水道管が一斉に壊れる前に――熊本地震の被害予測と「相転移」から弥富の備えを考える
2026年9月29日の「令和8年熊本地震・2か月報告会」で、名古屋大学の平山修久先生は、地震による水道管の被害を発災翌日に推定した研究と、管路の耐震化が持つ意味を報告しました。
水道の被害は「何戸が断水したか」が分かるころには、すでに暮らしや医療に影響が広がっています。
地中のどこで、どの程度の管が壊れている可能性があるのか。
復旧に必要な人員や資材を、どこへ先に向けるべきか。
平山先生の研究は、被害の全容が見えない初動期に、その判断材料をつくろうとするものです。
発災翌日に「約1,500件」を推定した方法
平山先生の研究では、まず国勢調査の人口分布、給水区域、水道統計などの公開データを使い、約250メートル四方の地域ごとに、水道管がどれほど埋まっているかを推定します。
管の材質、太さ、布設からの年数も考慮します。
そこへ地震の揺れや地盤・液状化に関する情報を重ね、管が被害を受ける可能性を計算します。
一般的な被害想定では、「管路1キロメートル当たり何件壊れるか」という被害率から、地域全体の件数を見積もります。
平山先生が紹介した離散的水道管路被害推定は、個々の管体に被害が生じる確率を考え、その結果を積み上げる手法です。
揺れの強さだけでなく、管種や継手、口径、経年、液状化などの条件が違えば、被害の起こりやすさも変わります。
令和8年熊本地震では、この方法によって7月29日、熊本県内の管路被害を平均約1,510件と推定しました。
発表資料に示された1,000回の計算結果は、約1,365~1,626件です。
これは計算条件の不確かさを扱うために繰り返した結果の幅であり、実際の破損箇所をすべて確認した数でも、「必ずこの範囲に収まる」という保証でもありません。
発災直後に被害の規模と分布を見積もり、調査や広域応援の優先順位を考えられる点に価値があります。
「相転移」とは何か
平山先生が強調したのが、**水道被害の「相転移」**です。
氷が水に変わると性質が変わるように、災害でも被害が一定の条件を超えると、単に破損件数が増えるだけでは済まず、社会への影響の現れ方が変わる、という考え方です。
水道管の破損が限られていれば、漏水箇所を調べ、順次修理できます。
しかし多数の箇所が同時に壊れれば、調査員、修理班、管材、給水車が足りなくなり、断水の長期化が医療、福祉、衛生、消防、避難生活にも影響し得ます。
個々の故障への対応から、地域全体の水をどう確保するかという問題へ変わるのです。
これは講演の「相転移」を、災害対応の観点から説明したものです。
発表では、過去の被害との分析を踏まえ、全管路に占める耐震管の割合が20~30%程度に達すると、管路被害率の傾向が変わる可能性が示されました。
熊本の事例を説明するスライドには「耐震管率が30%以下→管路被害で相転移が発生」と記されています。
ただし、30%は全国一律の安全基準でも、そこを超えれば断水しないという境界線でもありません。
揺れ、液状化、配水池、重要な管の位置、復旧能力を合わせて見る必要があります。
耐震化率が同じでも、「どこをつなぐか」で結果は変わる
例えば、配水場から病院へ至る管路の途中に弱い区間が残っていれば、ほかの管を更新して全体の耐震化率を上げても、その病院への給水は止まる可能性があります。
平山先生は、重要施設と配水拠点を**「線として」耐震化すること**や、配水池・導水管・送水管から各家庭へ向かう配水管まで、水道システム全体で考えることを課題に挙げました。
この点で、数字の読み方にも注意が必要です。全管路の耐震管率と、太い幹線を中心に集計する基幹管路の耐震化率は、分母が違います。
基幹管路が丈夫でも、住宅地や施設へつながる管が多数壊れれば断水は起こり得ます。
逆に、管路だけを強くしても、水を受け取る施設やためる配水池が使えなければ給水できません。
弥富を含む海部南部水道企業団の現状
弥富市の上水道は、海部南部水道企業団が愛西市の一部、飛島村などとともに運営しています。
企業団の新水道ビジョンは、管内で最大震度6強~7、広い範囲で高い液状化危険度を想定しています。
熊本の数字をそのまま弥富へ当てはめることはできませんが、水道管の被害を地盤条件と併せて考える必要があります。
企業団の公表資料を並べると、検討すべき点が見えてきます。
