【地震は終わっていなかった】
2016年熊本地震から10年。その影響は消えず、2026年熊本地震へつながった可能性が指摘されています。
東北大学の遠田晋次教授が、地震と活断層の仕組みを分かりやすく解説しました。
講演の中心的なメッセージは、
「小さな地震が普段より増えるほど、大きな地震も起こりやすくなる。近くに活断層があれば、さらに注意が必要」
というものです。
講演では、
・地震が起きる仕組み
・断層が連鎖する「ドミノ現象」
・2016年から続く地殻変動
・日奈久断層帯・八代海区間の「割れ残り」
・断層直上の学校や道路、ライフラインの危険
・八代海で想定すべき津波リスク
などが詳しく説明されています。
特に、ブロックを使った実験、地震分布図、応力変化の図、2016年と2026年の断層比較は、文章だけでは分かりにくい仕組みを視覚的に理解できます。
図表がとても分かりやすい講演です。ぜひ、元の動画もご覧ください。
▶「2026熊本地震」遠田晋次・東北大学教授
https://youtu.be/57QQLGuAM8g
「発生確率が低い」ことは、「安全」という意味ではありません。自分の地域にどのような活断層があり、動いたときに何が起きるのか。改めて確認しておく必要があります。
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小さな地震が増えると、大きな地震も起こりやすくなる
「2026熊本地震」遠田晋次・東北大学災害科学国際研究所教授 編集講演録
開催日: 2026年8月25日
会場: 日本記者クラブ
講師: 遠田晋次・東北大学災害科学国際研究所教授
司会: 滝順一・日本記者クラブ企画委員
動画: 日本記者クラブ・YouTube
編集上の注記
この文書は、動画の自動文字起こしをもとに、話し言葉の重複、言い直し、明らかな誤変換を整理した「読みやすい編集講演録」です。発言の趣旨と論理の流れを保ちながら、見出しを加え、スライドを見なければ伝わりにくい部分には最小限の補足を入れました。厳密な逐語録ではありません。
講演の背景
2026年7月28日、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、最大震度7を観測しました。震源となったとみられる日奈久断層帯は、2016年熊本地震を起こした布田川・日奈久断層帯の延長上にあります。
この講演は、発生から約1か月の時点で、現地の断層調査や地震活動の分析をもとに、2026年の地震がなぜ起きたのか、2016年の地震とどうつながるのか、今後どこに注意すべきかを解説したものです。
この講演で最も伝えたいこと
本日、皆さんに持ち帰っていただきたいメッセージは、非常に単純です。
小さな地震が普段より多くなればなるほど、大きな地震も起こりやすくなる。しかも、その近くに活断層があれば、さらに注意が必要である。
これは、ここ10年、20年ほどの地震活動の観測や研究から、改めて明らかになってきたことです。
2016年の熊本地震から10年がたちました。しかし、熊本周辺の地震活動は終わっていませんでした。私はこれまで、熊本市の防災イベントや八代市での講演などを通じて、日奈久断層帯周辺の活動に注意を促してきました。2025年にも「2016年熊本地震から9年たっても、地震活動はまだ終わっていない」と説明していました。
実際、日奈久断層帯周辺では、2016年の地震以前と比べて地震活動が高い状態が続いていました。解析によっては、地震発生前の約23倍という活動度が示される地域もありました。そこへ今回の2026年熊本地震が起きたのです。
第1部 地震とは何か
1 地震は、地下の断層が突然滑る現象
断層とは、地下の岩盤にすでにできている大きな亀裂です。
亀裂のない岩石を新たに壊すには、非常に大きな力が必要です。しかし、一度亀裂ができると、その面では「摩擦」の問題が重要になります。断層面が普段はくっついていて、周囲から力を受け続け、限界に達した瞬間に突然滑る。これが地震です。
