「防災バスツアー」を実施していた。
- インフラの数珠繋ぎ: 明治用水(水)がなければ碧南火力(電気)は稼働できず、電気がなければ拠点病院は機能しない。
- 現場の直感: ツアーから帰宅した直後に地震が発生したことで、福和氏は「このインフラの連鎖が断ち切られる恐怖」を現実的なものとして体感した。日本の防災計画は「電力」「医療」「水」を個別に議論しがちだが、12月8日の経験は、これらが不可分の一体であることを改めて証明した。
- 構造工学から見た都市の「虚構の安全」
福和伸夫氏の分析の核心は、日本の建築・土木構造物が抱える根本的な物理的欠陥にある。氏は、自身が開発に関わった教育教材「赤い本(筋飼家のものがたり)」「黄色い本(高居家のものがたり)」 10 や、NHKでの実験映像を引き合いに出し、現在の耐震基準と都市開発の欺瞞を暴いている。
3.1 共振現象の物理学:竹のメタファー
福和氏は建物の揺れやすさを「竹」に例えて説明する。
- 短く持つ(低層ビル): ガチガチに硬く、小刻みに揺れる(短周期)。
- 真ん中を持つ(中層ビル): 適度にしなる。
- 長く持つ(超高層ビル): ゆらゆらと大きく、ゆっくり揺れる(長周期)。
3.1.1 咲洲庁舎(旧WTC)の教訓と堆積平野の罠
2011年の震災時、震源から700km以上離れた大阪の咲洲庁舎が激しく共振し、損傷した事例は衝撃的であった。
- メカニズム: 大阪平野や関東平野、濃尾平野のような厚い堆積層を持つ地盤は、周期の長い地震波(表面波:ラブ波・レイリー波)を増幅させる。この周期(2秒〜10秒程度)が、超高層ビルの固有周期と一致すると、共振により揺れは増幅し続ける。
- 「ブレーキ」としての破壊: 咲洲庁舎の被害について、福和氏は「建物が自らの一部を壊すことでエネルギーを吸収し、ブレーキをかけた」と表現した。つまり、倒壊こそ免れたものの、構造部材が損傷することで辛うじて生き残ったのである。
3.2 不可視の危機:杭基礎の破断
現代日本の都市開発における最大のアキレス腱として福和氏が指摘するのが、「軟弱地盤上の杭基礎」である。
- 構造: 東京湾岸や名古屋の沖積平野では、支持層まで数十メートルの杭を打って建物を支えている。
- リスク: 地震時、地盤は大きく変形するが、杭の先端は支持層に固定され、頭部は重い建物に固定されている。この結果、杭には強烈な曲げモーメントとせん断力がかかり、地中で破断する。
- 検証の不在: 福和氏は「杭は抜いて検査できない」ため、過去の地震(2011年など)ですでに多くの杭がヒビ割れている可能性を指摘する。次の南海トラフ地震でこれらの杭が完全に破断すれば、建物自体が強固でも、足元から傾斜・沈下し、居住不能となる「マンションの墓標」化が避けられない。
3.3 建築教育の欠落と「F=ma」の忘却
福和氏は、日本の建築家(Architect)と土木技術者(Civil Engineer)の教育カリキュラムの乖離を厳しく批判する。
- 土木: 安全性こそが至上命題であり、力学教育が徹底されている。
- 建築: 意匠、計画、環境設備に時間が割かれ、構造力学や地震工学を深く理解している設計者は一割程度に過ぎない。
- ブラックボックス化: 多くの建築家は構造計算をソフト任せにしており、物理の基本法則($F=ma$:力は質量と加速度の積)を肌感覚で理解していない。その結果、「ガラス張りの美しいビル」を作るために、構造的な粘り強さ(冗長性)を犠牲にした設計が横行している。
3.4 バリュー・エンジニアリング(VE)の罪
経済合理性を追求する「バリュー・エンジニアリング(VE)」という言葉の下で、安全率が極限まで削られている現状が明かされた。
- ギリギリの設計: コンピュータ解析の進化により、建築基準法を「ギリギリ満たす」設計が可能になった。これは「無駄がない」と賞賛されるが、防災の観点からは「余裕(マージン)がない」ことを意味する。
- 想定外への脆弱性: 想定内の地震動には耐えるが、想定をわずかに超える「オーバーシュート」が発生した瞬間、余裕のない建物は脆くも崩壊する。福和氏はこれを「お金儲けのための超高層ビル」と断罪した。
- 防災庁の創設と「懺悔(Confession)」のシステム
2025年12月26日、政府は防災庁の設置に向けた基本方針を決定した 1。この新組織に対する福和氏の期待は、単なる指揮命令系統の一元化ではない。
4.1 東京の限界と「顔の見える関係」
福和氏は、12月18日に東京都庁で行われたサイバーテロ訓練 を通じて、東京の防災体制の致命的な欠陥を痛感した。
