
②木原見千子さん(有田市社会福祉協議会)、
③黒川陽介さん(地域おこし協力隊)、
④安原愛登(神戸学院大学防災学科3年生)
の4名の方に話題提供いただき、被災地の復興と日頃の地域防災に活かします
「2025年度異世代活動報告会」(和歌山県有田市)に当研究会事業副委員長の金玟淑氏がコメンテーターとして登壇します | 逃げ地図 2月に有田市で行われたイベントで逃げ地図づくりのトークセッションも行われています。
当日の様子を編集した動画になります。
https://youtu.be/rLdXDWdkD4g
https://nigetore.jp/app/
「逃げ地図」を地図で終わらせない
刺さる言葉・論点整理・議事録(整理版)
本稿は、提供された自動文字起こしとチャット記録をもとに、重複、言いよどみ、明らかな誤変換を整理したものです。
1 この会の核心
今回の議論が突きつけたのは、「逃げ地図が役に立つか、立たないか」という二者択一ではありません。
逃げ地図は、避難時間や経路を見える化し、住民、当事者、福祉職、若者、行政を話し合いへ導く有力な入口です。
しかし、揺れている最中に津波が来る地域、寝たきりの人を運ぶ支援者がいない地域、避難後の生活を維持できない人がいる地域では、地図を作るだけでは命を守れません。
必要なのは、次の二つを対立させず、同時に進めることです。
- 今日起きるかもしれない災害に備え、避難方法、声かけ、支援、訓練を改善すること
- 災害が起きるまでの時間を使い、高台移転、施設再配置、垂直避難先、道路、土地利用など、まちの形そのものを変えること
逃げ地図の本当の価値は、「逃げられる」という安心を与えることだけではありません。
「この条件では逃げ切れない」という不都合な現実を可視化し、行政の政策判断につなげることにあります。
2 刺さる言葉
本命メッセージ
逃げ地図は、逃げ方を描くだけの地図ではない。逃げられない現実を見つけ、まちを変えるための地図である。
問題提起に使える言葉
- 「起こった時にどう逃げるか」だけでなく、「起こるまでの残された時間に何を変えるか」を問わなければならない。
- 揺れている最中に津波が来る地域で、「逃げれば助かる」と言い切れるのか。
- 人を危険な場所から逃がし続けるだけでなく、逃げなくても助かるまちへ変えていく。
- ソフト対策は必要である。しかし、ソフト対策を、移転や施設整備を先送りする理由にしてはならない。
- 地図上の最短経路が、当事者にとっての最短経路とは限らない。
- 避難所まで行けても、そこで生きられなければ、人は避難を選ばない。
- 個別避難計画は、紙を完成させることが目的ではない。助けを頼める関係と、助けられる条件を平時につくることが本体である。
- 「支援が最後まで届かない人」ではない。その人こそ、最初に支援計画の中心へ置くべき人である。
- ケアマネジャーも、社協職員も、自治会役員も、災害時には被災者になる。支援者一人を前提にした計画は脆い。
- 助ける人の名前が書いてあるだけでは計画ではない。その人が来られない時の第二、第三の方法まで必要である。
- 地図を塗って終わりではない。歩き、試し、当事者に聞き、直し、整備につなげて初めて防災になる。
- 防災は、大きな言葉だけでは地域に入れない。雑談、食事、祭り、顔の見える関係の積み重ねから始まる。
- 「要支援者を訓練に呼ぶ」のではない。当事者と一緒に、訓練そのものをつくる。
- 避難とは、指定された場所へ行くことではない。安全を確保し、その後も命、健康、尊厳をつなぐことである。
- 科学知と経験知を、地域で使える実践知に変える。
会議運営への言葉
顔の見える関係づくりと、安全性の検証は両立できる。対立を避けるために論点を閉じるのではなく、検証する別の場を約束することが信頼を守る。
3 論点整理
論点1 逃げ地図は、津波到達が極端に早い地域でも通用するか
小村氏は、伊豆半島西部や串本町のように、強い揺れが続いている間または揺れの直後に津波が到達する地域で、逃げ地図による避難検討が実際に通用するのかと問題提起しました。
検証すべき時間は、単なる「避難先までの歩行時間」ではありません。
実際に使える避難時間 = 津波到達までの時間 − 揺れの継続時間 − 判断・身支度・支援開始までの時間 − 道路閉塞や混雑による遅れ