机の上に紙やすりを置き、その上にブロックを載せ、ゴムを介して横から引く実験を考えてみてください。ゴムを引いてもブロックはすぐには動きません。しばらく力をため込んだ後、突然「ガクッ」と滑ります。これを「スティック・スリップ(固着滑り)」といいます。
重要なのは、この単純な実験でも、ブロックが等間隔では動かないことです。すぐ滑ることもあれば、長く止まった後に滑ることもあります。南海トラフ地震などを「約100年ごと」と表現しても、100年ぴったりに起こるわけではありません。自然現象には、もともとこうした揺らぎがあります。
2 マグニチュードは何で決まるのか
地震の規模は、おおむね次の三つで決まります。
- 断層の長さ
- 断層の幅
- 断層がどれだけずれたか
この三つから地震モーメントを求め、それをマグニチュードに換算したものが「モーメントマグニチュード」です。
2011年の東北地方太平洋沖地震では、断層の長さが約500キロ、幅が約200キロ、ずれが数十メートルに達しました。一方、2016年熊本地震は、断層の長さが数十キロ、幅が約20キロ、ずれが数メートルという規模です。
マグニチュードが1大きくなると、地震のエネルギーは約32倍、2大きくなると約1,000倍になります。
3 震源は「断層が滑り始めた場所」
テレビの地図に表示される「×印」は震央です。そこに深さの情報を加えたものが震源です。
震源とは、断層全体の中心ではなく、断層が滑り始めた地点です。そこから断層破壊が秒速約2キロで広がっていきます。
東北地方太平洋沖地震では、長さ約500キロの断層が破壊するまでに約3分かかりました。2016年熊本地震のような数十キロ規模の断層であれば、破壊は数十秒程度です。
2026年熊本地震では、地面が揺れ始めた後に、水田を横切る地表断層が現れる様子が映像に捉えられました。地震波のうちS波は秒速約3キロで伝わるのに対し、断層破壊は秒速約2キロです。そのため、先に揺れが届き、その数秒後に断層のずれが地表へ到達したと考えられます。
第2部 小さな地震と大きな地震の関係
4 マグニチュードが1違うと、地震の数は約10倍違う
地震には、「小さな地震は多く、大きな地震は少ない」という統計的な法則があります。
ある地域でマグニチュード2以上の地震が100回起きるなら、マグニチュード3以上はおよそ10回、マグニチュード4以上はおよそ1回、という関係です。地域による違いはありますが、大まかな傾向として成り立ちます。
したがって、小さな地震の発生数が普段の10倍になれば、大きな地震が起こる可能性も全体として高くなります。近くに大きな活断層があれば、活発化した地震活動がその断層の破壊につながる可能性があります。
ただし、これは「小さな地震が増えれば、必ず大地震が起きる」という意味ではありません。小さな地震が増えても大地震に至らないことは多くあります。一方で、前触れなく大地震が起きることもあります。個々の地震を日時まで予知できるという話ではなく、地震が起こりやすい状態を評価するための考え方です。
5 周囲の変化が断層を動かす
断層を動かす作用には、大きく二つあります。
一つは、断層を横にずらそうとする力です。もう一つは、断層面を押さえつけている力の変化です。
滑る直前まで力を受けたブロックの上に重りを載せておき、その重りを急に外すと、ブロックが滑ります。横から引く力を変えなくても、押さえつける力が弱くなるだけで滑り始めるのです。
地震、火山活動、地下の流体、地殻変動などによって周辺の応力が変わると、断層を動きやすくしたり、逆に動きにくくしたりします。地震学では、この影響を「応力伝播」あるいは「ストレス・トランスファー」と呼びます。
第3部 地震は連鎖する
6 三つのブロックが示す「断層間相互作用」
先ほどのブロック実験で、三つのブロックを横に並べてゴムでつなぐと、一つのブロックの滑りが隣のブロックを動かすことがあります。同時に動くこともあれば、少し時間を置いて動くこともあります。
これは、隣り合う断層がお互いに影響を与える「断層間相互作用」を表しています。
