愛知県西部の海抜ゼロメートル地帯における複合水害リスクと地域防災
― 弥富市を中心とした事実検証と実行提言 ―
(2026年8月改訂)
はじめに
愛知県西部から三重県北部に広がる濃尾平野の低平地、とりわけ弥富市、愛西市、飛島村、蟹江町、木曽岬町などでは、高潮、河川氾濫、内水氾濫、津波、地震による液状化など、複数の災害が重なる可能性があります。
この地域の防災を考える際、単に「堤防を高くする」「排水ポンプを増やす」「避難所を増やす」という個別対策だけでは不十分です。
必要なのは、次の対策を一つのシステムとして組み合わせることです。
- 堤防、排水機場、排水路、貯留施設などのハード対策
- 土地利用、建築、農地保全を含む流域治水
- 災害の種類と切迫度に応じた避難計画
- 避難所以外にいる被災者も支援対象とする仕組み
- 行政、地域、福祉、医療、企業、NPOの連携
- 情報共有と物資配分を支えるデジタル・アナログ双方の仕組み
本報告書は、弥富市を中心とする海抜ゼロメートル地帯の災害リスクを整理し、従来の主張に含まれていた数値の誤りや過度な断定を修正した上で、実行可能な地域防災の方向性を提案するものです。
本報告書の結論
- 海抜ゼロメートル地帯のリスクは現実であり、排水施設は地域の生命維持基盤です。
- 高潮・洪水が予測できる台風時は、浸水想定区域外への早期広域避難を基本に据える必要があります。
- 垂直避難は、移動がかえって危険になった場合に命を守る緊急行動です。安全性を確認しないまま、在宅避難を一律に勧めることはできません。
- 地震・津波では、揺れの直後から高く安全な場所へ避難する必要があります。台風時の避難と同じ計画では対応できません。
- 堤防強化、排水機能、流域治水、土地利用、避難、救援を重ね合わせる「多重防御」が必要です。
- 地域の共助は重要ですが、行政の責任を地域住民に移すものであってはなりません。
- 避難所にいる人だけでなく、自宅、車中、親族宅、ホテル、民間施設などにいる被災者も、必要な支援につながる仕組みが必要です。
1.海抜ゼロメートル地帯の構造的な弱点
1-1.T.P.とN.P.を正しく理解する
標高や潮位を比較する際には、基準面をそろえなければなりません。
- T.P.(東京湾平均海面):全国の標高で一般的に用いられる基準
- N.P.(名古屋港基準面):名古屋港の港湾・河川関係資料などで用いられる基準
名古屋港基準面の0mは、T.P.より1.412m低い位置にあります。したがって、換算は次のようになります。
N.P. 0m = T.P. -1.412m
同じ高さを数値で表すと、N.P.値 = T.P.値 +1.412m
| 表示例 | 同じ高さの換算値 |
|---|---|
| N.P. 0m | T.P. -1.412m |
| T.P. 0m | N.P. +1.412m |
| 名古屋港の朔望平均満潮位 N.P. +2.61m | おおむねT.P. +1.20m |
| 伊勢湾台風時の名古屋港最高潮位 N.P. +5.31m | T.P. +3.898m |
従来の原稿にあった「N.P.+5.5m=T.P.+6.912m」という換算は誤りです。正しくは、N.P.+5.5m=T.P.+4.088mです。
基準面を混同すると、堤防高、地盤高、潮位、建物の床高を誤って比較することになります。行政資料では、可能な限りT.P.とN.P.を併記し、換算式も明示すべきです。
1-2.自然排水が難しい地域
弥富市を含む濃尾平野の低平地には、平均海面より地盤が低い区域が広がっています。
こうした地域では、雨水や生活排水を自然の勾配だけで河川や海へ流すことが難しく、排水機場、排水ポンプ、幹線排水路、水門などに強く依存しています。
ただし、「ポンプが一度止まれば、直ちに全域が数週間から数か月水没する」と一律に断定することはできません。
浸水の範囲と期間は、降雨量、河川・海の水位、堤防の状態、排水施設の停止範囲、停電時間、代替電源、復旧速度などによって大きく変わります。
一方、堤防決壊や広域停電が重なれば、排水が長期化する危険性はあります。そのため、次の対策が欠かせません。
- 排水機場の耐震化・耐水化
- 非常用電源と燃料の確保
- 電源、通信、操作系統の多重化
- 代替ポンプや応援受け入れ計画の整備
- 幹線排水路の更新と適正管理
- 施設ごとの停止影響範囲と復旧目標時間の公表
排水施設は単なる生活インフラではなく、低平地の居住を成り立たせる基盤です。
老朽化対策、更新費用、停電対策を長期財政計画に位置づける必要があります。
2.伊勢湾台風の事実と高潮想定の読み方
2-1.1959年伊勢湾台風の教訓
1959年9月26日に潮岬付近へ上陸した伊勢湾台風の中心気圧は929.5hPaでした。
最盛期の中心気圧は894hPa。
名古屋港では、最高潮位N.P.+5.31m、T.P.換算で+3.898mを記録しました。