したがって、次の条件を重ねる必要があります。
- 強震中は移動できない可能性
- 家具転倒、建物倒壊、ブロック塀、落下物、火災
- 夜間、雨天、停電、通信障害
- 高齢者、車いす利用者、視覚・聴覚障害者、乳幼児連れの速度
- 介助者が到着するまでの時間
- 観光客や車両による群衆・交通混乱
逃げ切れない区域が判明した場合、それはワークショップの失敗ではありません。高台移転、津波避難タワー、垂直避難協定、道路改良、施設再配置などを優先すべき区域が明らかになったという政策上の成果です。
論点2 ソフト対策とハード対策は「両方大事」で終わらせてよいか
山中氏は、移転やハード整備には費用、住民合意、時間が必要であり、その間の危機をソフト対策でしのぐ必要があると整理しました。この考え方は実務上妥当です。
ただし、「両方大事」という総論だけでは、予算配分や実施期限が曖昧になります。地域ごとに次を明示する必要があります。
| 区分 | 目的 | 主な対策 | 判断基準 |
|---|---|---|---|
| 当面の命を守る | 発災直後の生存 | 逃げ地図、訓練、声かけ、垂直避難、個別避難計画 | 現実の条件で時間内に安全圏へ到達できるか |
| 避難後の命をつなぐ | 健康悪化・災害関連死を防ぐ | 電源、医療、介護、トイレ、福祉避難、在宅支援 | 当事者が避難先で生活を継続できるか |
| 危険そのものを減らす | 避難依存を小さくする | 高台移転、施設再配置、堤防、道路、土地利用 | いつまでに、誰を、どの危険から外すか |
| 生活と地域を再建する | 財産・仕事・地域関係を守る | 事前復興、住宅確保、産業継続、コミュニティ維持 | 発災後も地域で暮らしを再建できるか |
論点3 逃げ地図が守ろうとする「価値」はどこまでか
小村氏は、逃げ地図が守ろうとするものは生命までなのか、身体、財産まで含むのかと問いかけました。
整理すると、逃げ地図の直接的な機能は主として「発災直後の生命確保」です。ただし、ワークショップで見つかった課題を政策へ接続すれば、身体機能、健康、住まい、財産、地域の継続まで議論を広げられます。
重要なのは、逃げ地図だけで全てを解決できると説明しないことです。ツールの射程と限界を明示したうえで、避難生活、福祉、事前復興、都市計画へ引き渡す仕組みが必要です。
論点4 DIGと逃げ地図の関係は未整理
小村氏は、金氏が示したDIGの理解は、自身が実践しているDIGと大きく異なると述べました。本会では、活動の優劣や正解を争う場ではないとして、方法論の検討は行われませんでした。
この点は未解決の宿題です。少なくとも、次を整理する別の機会が必要です。
- DIGと逃げ地図は何を目的とする手法か
- 被害想定、状況判断、避難時間の可視化のうち、各手法が担う範囲
- 両者を組み合わせる場合の手順と注意点
- 手法の名称より、実際に何を検証できたかをどう評価するか
論点5 個別避難計画の最大の穴は「支援者が確保できない」こと
有田市の実践では、避難先は決められても、そこへ連れて行く支援者が決まらない事例が多いことが示されました。当事者や家族は、他人の命に関わる依頼を近所へ頼みにくいという現実があります。
また、自治会が当事者の情報を把握していない、鍵がなく寝たきりの人を救出できない、行政や社協との役割分担が進まないという発言もありました。
個別避難計画には、少なくとも次が必要です。
- 第一支援者が不在・被災の場合の代替手段
- 鍵、連絡、安否確認、搬送方法の事前ルール
- 電動車いす、医療機器、薬、充電器など必要物品
- 家族、近隣、福祉事業者、社協、行政、消防の役割分担
- 支援者本人と家族の同意、個人情報、無理な救助を求めない安全基準
論点6 「避難できない」のではなく「避難後が怖くて行けない」人がいる
全盲の当事者からは、避難所へ着いた後、トイレへ行くにも他者の支援が必要になるため、避難をためらうとの発言が紹介されました。寝たきりの人には、避難所生活そのものが想像できず、自宅に残る選択をする人もいます。
経路の検討と同時に、到着後の次の条件を確認しなければなりません。
- トイレ、移動、食事、服薬、医療、介護
- 電源・充電、福祉機器、補装具
- 情報保障、やさしい日本語、多言語対応