地震は、一つの断層だけで完結するとは限りません。一気に複数の断層が破壊すれば一つの巨大地震になり、時間を置いて破壊が進めば複数の大きな地震として現れます。
7 トルコ・北アナトリア断層のドミノ現象
世界的に有名な例が、トルコの北アナトリア断層です。
1939年のエルジンジャン地震を皮切りに、1942年、1943年、1944年、1957年、1967年、1999年と、断層の破壊域が次々に西へ移りました。1999年8月のイズミット地震の後には、同年11月に隣接区間で大きな地震が起きています。
現在は、さらに西側のイスタンブール周辺へ応力が移った可能性が議論されています。まさに、時間差を伴うドミノ倒しです。
日本にも、糸魚川―静岡構造線断層帯や中央構造線断層帯のような長大な活断層があります。布田川・日奈久断層帯も、全体として見れば約100キロに及ぶ長い断層系です。したがって、同じような連鎖を考える必要があります。
第4部 2016年熊本地震から2026年熊本地震へ
8 2016年熊本地震は二段階で起きた
2016年4月14日、まずマグニチュード6.5の地震が日奈久断層帯の北端付近で発生しました。その後、地震が多数続く中、4月16日にマグニチュード7.3の地震が発生しました。
このM7.3の地震では、主に布田川断層帯が大きく動き、日奈久断層帯北端の約5キロも50~60センチ程度ずれました。
一般に「余震」という言葉からは、「本震より小さな地震」という印象を受けます。しかし、英語の aftershock は、単に後から起こる地震という意味です。後続地震が最初の地震より大きくなる可能性もあります。
この経験を受け、気象庁は「最初の地震が本震で、その後は小さな余震」という思い込みを避けるため、熊本地震後、注意喚起の場面では「余震」という表現を控えるようになりました。
9 2016年の地震が周辺へ力を移した
2016年の地震後、GPS観測によって、震源の北側の地面は北へ、南側は南へ動いたことが確認されました。九州中部の地殻が場所によって引っ張られたり、圧縮されたりしたのです。
九州中部には、東西方向に延びる正断層が多くあります。南北方向に引っ張られた地域では、こうした断層が動きやすくなります。反対に圧縮された地域では、地震活動が抑えられることがあります。
実際、2016年熊本地震後の地震分布は、応力が増えたと計算された地域で活発化し、応力が減った地域では活動が低下しました。つまり、2016年の地震は、九州中部の地震活動の状態を広い範囲で変えたのです。
10 10年たっても地震活動は元に戻っていなかった
2016年の前10年間と、その後10年間の地震分布を比較すると、阿蘇、八代、熊本市周辺だけでなく、宮崎県北西部などでも活動の増加が見られます。一方、福岡県・大分県・熊本県の県境付近など、活動が減った地域もあります。
地域によっては、地震活動が2016年以前の水準へ戻るまで20年、30年、場合によっては40~50年かかると見積もられます。
内陸活断層の活動間隔は数千年規模です。そのため、人間にとっての10年は長くても、活断層にとってはほんの一瞬です。
11 日奈久断層帯には地震を起こす条件がそろっていた
2026年熊本地震が起きた理由として、次の三点が重なっていたと考えられます。
- 2016年熊本地震後も、小さな地震が活発な状態が続いていたこと
- 2016年の地震によって、日奈久断層帯へ応力が加わっていたこと
- 日奈久断層帯そのものが、地震を起こし得る段階にあったこと
2016年熊本地震後に行われたトレンチ調査などから、今回動いた日奈久区間北部では、平均活動間隔が約2,000~4,000年、前回の活動は約2,000年前だった可能性が示されていました。
この新しい調査結果を単純な試算に用いると、30年以内の発生確率はおよそ5~6%になる可能性があります。ただし、これは一定の仮定を置いた試算であり、条件によって値は変わります。また、この新しいデータは、公表されていた従来の長期評価にはまだ反映されていませんでした。
