新幹線の長時間閉じ込め報道から考える、学校・福祉施設のトイレ対策
9月2日付の中日新聞一面に、新幹線の乗客が長時間にわたり車内に閉じ込められた場合のトイレ対策について、興味深い記事が掲載されていました。
記事によると、JR東海は東海道新幹線に携帯トイレを備蓄しています。
また、N700Sにはバッテリーが搭載され、停電時にも一部のトイレを使用できる仕組みがあります。
JR東海の公式資料でも、N700Sは長時間停電時に一部のトイレを使用できることが説明されています。
さらに2026年度から投入される車両では、停電などで長時間停止した場合、バッテリーを使って客室の空調を作動させる機能も導入されます。
JR東海「N700S量産車の仕様」/JR東海「N700Sの追加投入」
この報道から考えたいのは、学校、福祉センターなど、多くの人が利用する公共施設のトイレ対策です。
大災害でなくても、トイレ問題は始まる
停電や断水が結果的に1時間程度で復旧したとしても、施設を利用している人にとって、その1時間は決して短くありません。
小学校や中学校には、多くの児童・生徒がいます。
福祉施設には、高齢者、障害のある人、持病のある人など、トイレを長時間我慢することが難しい利用者もいます。
10分、20分なら職員の声掛けで対応できるかもしれません。
しかし、復旧時間が分からないまま「もう少し我慢してください」と言い続けることは、現実的な施設運営とはいえません。
トイレは、大災害が起きたときだけ必要になる備蓄品ではありません。
通常の停電、断水、配管故障、排水ポンプの停止などが発生したときにも必要となる、施設の業務継続設備です。
ただし、停電しただけで、すべての水洗トイレが直ちに使えなくなるとは限りません。
建物によっては重力だけで給排水できる場合があります。
一方で、給水ポンプ、地下汚水槽、排水ポンプ、自動洗浄装置などが電気に依存している施設もあります。
問題は、それぞれの施設で「何が止まると、どのトイレが使えなくなるか」を職員が理解し、すぐに判断できる状態になっているかどうかです。
「倉庫にある」から「その場で使える」へ
内閣府は、災害時に上下水道が使えなくなった場合に備え、平常時からトイレの使用方法、携帯トイレの備蓄、使用済み便袋の保管・処理方法を決めておくよう求めています。
発災直後には、既存の便器や個室に携帯トイレを取り付けて使用することも想定されています。
内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」
愛知県の避難所運営マニュアルにも、便器やトイレ室が壊れていなければ、便器に携帯トイレの袋を取り付けて使用することや、使用できない便器には「使用不可」の表示をすることが示されています。
愛知県「避難所運営マニュアル」
しかし、携帯トイレが施設内の離れた倉庫に保管されていた場合、停電した建物の中で、誰が取りに行き、誰が各トイレへ運び、誰が設置するのでしょうか。
この問題への具体的な回答となる先行例があります。
中央大学杉並高等学校では、停電すると排水ポンプが止まるため、校内69か所の洋式トイレブースすべてに防災トイレ用品を配置しています。
各ブースの袋には、携帯トイレ用の凝固剤、便袋、手袋、テープ、ウェットティッシュ、「使用禁止」の表示などが入っています。
トイレの扉の内側には使用方法も掲示されています。
導入後3年以上、いたずらや盗難はなく、年1回の点検と補充を行っていると報告されています。
日本トイレ研究所「トイレブース内のその場備蓄」
これは、携帯トイレを「備蓄している状態」から「必要になった瞬間に使える状態」へ変える取り組みです。
弥富市の学校や福祉施設でも、少なくとも最初の数回分については、各トイレエリアやトイレブース内に分散配置することを検討すべきではないでしょうか。
浸水のおそれがある施設では、備蓄品を上階にも分散しておく必要があります。
自治体でも対策が進み始めている
川崎市は2026年1月に「災害時のトイレ対策方針」を策定しました。
トイレの安全が確認できるまでは携帯トイレを使用すること、学校で携帯トイレの使い方を学ぶこと、地域と連携した訓練を行うことなどを盛り込んでいます。
川崎市「災害時のトイレ対策方針」
千葉市も、避難所となる施設に携帯トイレや簡易トイレを備蓄し、既存のトイレブースと便器を利用する方法を示しています。
また、平常時から備蓄品の内容と保管場所を確認することを求めています。
千葉市「避難所運営委員会活動マニュアル」
こうした対策を、避難所が開設されるような大災害だけに限定してはいけません。
児童・生徒や施設利用者がいる時間に停電や断水が発生した場合にも、同じ初動が必要です。
弥富市に提案したい五つの対策
1.トイレエリアへの「初動用セット」の配置
各トイレエリア、特に多目的トイレには、次の物品を収納した初動用セットを配置します。
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携帯トイレ用便袋・凝固剤
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不透明な回収袋・防臭袋
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使い捨て手袋
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ウェットティッシュ・手指消毒剤
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養生テープ
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「使用禁止」「携帯トイレ使用中」の表示
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使用済み便袋の一時保管場所を示す案内
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夜間停電用のライト