- ペット、プライバシー、家族との同室・近接
- 一般避難所、福祉避難所、ホテル、ショートステイ、在宅避難の組合せ
論点7 当事者参加は「配慮の確認」ではなく、計画の前提である
車いすを持ち上げた際に前輪が外れた事例、長距離になるほど高齢者の歩行速度が落ちるとの指摘、視覚障害者と雨天時に歩いて初めて道路と側溝の境が分からなくなると気づいた事例が共有されました。
当事者不在で作った地図は、当事者には使えない可能性があります。
障害のある人、高齢者、子ども、外国人、観光客を「参加してもらう対象」ではなく、企画段階からの共同設計者と位置づける必要があります。
論点8 人口密集地・観光地では、距離だけでなくボトルネックを見る
神戸ウォーターフロントの事例では、立体駐車場を垂直避難先に加えると避難時間が短くなる可能性が示されました。
一方で、国道横断、放置車両、アーケードや歩道橋の損傷、JR高架下の限られた通過箇所、数万人規模の群衆集中が課題として挙げられました。
都市部の逃げ地図には、歩行時間だけでなく、通過容量、群衆雪崩、車両渋滞、外国人・観光客への誘導を加える必要があります。
民間立体駐車場等を利用する場合は、所有者との協定、構造安全性、開放方法、夜間の鍵、管理責任も確認が必要です。
論点9 地域を動かすのは、制度より「つなぐ人」と「集う場所」
尾鷲市三木里町の事例では、地域おこし協力隊、建築士、住民、大学関係者が、古民家や高台の空き家を交流拠点として活用し、防災観光、避難路改善、関係人口づくりへ展開していました。
防災を正面から大きく掲げるだけでは、地域が警戒し、動かないことがあります。
祭り、餅つき、食事、雑談など、平時の関係づくりの中へ防災を織り込むことが有効です。
公共施設でなくても、古民家、商店、サロンなどの「集う場所」が防災の基盤になります。
論点10 一度で終わらせない仕組みが必要
逃げ地図は完成品ではなく、仮説です。
まち歩き、当事者参加訓練、雨天・夜間訓練、施設整備、人口変化を反映して更新しなければなりません。
作る → 歩く → 試す → 課題を分類する → 改善する → もう一度作る
この循環を誰が担い、行政の予算や計画へどう接続するかまで決めることが必要です。
4 議事録(要約・整理版)
4-1 開催概要
- 主題:「逃げ地図を地域で動かす――多様な担い手と考える避難の実践」
- 開催形式:オンライン
- 開催日:8月24日(月)20時
- 参加者数:最大105名との案内あり
4-2 開会前後の被災地支援共有
- 被災地ボランティアの参加者が減少傾向にあること、今後の支援先調整が話題となった。
- 夏季の災害ボランティアでは熱中症が発生しており、経験者ほど無理をする可能性もあるため、支援者自身の安全・水分・休憩の確保が必要とされた。
- 学校再開に伴い、教室に分散していた避難者を体育館へ集約する局面が紹介された。
- 指定避難所の人数だけを被災者数と見なしてはならず、在宅避難、車中泊、親族宅など避難所以外の被災者にも支援を届ける必要があると確認された。
4-3 金氏による逃げ地図の説明
- 避難とは、指定避難所へ行くことではなく、安全を確保することと説明。
- 逃げ地図は、避難目標地点からの所要時間を色分けし、避難者の視点で経路や課題を可視化する手法とされた。
- 標準的な歩行速度だけでなく、高齢者、要支援者、車いす利用者等の条件を変えることで、結果が大きく異なることが示された。
- ハザードマップ、DIG、逃げ地図は役割が異なるが、組み合わせて使うことが可能との説明があった。
- 地図を作るだけでなく、気づきを共有し、まち歩きや訓練へつなげることが重要とされた。
4-4 和歌山県串本町田原地区の事例
- 津波到達が極めて早く、高齢化も進む地域で、津波避難タワーや山側避難の実効性を検討した。
- 道路閉塞の有無、避難タワーの有無など複数のシナリオを比較した。
- 津波到達時間と避難時間を重ねると、逃げ切れない可能性が生々しく示され、住民が諦める危険もあった。
- 一方、住民が抜け道を探し、避難時間を約3分短縮した例が紹介された。
- 昭和南海地震の経験者への聞き取りにより、現在の想定図だけでは見えない浸水経路や当時の被害状況が確認され、科学的想定と地域の経験知を重ねる必要性が示された。