重要なのは、確率の数字だけではありません。「数%だから大丈夫」と受け止めるのではなく、活断層が存在し、動けばどの程度の地震と揺れが生じるのかを知ることです。
12 地震後も断層はゆっくり動いていた
2016年熊本地震直後、御船町高木では、断層を挟んで塀や建物がずれました。その1年後に同じ場所を調べると、約20センチの新たなずれが確認されました。
また、地震の1年後に修復して真っすぐ引き直した道路の白線が、2020年には約3センチずれていました。このように、本震後も断層がゆっくり動く現象を「余効すべり」といいます。
国内で、これほど目で見て分かる余効すべりが確認されたのは初めてでした。この継続的な変動も、2026年の地震を起こしやすくする方向に働いた可能性があります。
第5部 2026年熊本地震で分かったこと
13 地表に大きな断層のずれが現れた
2026年熊本地震では、水田などを横切って地表断層が現れました。場所によっては、右横ずれが約1メートル、上下方向にも約1メートルのずれが確認されています。
断層は南九州自動車道、小学校のグラウンド、住宅地などを横切り、道路、水道管、鉄道、建物に大きな被害を与えました。耐震性の高い建物であっても、建物の真下で地面そのものが1メートルずれれば、被害を完全に防ぐのは困難です。
地震防災では「揺れ」への耐震化だけでなく、「断層のずれ」そのものへの対策が必要です。
14 活断層をどう土地利用に反映するか
活断層上の土地利用を規制する「活断層法」のような仕組みを検討すべきだという議論があります。ただし、日本では断層の正確な位置を特定することが難しいという課題があります。
2016年熊本地震では、事前に示されていた断層線から100メートル以内に地表断層が現れた割合は、全体の約40%にとどまりました。広域の地図ではおおむね合っていても、拡大すると数十メートルから数百メートルずれることがあります。2026年の地震でも、既存の地図に線が引かれていなかった場所に断層が現れました。
このため、直ちに厳格な規制へ移るのは難しい面があります。しかし、少なくとも「どの地域に活断層があるのか」「重要施設やライフラインがどこで断層と交差しているのか」という情報を共有することは必要です。
15 線状インフラは「避ける」だけでは守れない
学校や病院などの重要施設は、可能であれば活断層を避けて建てることが基本です。しかし、道路、鉄道、新幹線、水道管、ガス管、パイプラインなどの線状インフラは、断層を完全に避けることができません。
その場合は、次のような対策が考えられます。
- 断層との交差地点を事前に把握する
- ずれを吸収できる構造や余裕を設ける
- 被災後にすぐ点検できる体制を整える
- 代替ルートや早期復旧手順を準備する
有名な例が、米国のトランス・アラスカ・パイプラインです。活断層を横切る部分に、断層のずれを逃がす可動構造を設けていました。2002年のデナリ断層地震で地面が数メートルずれた際にも、パイプラインの破断を防ぐことができました。
すべての施設に同じ高額な対策を施すことはできません。施設の重要度に応じて、耐変位設計、冗長化、応急復旧の準備を組み合わせる必要があります。
第6部 能登半島地震から学ぶ「小さな地震の活発化」
16 群発地震は普段の約400倍に達していた
2024年能登半島地震では、その約3年前から珠洲市周辺で群発地震が続いていました。2020年末ごろから活動が活発化し、普段の約400倍という猛烈な地震活動になっていました。
小さな地震と大きな地震の割合が大きく変わらないとすれば、大きな地震が起こる可能性も、統計的には大幅に高くなっていたことになります。しかも、その場所には海底活断層が存在していました。
能登半島では地下の流体、いわゆる「水」が群発地震に関係したと考えられています。しかし、「水がM7.6の地震を直接起こした」と単純化するのは適切ではありません。地下の流体や隆起などによって地殻の状態が変化し、活発な地震域から断層破壊が始まり、複数の断層へ広がっていったと見るべきです。
