通学路で地震が起きたら、子どもは何を見て判断するか――被害事例から考える防災教育
2026年9月29日に開かれた防災学術連携体の「令和8年熊本地震・2か月報告会」で、日本安全教育学会の後藤健介先生(大阪教育大学)は「地震被害からみる防災教育内容の検討」と題して発表しました。
発表の中心にあったのは、避難の手順を覚えるだけでなく、子ども自身がその場の危険を見て、身を守る行動を選べるようにするという課題です。
地震に遭う場所は教室や自宅とは限りません。
登下校中や遊びに出かけた先など、先生や保護者がすぐそばにいない場面も想定する必要があります。
防災教育の時間と、教える側の課題
後藤先生が紹介した教員への調査では、災害時の避難訓練を除く防災教育の実施頻度について、回答者826人のうち「年1回程度」が32.3%、「半年に1回程度」が45.8%、「まったく行っていない」が7.1%でした。
また、教育に充てる時間を「かなり十分」「まあまあ十分」と答えた人は計29.6%でした。
これらは発表で示された調査の結果であり、すべての学校の現状を表す数値ではありません。
先生は、教員自身が地震や建物被害の仕組みを学ぶ機会も大切だと指摘しました。
「何をしてはいけないか」に加え、なぜ危険なのか、どのような場所なら危険を避けられるのかを教えるには、大人の側にも知識が必要です。
文部科学省の防災教育資料も「知る、備える、行動する」という視点を掲げています。
知識を覚えることと、実際の場所で判断して動くことを結びつける視点です。
通学路では、何が倒れ、何が落ちてくるか
発表では、2016年の熊本地震で歩道に倒れたブロック塀と、2018年の大阪府北部地震で倒壊した小学校プールのブロック塀が写真で示されました。
大阪府北部地震では、倒れた塀の下敷きとなった女子児童が亡くなっています。
学校の外にある危険を、日頃から教育と点検の両面で捉える必要性を示す事例です。
後藤先生が挙げたのは、ブロック塀だけではありません。
看板やガラス、エアコンの室外機などの落下、建物の外壁や建物自体の損傷・倒壊にも注意が必要だと説明しました。
揺れが収まった時点で立っている塀も、その後の揺れで倒れるおそれがあります。
避難するときも、家に戻るときも、周囲の状態を見直さなければなりません。
文部科学省は大阪府北部地震後、学校にブロック塀等の安全点検を求めるとともに、通学路を確認し、児童生徒が自分で身を守れるよう指導することを求めました。
そこで示された基本は、「落ちてこない・倒れてこない・移動してこない」場所を探すことです。
ブロック塀の危険を「理由」とともに学ぶ
発表資料では、標準的なブロックでも1個あたり約7キログラムあり、複数がつながって倒れれば、そばを通る人に重大な被害を及ぼし得ると説明されています。
また、後藤先生が紹介した地域別の調査では、「危険、あるいは注意が必要」とされた塀の割合に九州エリア38%、関東エリア19%という差が示されました。
ただし、この割合は調査対象となった塀についての結果であり、地域全体の塀の危険率を示すものではありません。
子どもに塀の構造上の安全性を判定させることはできません。
専門的な点検や補修は所有者・管理者と専門家が担うものです。
一方、防災教育では「塀のすぐそばで揺れたら、どこへ離れるか」「倒れた塀が道をふさいでいたら、どうするか」を具体的に考えられます。危険箇所を見つけたときに、大人や学校へ伝えることも学びの一つになります。
倒れた建物と、片付けの際の危険
後藤先生は、損傷した建物の写真も示しました。
地震後には、外壁の破片が落ちる危険や、傷んだ建物に近づく危険があります。
被災地で活動するときは、倒壊した建物のがれきや粉じんにも目を向ける必要があると述べています。
その一例が石綿(アスベスト)です。
古い建物が損壊し、石綿を含む建材が露出したり、解体・廃棄物処理が行われたりする際には、適切な飛散防止策が必要になります。
これは子どもに建材を見分けさせるという意味ではありません。
壊れた建物やがれきには不用意に近づかず、片付けを善意だけで始めないことを、大人も含めて共有する課題です。
弥富市で考えたいこと
弥富市は、避難路や通学路に面したブロック塀の倒壊が大きな被害につながり得るとして、所有者・管理者に日頃からの点検を呼びかけています。
また、学校、保護者、地域、道路管理者、交通管理者が連携する通学路の安全対策も進めています。
後藤先生の発表を弥富市での学びに結びつけるなら、普段歩く道を子どもと大人が一緒に確かめることが出発点になります。
塀、外壁、看板などの位置を見ながら、「ここで揺れたら、どこが安全そうか」「いつもの道を通れなくなったらどうするか」を話し合う。
見つかった危険箇所は、学校や地域による点検・改善へつなげる。
子どもの判断力を育てる教育と、大人による危険箇所の改善を一緒に進めることが重要です。
発表は、防災教育を子どもだけの学習で終わらせず、教員や保護者、地域の大人も学び続ける必要があると問いかけるものでした。