- 小学生との宝探しや疑似体験型訓練を通じ、若い世代を巻き込む取組も行われている。
4-5 和歌山県有田市箕島地区と当事者参加
- 令和5年6月の大雨で、床上・床下浸水が多数発生した地域を対象に実践したとの報告があった。
- 避難場所や福祉避難所自体が浸水想定区域内にあること、日常的に使う主要道路が早く浸水することなどが課題となった。
- 視覚障害者、車いす利用者など多様な当事者が参加し、立場により通れる道、必要な支援、避難の判断が異なることを確認した。
- 視覚障害者にも分かるよう、触って理解できる地図材料を工夫した。
- 作成後、まち歩き、広報、社協だより、防災士会、高校、自治会を含む訓練などへ活動を展開した。
4-6 木原氏によるケアマネジャーの実践報告
- 全盲の利用者と逃げ地図に参加し、地域との接点をつくった。
- 参加を重ねた結果、利用者自身が地域とのつながりの必要性を理解し、ケアプランにも「地域とのふれあいを増やす」目標を位置づけた。
- 地域住民から災害時の声かけや介助方法を学びたいとの申し出が生まれ、防災カフェの企画にもつながった。
- 雨天のまち歩きで、水たまりや側溝と道路の境界が分からなくなることを確認した。
- 小学校区よりも、隣保班など小さな単位で避難を考える必要性が示された。
- 個別避難計画を作れば誰かが助けに来ると期待されがちだが、実際には支援者が決まらない例が多い。
- 寝たきりの人は避難先や方法がなく、自宅に残る選択をする場合がある。風水害では事前のショートステイ利用も考えられるが、突発地震では難しい。
- 避難後のトイレや介助への不安が、避難をためらわせる要因になっている。
4-7 尾鷲市三木里町の地域づくり
- 人口約500人、高齢化率約65%、南海トラフ地震による大津波が想定される地域での取組が紹介された。
- 逃げ地図を入口に、避難路改善、高台の空き家活用、木造校舎の防災拠点化、福祉施設の高台移転、防災と観光を組み合わせた持続的事業を検討している。
- 避難路上の障害物を除き、所要時間を短縮する具体的改善につなげた。
- 古民家を、住民と専門家が日常的に話せる場所として活用。高台の空き家を平時の交流拠点、災害時の生活場所として使う構想も紹介された。
- 地域外の若者を防災合宿や観光で受け入れ、定期的に地域と逃げ地図を更新する「関係人口」へ育てる構想が示された。
- 地域へ入る際は、専門用語や大きな正論からではなく、祭り、食事、雑談を通じた信頼づくりが重要とされた。
4-8 神戸ウォーターフロントの学生実践
- 神戸市中央区の波止場町・新港町で、南海トラフ地震の津波を想定したワークショップを実施。
- 市指定の避難先のみを使う場合と、24時間営業の自走式立体駐車場を垂直避難先に加える場合を比較した。
- 立体駐車場を加えると、特定地域の避難時間を短縮できる可能性が示された。
- 一方、国道2号の横断、停止車両、古い歩道橋やアーケード、JR高架下の限られた通過点、イベント時の多数の観光客による群衆リスクが明らかになった。
- ストリートビューを活用し、まち歩きで見落とした場所を補完する方法も紹介された。
- 民間施設を避難先として活用するためには、周知、協定、開放・誘導方法の具体化が必要との示唆が得られた。
4-9 討議・参加者意見
- 若者は防災への関心がないのではなく、参加の入口や機会が見つからない場合が多いとの意見があった。
- 中学生、外国人、障害当事者、家族と、タブレットやストリートビューを使って検討し、現地訓練につなぐ案が示された。
- 社協が持つ、子ども、障害者、高齢者、外国人、地域団体とのネットワークは、当事者参加を実現する上で重要との評価があった。
- 既存の組織や活動を活用し、新しい事業を増やしすぎない視点も示された。
- 逃げ地図は、地域のリスクだけでなく、魅力や資源を知り、地域づくりの入口にできるとの総括があった。
4-10 チャットで提起された重要論点
- 小村氏は、揺れている最中に津波が来る地域で逃げ地図が通用するかと問い、金氏のDIG理解が自身の実践と大きく異なると指摘した。
- 進行側は、本会を学術的な是非や正解を争う場ではなく、顔の見える関係づくりの場と位置づけ、方法論の議論は別の機会とした。