断層破壊は約150キロに及び、全体が動くまで約50秒かかりました。複数の断層が、ほとんど時間を置かずに連動した例です。
第7部 これから、どこに注意すべきか
17 八代海区間には「割れ残り」がある
2016年熊本地震で日奈久断層帯北部へ応力が加わり、2026年熊本地震でさらに南側の区間が動きました。しかし、その先の八代海区間には、まだ動いていない部分が残っています。
2026年の地震を加えた応力変化の試算では、八代海区間にさらに力が加わったと考えられます。現在も南芦北町や津奈木町、その南側などで、2016年以前より活発な地震活動が続いています。
したがって、日奈久断層帯の残る区間、とりわけ八代海区間は、今後も注意深く見ていく必要があります。
ただし、八代海区間の地下構造は複雑です。断層が複数に枝分かれしている可能性があり、途中で傾斜方向が変わるというモデルも示されています。今後、詳しい観測と解析が必要です。
18 八代海では津波にも注意が必要
海底は、陸上より断層を見つけやすい場合があります。陸上では雨風や浸食によって地形が削られますが、海底では堆積物の中に過去のずれが残るからです。音波探査によって、海底下の地層のずれを調べることができます。
八代海には、上下方向の変位を伴う複数の断層が確認されています。海底が上下に動けば、その上の海水も動くため、横ずれだけの場合より津波を起こしやすくなります。地震の揺れだけでなく、津波への備えも必要です。
19 「半割れ」問題は南海トラフにも共通する
長い断層やプレート境界の一部だけが先に動き、残りが時間差で動く問題は、南海トラフにも共通します。
1944年の昭和東南海地震の約2年後には、1946年の昭和南海地震が起きました。1854年には、安政東海地震の約32時間後に安政南海地震が発生しています。
プレート境界地震については、南海トラフ地震臨時情報など、時間差を想定した防災対応が制度化されつつあります。一方、活動間隔が数千年に及ぶ内陸活断層では、どのくらいの期間、どのような警戒を続けるべきか、まだ十分な仕組みがありません。
地震のメカニズムだけで答えを出すことはできません。避難行動、防災行政、地域社会の専門家と対話し、科学的な評価を実際の防災行動へ結び付ける必要があります。
20 地震予知はできなくても、危険な流れは捉えられる
地震の日時、場所、規模を事前に言い当てる「地震予知」はできません。
しかし、地震活動の増加、地殻変動、応力変化、周辺活断層の分布、過去の活動履歴を組み合わせることで、「どの地域で地震が起こりやすい状態になっているか」を評価することは少しずつ可能になっています。
課題は、そうした情報を社会がどう受け止め、防災へ生かすかです。
質疑応答
Q1 マグニチュード9の地震は、日本で100年に1回起きるのか
質問
マグニチュードと地震発生数の関係から見ると、M9級はおよそ100年に1回と考えてよいのでしょうか。東日本大震災をめぐる裁判の「予見可能性」とも関係するのではありませんか。
遠田教授
先ほど示した数字は、世界や日本列島全体を大まかに見た統計であり、特定の海域で100年に1回起きるという意味ではありません。
日本周辺には、千島海溝、日本海溝、南海トラフなど、M9級の震源になり得る場所が複数あります。日本列島全体で見た頻度と、特定の海域での再来間隔は分けて考える必要があります。
過去の津波堆積物などから、巨大津波を伴う地震が数百年程度の間隔で起きた可能性は研究されています。しかし、講演で示した大まかな統計だけを、個別地点の予見可能性の判断へ直接用いることはできません。
Q2 2016年と2026年で、同じ断層が再び動いたのか
質問
2016年と2026年の地表断層には一部重なる場所があるとのことですが、同じ断層が10年で再び大地震を起こしたという意味でしょうか。
遠田教授
そうではありません。二つの地震の破壊域の端が、一部重なっていると理解してください。