- 東京の欠陥: 組織が巨大すぎて縦割りが深刻であり、担当者が頻繁に入れ替わるため「顔の見える関係」がない。そのため、誰も本当のこと(弱点)を言わず、体裁を取り繕うことに終始する。福和氏は東京を「まるで駄目」と切り捨てた。
- 名古屋の強み: 産官学のリーダーが互いに個人的な信頼関係を持ち、本音で議論できる。この「人間関係のインフラ」こそが最強の防災力である。
4.2 防災庁の真の機能:「白状する場」
福和氏が提唱する防災庁の核心的機能は、各省庁や企業が抱える「不都合な真実」を、罰せられることなく吐露できる「懺悔室」としての役割である。
- 現状: 厚労省は「病院は大丈夫」、経産省は「電力は復旧する」、国交省は「道路は啓開できる」と、それぞれの所管内で完結した(しかし現実味のない)計画を立てる。
- あるべき姿: 防災庁というクロス・セクトラルな場において、「実は非常用発電機の燃料は3日分しかない」「医師は病院にたどり着けない」といった実情を事前に「白状(Confess)」させる。
- 目的: 弱点を事前に共有することで初めて、「では船で医療を提供しよう」「自衛隊の燃料輸送を優先しよう」といった実効性のある連携(Renkei)計画が可能になる。2026年1月から始まるフェリーを活用した「災害時病院船」の運用開始は、このアプローチの成功例の一つである。
4.3 政治的・行政的タイムラインの整合
2025年末の動きは、来るべき南海トラフへの焦りの表れである。
- 12月19日:首都直下地震報告書。
- 12月24日:成長戦略会議(17の危機管理課題決定)。
- 12月26日:防災庁基本方針閣議決定。
これらは、公明党などが提言してきた「専門人材の育成」「指揮機能の強化」 11 を具現化する動きであり、福和氏のような専門家が裏で「くすぐったり、脅したり」しながら、官僚機構を動かしてきた成果である。
- レジリエンスの経済学:200万円の投資と2000万円の浪費
本報告書における最も衝撃的なデータ比較は、事前防災と事後復旧のコストパフォーマンスに関するものである。
5.1 仮設住宅「2000万円」のパラドックス
福和氏の独自の調査(公式資料にはない「白状」に基づくデータ)によれば、災害後の応急仮設住宅の建設コストは、熊本地震当時の約600万円から、2026年時点では約2000万円へと暴騰している。
- 内訳: 建設費の高騰、人手不足、後の解体撤去費(約1000万円近くかかるとの示唆)、インフラ整備費。
- 災害公営住宅: 1戸あたり5000万円。
- 生活再建支援金: 最大300〜600万円。
5.2 経済合理性の欠如
これに対し、木造住宅の耐震改修工事は、補助金を活用すれば**数百万(150〜300万円程度)**で実施可能である。
- 不合理な政策: 国は、倒壊した後の被災者支援には1世帯あたり2000万円以上(仮設+公営住宅+支援金)の国費を投入する準備があるにもかかわらず、倒壊を防ぐための事前投資(耐震改修)には十分な予算を割いていない。
- 結論: 「起きてから金を使う」政策から「起きる前に金を使って被害を減らす」政策への転換こそが、財政的にも最も合理的である。
5.3 統計の欺瞞:耐震化率90%の嘘
政府は住宅の耐震化率が約90%に達したと公表しているが、福和氏はこれを「嘘」と断じる。
- データのからくり: 「住宅・土地統計調査」は居住者の自己申告に基づく。「耐震診断をしていないが、多分大丈夫」という回答も「耐震性あり」に分類される場合がある。また、空き家や古い長屋が統計から漏れている。
- 実態: 能登半島地震の被災地(輪島・珠洲)の実態や、地方都市の旧市街地(耐震化率30〜40%)を見れば、90%という数字がいかに現場感覚と乖離しているかは明白である。
- 豊田市 vs 名古屋市栄: 豊田市は見かけ上の数字は良いが、合併前の旧町村部のデータが希釈されている可能性がある。一方、名古屋の繁華街・栄(広小路通)は、表通りこそ立派なビルが並ぶが、一歩裏に入れば(駐車場や路地裏)、倒壊必至の老朽建物(ゾンビビル)が密集している。これらは緊急輸送道路沿道ではないため、耐震診断結果の公表義務がなく、リスクが隠蔽されている。
- 南海トラフ地震シナリオ:32万人の死者と「連携」の崩壊
6.1 32万人死者想定の「賞味期限切れ」
2012年頃に内閣府が出した「死者最大32万3000人」という想定は、「対策を講じれば8割減らせる」という希望的観測とセットであった。しかし、福和氏は「10年間チェックしなかった結果、誰も守らなかった」と憤る。
- 現状: 耐震化も津波避難タワーの整備も道半ばであり、民間(国民)の意識変革も進んでいない。したがって、2026年時点でのリアルな死者想定は、依然として「最大クラス」に近いままである。