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生理用品などの衛生用品
トイレエリアには初動分を置き、倉庫には補充分を置く二段階の備蓄が現実的です。
2.使用方法を平常時から掲示する
停電や断水が発生してから説明書を探すのでは遅すぎます。
便器への袋の取り付け方、凝固剤の入れ方、使用済み便袋の処理方法を、イラスト付きでトイレの扉の内側などに常時掲示します。
蟹江警察署で行われているような「事前の掲示」は、特別な設備を必要とせず、すぐに始められる対策です。
3.最初の1時間の行動手順を決める
各施設で、次のような初動手順を一枚にまとめます。
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異常を確認したら、通常の水洗使用を一時停止する
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「使用禁止」の表示を出す
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漏水、便器、配管、排水ポンプなどを確認する
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安全が確認できるまでは携帯トイレへ切り替える
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使用済み便袋の保管場所を設置する
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施設責任者が復旧業者へ連絡する
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安全確認後、責任者の判断で水洗使用を再開する
「誰が」「何を確認し」「誰の判断で再開するか」を明記しておくことが重要です。
4.復旧業者の連絡先を三段階で用意する
大規模な鉄道会社であれば、専門の技術部門が直ちに動きます。しかし、学校や福祉施設では、担当職員が電話帳や過去の書類から業者を探すことになりかねません。
そこで、各施設について次の連絡体制を事前に決めておきます。
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第一次連絡先:日常的に点検・修理を行っている業者
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第二次連絡先:第一次業者が対応できない場合の代替業者
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第三次連絡先:広域災害時にも応援を依頼できる市外・近隣地域の業者や団体
固定電話だけでなく、携帯電話、電子メールなど複数の連絡方法を登録します。
また、第二次・第三次業者にも事前に施設を確認してもらうか、市との応援協定や待機契約を結びます。
単なる電話番号一覧ではなく、「夜間・休日に誰が出動を依頼できるか」「修理費を誰が決裁するか」まで決めておく必要があります。
5.設備図面をすぐに取り出せるようにする
職員の中に配管や電気設備に詳しい人がいるとは限りません。また、詳しい職員が異動、退職、不在となることも想定しなければなりません。
学校施設の防災点検について、東京都教育委員会も工事図面の整理・保管や、水道の元栓などの位置を校内配置図に記載することを求めています。
東京都教育委員会「学校施設・設備等の点検リスト」
各施設では、次の情報を「施設緊急対応ファイル」として整理すべきです。
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給水管・排水管・電気配線の図面
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止水栓、分電盤、排水ポンプ、汚水槽、マンホールの位置
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各設備が停止した場合の影響
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手動操作や応急処置の方法
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設備ごとの点検業者と連絡先
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写真付きの設備位置図
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携帯トイレの保管場所と数量
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使用済み便袋の搬出経路と保管場所
紙の図面を防水ケースに入れて保管するとともに、災害時にも閲覧できる電子データを用意します。
ただし、防犯上重要な図面は一般公開せず、施設責任者と復旧業者が確実に取り出せる方法で管理します。
備蓄は、訓練して初めて機能する
携帯トイレは、購入して倉庫に置くだけでは十分ではありません。
年1回は、停電・断水を想定して、使用禁止表示を出し、便器に袋を取り付け、復旧業者への連絡手順と設備図面の取り出しまでを確認する訓練が必要です。
弥生学区防災訓練でも、参加者が実際に便器へ便袋を取り付ける体験や、学校のどこに携帯トイレと設備図面があるのかを確認する訓練を取り入れてはどうでしょうか。
トイレ対策は、避難生活が始まってから考えるものではありません。
「停電した。水が流れない。復旧時間は分からない」という最初の1時間を、施設職員と利用者が混乱せずに乗り切れるか。その準備こそ、学校や福祉施設に求められる現実的な防災対策です。
以下 蟹江警察署の取り組み

参考