時間差で隣接区間が動いた際、その端部が重なる例は、トルコやイタリアの地震でも確認されています。また、大地震の主破壊とは別に、近くの断層が誘発され、地表近くの一部だけが動く「お付き合い断層」のような現象もあります。
重なった場所は、2016年地震後の余効すべりも続いていたところです。断層面の摩擦状態が、ほかの場所と異なる可能性があります。活断層が通常は数千年ごとに動くという理解を覆すものではありません。
Q3 活断層法を導入するには、断層位置の精度が足りないのでは
質問
活断層上の建築を規制しようとしても、断層が正確にどこにあるのか分からなければ制度化は難しいのではありませんか。
遠田教授
その通りです。今回、小学校の校庭に現れた断層も、既存の都市圏活断層図では線が引かれていなかった場所でした。
2016年熊本地震でも、事前の断層線から100メートル以内に現れた地表断層は全体の約40%でした。断層帯の大きな位置は分かっても、建物単位で正確な線を引くのはまだ難しいのです。
カリフォルニアのサンアンドレアス断層のように、活動が非常に活発で位置が明瞭な断層では規制しやすいのですが、日本では難しい断層が多くあります。ただし、規制が難しいからといって情報提供まで諦めるべきではありません。少なくとも、断層が存在する地域を住民や事業者に知らせることは重要です。
Q4 全国の市民は、活断層リスクをどう考えればよいか
質問
活断層地震は発生間隔が長く、被災地域も限られるため、自分事として意識されにくいのではないでしょうか。
遠田教授
まず、自宅や職場の近くにどのような活断層があるかを確認してください。
問題は、発生確率の数字が独り歩きすることです。「ほぼ0%」と示されると、安全だと思ってしまいます。しかし、調査データが不足していて信頼性が低い場合にも、便宜上、数値が示されることがあります。
確率だけでなく、その断層が動いた場合の地震規模と、自分のいる場所がどの程度揺れるのかを知ることが大切です。
未知の断層による地震もあるため、日本全国どこでも地震は起こり得ます。しかし、「どこでも同じ」と考えて既知の活断層を無視するのも誤りです。今回の熊本地震のような大規模な内陸地震は、やはり長大な活断層帯で起こります。
Q5 大地震の前には、必ず小さな地震が増えるのか
質問
1995年兵庫県南部地震や2016年熊本地震でも、事前に小さな地震が増えていたのでしょうか。
遠田教授
大地震のすべてに、分かりやすい前触れがあるわけではありません。1995年当時は、現在ほど小さな地震を詳しく捉えられる観測体制ではなかったため、直前の変化を十分に検証するのは難しい面があります。
2016年熊本地震の前には、日奈久断層帯付近でM5級を含む地震が何年か前から起きていました。一方、2005年の福岡県西方沖地震のように、それまで地震活動が目立たなかった場所で突然起きた例もあります。
将来、観測精度がさらに上がれば、微小地震の発生率の変化を捉えられるかもしれません。しかし、活動が活発化しても大地震に至らないことはあるため、「小さな地震の増加=大地震の予知」とは言えません。
Q6 活断層を避けられない重要施設は、どう守るのか
質問
小学校が避難所として使えなくなり、道路、新幹線、水道管も断層のずれで被害を受けました。どのような対策が必要でしょうか。
遠田教授
建物であれば、まず避けることが基本です。ただし、断層位置を正確に特定できないという限界があります。
線状の構造物は、断層を避けられません。そこで、断層との交差地点を把握し、ずれを吸収する構造を採用する、壊れても早く復旧できるよう準備する、といった対策が必要です。
米国のトランス・アラスカ・パイプラインでは、断層が動いても配管に直接大きな力がかからない可動構造を設け、2002年のデナリ断層地震で効果を発揮しました。費用はかかるため、施設の重要度に応じた対策が現実的です。
Q7 主要活断層帯で地震があまり起きていないのはなぜか
質問
長期評価の対象になった主要活断層帯で、実際に地震が起きた例は多くありません。評価が難しいのはなぜでしょうか。