- 震度分布の再評価: 震度6弱以上の範囲は能登半島地震の300倍、被災人口は6000万人に及ぶ。日本の国土の3割が壊滅的打撃を受けるこのシナリオにおいて、「他所からの応援」は期待できない。
6.2 インフラ連鎖の崩壊(Cascading Failure)
福和氏が12月8日のバスツアーで体感したように、各インフラは相互依存している。
- 泡消火剤の枯渇: 2003年十勝沖地震の際、石油タンク火災の消火のために日本中の泡消火剤を使い果たした。南海トラフ地震で京葉工業地帯や伊勢湾岸のコンビナートが同時多発的に炎上した場合(スロッシング現象による発火)、消火剤は瞬時に枯渇し、後は燃え尽きるのを待つしかない。
- 医療の孤立: 病院があっても、電気、水、医薬品の配送網、そして医師・看護師自身の被災により、医療機能は麻痺する。「災害関連死」が直接死を上回る可能性が高い。
- 結論と提言:サバイバルのための処方箋
7.1 結論:2026年のリアリズム
2025年後半の事象は、日本列島が活動期に入ったことを告げるサイレンであった。三陸沖の「あわや」という状況や、青森沖での初の臨時情報発令は、我々に残された時間の少なさを示している。構造工学的には、高層ビルや杭基礎の隠れた欠陥が時限爆弾として存在し、行政的には縦割りの弊害が現場の足を引っ張っている。
7.2 提言
- 「防災庁」を真の司令塔に
新設される防災庁は、各省庁のメンツを潰してでもリスクを洗い出す権限を持つべきである。「できないこと」を事前に認めさせ、それに基づいた現実的な(泥臭い)代替案(フェリー病院、自衛隊による啓開等)を策定せよ。
- 耐震改修への公的資金投入の抜本的拡大
「事後復旧2000万円」対「事前改修200万円」の経済的不合理を解消するため、耐震改修に対する補助率を大幅に引き上げ(あるいは全額国費負担)、強制力を持って都市の不燃化・耐震化を進めるべきである。これは景気対策としても機能する。
- 「顔の見える関係」の構築
東京の巨大な官僚機構に依存せず、名古屋モデルのように、地域ごとの産官学民のリーダーが直接対話できるネットワークを構築せよ。災害時、最後に頼りになるのはマニュアルではなく、人と人との信頼関係である。
- 建築教育の改革と消費者の賢明化
意匠偏重の建築教育を見直し、構造力学を必修化せよ。また、消費者(国民)は、見かけの豪華さではなく、杭や地盤、構造の粘り強さを評価して住宅を選ぶ目を養う必要がある。「赤い本」「黄色い本」のような教材を通じた草の根の教育が不可欠である。
- 「想定外」を許さない覚悟
八木教授の「オーバーシュート」理論が示すように、自然は人間の「想定」を容易に超える。すべての計画において、マージン(余裕)を持たせ、最悪のシナリオ(インフラ全停止、孤立)を前提とした自律分散型の備え(水・食料・電源の確保)を個々人が徹底するほかない。
付録:データと年表
表1: 2025年後半の主要災害・事象クロノロジー
| 日付 | 事象 | 規模・被害 | 備考・教訓 |
| 11月9日 | 三陸沖地震 | M6.9, 震度4 | M6.8の境界線上だったため注意情報出ず。「オーバーシュート」の予兆。 |
| 11月18日 | 佐賀関火災(大分) | 170棟焼失 | 糸魚川型の大規模延焼。木造密集地の脆弱性露呈。 |
| 11月26日 | 香港超高層ビル火災 | 死者100名超 | 垂直避難の限界。煙突効果とスプリンクラー不全。 |
| 12月8日 | 青森県東方沖地震 | M7.5, 震度5強 | 史上初の「後発地震注意情報」発令。社会の緊張と疲弊。 |
| 12月8日 | 福和氏バスツアー | (豊田-碧南) | インフラ相互依存(水→電気→医療)の実地確認。 |
| 12月18日 | 東京都サイバーテロ訓練 | – | 東京の連携不足(「まるで駄目」)が露呈。 |
| 12月26日 | 防災庁基本方針閣議決定 | – | 縦割り打破と「懺悔」の場としての期待。 |
表2: 住宅コスト比較(事前 vs 事後)
| 項目 | 概算費用 | 負担者 | 経済的効果 |
| 耐震改修 | 200万〜300万円 | 所有者(一部補助) | 資産保全、命を守る、低コスト。 |
| 応急仮設住宅 | 約2000万円 | 国庫(税金) | 使い捨て、資産形成せず、超高コスト。 |
| 災害公営住宅 | 約5000万円 | 国・自治体 | 恒久対策だが財政圧迫大。 |
本報告書は、2026年1月16日の「げんさいカフェ」における福和伸夫氏の発言および2025年後半の公開情報を基に作成された分析レポートである。