| 項目 | 公表資料に示された内容 |
|---|---|
| 管路の耐震化 | 2024年3月末時点で総延長約881kmのうち耐震管は約158km。全管路の約17.9% |
| 地震による管路被害想定 | 同時点の管路構成を用いた企業団の計算では4,532箇所 |
| 配水池 | 2025年3月末時点の耐震化率は容量ベースで30.7%。弥富配水場の配水池は耐震性が課題 |
| 水源 | 通常の水源は愛知県営水道からの受水が100%。保有する非常用の井戸も、水質や施設の状態からそのまま飲料水源にできるとは限らない |
| 今後の管路整備 | 配水池から医療・避難などの重要施設へつながる管路33.1km、総事業費51億円の耐震化を計画 |
4,532箇所は弥富市だけの数ではなく、企業団の給水区域全体について、特定の想定地震と計算方法で出した予測値です。
熊本地震の「約1,500件」は別の地域・地震・モデルによる推定であり、大小を直接比べて危険度を判断することはできません。
耐震管約158km、配水池30.7%も集計日が異なるため、最新値の確認が必要です。
企業団は2026年9月更新の耐震整備状況も公表しています。
また、新水道ビジョンでは重要施設への管路耐震化を2026年度から進める計画でしたが、更新資料には2027年度から施工予定と記されています。
対象施設、優先順位、着工時期が現在どう整理されているか、確認したい点です。
断水時の「水を運ぶ計画」も、被害予測と一緒に考える
耐震化には時間がかかります。企業団の計画には、配水場での拠点給水、県の送水管から学校などへ仮設配管をつなぐ方法、給水車による運搬給水が示されています。
ただし、想定する給水場所によって方法は異なります。
例えば掲載された計画では、弥富北中学校は仮設給水、弥生小学校と海南病院は運搬給水に分類されています。
これは計画上の方法であり、災害時には県の送水管、道路、配水場などの被害状況によって変更が必要です。
平山先生の研究は、管の破損が多そうな場所と、応急給水拠点の情報を地図上で重ねる取り組みにもつながっています。
被害が大きいと推定された地域では給水拠点の開設期間が長くなる傾向も、発表で示されました。管を直す順序と、直るまで水を届ける順序を一体で考えることが重要です。
弥富市では、熊本のように地域の井戸を広く代替水源として使えると見込むべきではありません。
企業団からの給水、県水、応急給水設備、運搬経路がそれぞれ使えない場合まで重ねて検討する必要があります。
弥富市と企業団に確認したいこと
平山先生の報告を地元の備えに生かすため、次の情報を分かりやすく示してほしいと思います。
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最新の被害予測:企業団の「4,532箇所」という想定は、更新が進んだ現在の管路や新しい地震・液状化想定でどう変わるのか。
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つながる耐震化:配水場から海南病院、避難所、福祉施設などに至る経路のうち、耐震化済みの区間と未整備区間はどこか。
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施設側の弱点:弥富配水場の配水池や県水の受水設備が被災した場合、どの配水系統で、どの程度の期間、給水が難しくなる想定か。
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整備工程:重要施設へつながる33.1kmの事業は、いつ、どの施設への経路から着手し、年度ごとに何km整備するのか。
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断水中の供給:道路の液状化や浸水で給水車が通れない場合、仮設配管や別ルートをどう使うのか。必要な水量と人員は確保できるのか。
水道の耐震化は、割合を毎年発表するだけでは成果を判断できません。
どの施設まで水が届き、届かない場合には何日で、どの方法によって補うのか。
熊本地震の被害予測と「相転移」の議論は、その問いを弥富でも具体的に検証する必要を示しています。
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