遠田教授
主要活断層帯として詳しく評価されているのは100余りですが、日本には推定で2,000を超える活断層があると考えられます。
仮に各断層が平均1万年に1回動き、断層が2,000あるとすれば、日本のどこかでは平均5年に1回程度動く計算になります。しかし、詳しく評価した100余りだけに限れば、30年観測しても多くの地震が起きるとは限りません。
一方、主要活断層帯は長く、動いた場合の地震規模が大きくなるため、評価と対策は重要です。能登半島地震の震源断層は沿岸海域にあり、従来の主要活断層帯の枠組みに十分含まれていませんでした。現在は、沿岸海域の断層評価も進められています。
Q8 茨城県南部など関東の地震が増えると、大地震につながるのか
質問
茨城県南部では地震が頻繁に起きています。さらに大きな地震へつながる可能性はありますか。
遠田教授
関東東部では、フィリピン海プレート、太平洋プレート、陸側のプレートが重なり、深さ40~70キロ程度でプレート境界型の地震が多く起きます。熊本のような深さ約15キロの浅い活断層地震とは性質が異なります。
一般に、震源が深い地震は余震が少ない傾向があります。だからといって心配しなくてよいわけではありませんが、浅い活断層地震と同じ見方をそのまま当てはめるべきではありません。
Q9 日向灘の地震は、2026年熊本地震に影響したのか
質問
日向灘の地震後にも地殻変動が続いていました。今回の熊本地震へ影響した可能性はありますか。
遠田教授
影響がゼロとは言い切れませんが、距離があるため、直接の関係は強くないのではないかと思います。応力変化を計算し、詳しく解析する必要があります。
日向灘の地震後、霧島周辺で地震がやや増えた例はあり、その範囲までは影響が及んだ可能性があります。長期的に見た日向灘と熊本周辺の地震活動の関係を論じる研究もあります。
Q10 八代海区間の断層が細かく分かれているのは、調査不足なのか
質問
八代海区間の地図には細かな断層が多数描かれています。海の中で一本の断層を特定できないのですか。それとも、実際に細かく分岐しているのですか。
遠田教授
実際に多数の断層が分布しています。むしろ、海底の方が過去の断層を見つけやすい場合があります。
海底では雨風による浸食がなく、堆積物が積み重なります。音波探査によって地層のずれを調べると、複数の断層が確認できます。
上下方向に動く断層が多いということは、海底が変動し、その上の海水を動かす可能性があるということです。したがって、八代海では津波を起こす可能性にも注意しなければなりません。
結び――災害対応に必要なのは「余白」
会見の最後、遠田教授は色紙に「余白」と書きました。
普段から余裕がなければ、災害には対応できない。
これは、行政や組織の災害対応にも、私たち一人ひとりの生活にも当てはまります。予定、人員、物資、施設、判断のすべてが限界まで詰め込まれていれば、想定外の事態へ対応する余力がありません。
研究者にとっても、忙しさに追われるだけでは、じっくり考え、異変を捉えることが難しくなります。
「余白」は、単なる無駄ではありません。災害時に人と組織が考え、動き、立て直すための力です。
講演の要点
- 小さな地震が普段より増えると、大きな地震も統計的に起こりやすくなる。
- 地震は周囲の断層へ力を移し、時間差で次の地震を誘発することがある。
- 2016年熊本地震の影響は10年後も残り、2026年熊本地震につながった可能性が高い。
- 日奈久断層帯の八代海区間には割れ残りがあり、今後も警戒が必要である。
- 発生確率が低く見えても、安全を意味しない。活断層の位置、想定規模、揺れを知ることが重要である。
- 耐震化だけでなく、断層変位を避ける土地利用や、ずれを吸収するインフラ設計が必要である。
- 八代海区間では、地震の揺れに加えて津波も考える必要がある。
- 地震の日時を予知することはできないが、危険が高まる流れを観測し、防災に生かすことはできる。
- 災害対応には、人員、時間、設備、判断の「余白」が欠かせない。