- 小村氏は、医療・福祉施設の利用者と職員が共に助かるには、避難しなくて済むよう施設やまちの形を変える必要があり、「起こるまでの残された時間」に何をするかが本質だと提起した。
- 山中氏は、移転やハード整備には時間と費用が必要なため、その間はソフト対策で危機をしのぎ、両者を組み合わせる必要があると応答した。
- 逃げ地図が守る対象は生命までか、身体・財産まで届くのかという問いが出された。
- 高知県の三重防護、津波避難タワー、逃げ地図、個別避難計画等を組み合わせる事例が紹介された。
- 電動車いすの運搬方法、車いす部品の脱落、高齢者の長距離歩行による速度低下など、当事者別の実証が必要と指摘された。
- 河川遡上を想定した大都市圏での逃げ地図事例について質問が出された。
- 自治会未加入の聴覚障害者や寝たきりの人について、自治会、社協、行政の役割、鍵、避難支援が未整理との現状報告があった。
- 支援者やケアマネジャー自身も被災者になるとの注意喚起があった。
4-11 確認された共通認識
- 逃げ地図は、住民同士が話し合い、地域を自分事として考える入口になり得る。
- 当事者参加、まち歩き、実動訓練を行わなければ、地図上だけでは実効性を確認できない。
- ハード対策とソフト対策の双方が必要である。
- 平時の顔の見える関係、社協・福祉職・自治会・学校・若者・地域外人材をつなぐ役割が重要である。
- 一度作って終わらず、継続的に更新し、地域の具体的改善へ結びつける必要がある。
4-12 未解決の論点
- 津波到達が極端に早い地域で、強震継続時間を含めても逃げ地図が実効性を持つ条件
- 逃げ切れない区域を、移転・施設再配置・垂直避難整備へ結びつける行政上の手続
- DIGと逃げ地図の概念・目的・手順の違い
- 生命だけでなく、身体、健康、財産、生活再建までをどう連続的に守るか
- 支援者不在、鍵、搬送、個人情報、責任分担を含む個別避難計画の実装
- 民間施設を避難先とする場合の安全確認、協定、開錠、管理責任
- 大都市・観光地における群衆避難と河川遡上の検証
- 学術的検証と、関係づくりを目的とした対話の場をどう両立させるか
5 次に行うべきこと
- 地域を三分類する
現状で避難可能、条件付きで可能、避難では救命困難、の三つに分類する。 - 「避難開始の遅れ」を加えて再計算する
揺れ、停電、夜間、介助者到着、道路閉塞、混雑を含む複数シナリオで検証する。 - 当事者と実際に歩く
高齢者、車いす、視覚・聴覚障害者、乳幼児連れ、外国人、観光客と、晴天だけでなく雨天・夜間も確認する。 - 避難先の生活条件を点検する
到着できるかだけでなく、トイレ、電源、医療、介護、情報、プライバシーを確認する。 - 逃げ切れない区域を政策課題に格上げする
高台移転、公共・福祉施設の再配置、垂直避難先、道路改良、民間協定、土地利用規制の優先順位を示す。 - 個別避難計画をチーム型にする
一人の支援者に依存せず、複数の連絡・搬送・安否確認手段を組み合わせる。 - 安全性を検証する別の対話の場を設ける
今回持ち越したDIGとの違い、極短時間津波地域での有効性、守る価値の範囲について、実務者と研究者が検証する。 - 改善の担当と期限を決める
ワークショップの気づきを、誰が、いつまでに、どの計画・予算へ反映するかを記録する。
6 弥富市のような低平地への示唆
沿岸の津波地域と同じ条件ではありませんが、低平地で高潮、河川氾濫、内水氾濫、液状化が重なる地域にも、今回の論点はそのまま当てはまります。
- 浸水想定だけでなく、堤防、橋、鉄道、アンダーパス、排水停止、渋滞を重ねる。
- 指定避難所へ向かう一本道ではなく、近隣の垂直避難先や一時退避先を複数確保する。
- 高齢者の徒歩避難、車避難、福祉車両、ボート救助を時間軸で組み合わせる。
- 五之三地区のような地域では、自治会役員へ新たな負担を集中させず、社協、福祉職、学校、事業所、若者、地域外支援者をつなぐ。
- 「逃げられない」と判明した地区は、住民の努力不足とせず、盛土、高台拠点、施設配置、土地利用を見直す行政課題とする。
最終的に問われるのは、地図が完成したかではありません。
その地図によって、逃げ道が一つ増えたか。支援者が一人増えたか。危険な施設が一つ移ったか。行政の予算が一つ動いたか。
そこまで進んで初めて、逃げ地図は地域の命を守る「実践知」になります。