高潮、波浪、堤防の決壊などにより、濃尾平野の低平地は広範囲に浸水し、排水と堤防の締切りには長い時間を要しました。
この災害が示した重要な教訓は、次の3点です。
- 海面より低い地域では、浸水後の水が自然には引きにくい。
- 堤防の一部が決壊すると、浸水の深さ、流速、継続時間が急激に悪化する。
- 避難の遅れだけでなく、長期湛水、停電、断水、物流停止が被害を拡大する。
2-2.「スーパー伊勢湾台風」は危機管理上の想定
国土交通省中部地方整備局などが用いてきた「スーパー伊勢湾台風」は、室戸台風級の台風が濃尾平野に大きな被害をもたらす経路を通るという危機管理上の想定です。
代表的な条件として、上陸時中心気圧910hPa、朔望平均満潮位、木曽三川の洪水との同時発生などが設定されています。
ここで注意すべきなのは、台風の中心気圧、高潮偏差、実際の潮位、浸水深、堤防高は別の指標だということです。
特定の一つの数値だけを取り出して、地域全体の浸水深や堤防の安全性を断定することはできません。
住民が実際に確認すべきなのは、弥富市が公表している最新の洪水・高潮・浸水津波ハザードマップです。
想定の種類、浸水深、浸水継続時間、家屋倒壊等氾濫想定区域、最寄りの緊急時避難場所を、住所ごとに確認する必要があります。
3.内水氾濫、都市化、流域治水
3-1.東海豪雨が示した複合的な被害
2000年9月11日から12日の東海豪雨では、名古屋地方気象台で567mmの総雨量を記録しました。
庄内川の越水、新川の破堤、内水氾濫が重なり、氾濫面積は約19平方キロメートル、避難者は約2万9,000人、被災住家は1万8,000戸を超えました。
新川では、流域からの洪水流出と、庄内川から洗堰を越えて流入した洪水が重なり、水位が長時間にわたって計画高水位を超えました。
この災害を「新川洗堰だけが原因」「都市化だけが原因」と単純化することはできません。
極端な降雨、河川の流下能力、土地利用、支川・排水路、内水排除能力などが重なった結果として捉える必要があります。
3-2.水田の保水機能と「田んぼダム」は同じではない
農地や水田には、雨水を一時的に受け止め、流出のピークを遅らせる機能があります。
ただし、通常の水田がすべて自動的に「田んぼダム」として機能するわけではありません。
国がいう「田んぼダム」は、水田の排水口に調整板などを設置し、水田に降った雨を時間をかけて排水する取組です。
河川や排水路から水田へ水を引き入れるものではなく、営農への影響を抑え、農業者の理解と協力を得て実施する必要があります。
弥富市で検討すべき対策は、次の組み合わせです。
- 水田・農地の保全
- 農業者と合意した田んぼダムの導入
- 宅地開発時の雨水流出抑制
- 公共施設、道路、駐車場での雨水貯留・浸透
- 調整池、排水路、排水機場の能力検証
- 開発による流出増加分を事業者に適切に負担させる仕組み
都市化そのものを否定するのではなく、開発前後の雨水流出量を把握し、増加分を抑えるルールを徹底することが重要です。
なお、弥富市の公式ハザードマップ一覧には、洪水、高潮、浸水津波は掲載されていますが、雨水出水(内水)のハザードマップは掲載されていません。
河川氾濫とは別に、排水区域ごとの内水浸水リスク、主要排水路、排水機場の受持区域、想定浸水深を可視化することが課題です。
4.堤防強化をめぐる議論は「ダムか堤防か」の二者択一ではない
重要なのは、ダム、河道掘削、堤防、排水施設、遊水地、貯留施設、土地利用、避難を、流域全体で組み合わせることです。
4-1.「粘り強い堤防」は決壊しない堤防ではない
越水に対して堤防を強化し、決壊までの時間を延ばす技術は、避難時間の確保と被害軽減に大きな意味があります。
堤防の安全性は、越水だけでなく、浸透、侵食、地震、地盤沈下、構造物との接合部、維持管理などにも左右されます。
弥富市と関係機関に求められるのは、次の情報の可視化です。
- 堤防区間ごとの整備状況と計画高
- 耐震対策、浸透対策、越水対策の実施状況
- 樋門、水門、橋梁部など弱点となり得る箇所
- 整備の優先順位と完成目標年度
- 想定を超える外力が来た場合の残余リスク
「安全か危険か」の二択ではなく、どの外力まで耐えられ、どこから先は避難によって命を守るのかを明確にすることが大切です。
5.避難戦略は災害の種類と時間軸で分ける
避難は、次のように整理する必要があります。
| 災害・状況 | 基本となる行動 |
| 台風接近に伴う高潮・洪水で、移動時間を確保できる | 浸水想定区域外への早期広域避難を優先する |
| 高齢者、障がい者、乳幼児、医療的ケアが必要な人 | 一般住民より早い段階で避難を始める |
| すでに暴風・冠水が始まり、屋外移動が危険 | 近くの堅牢で高い建物へ緊急的に垂直避難する |
| 強い地震の直後、津波や堤防被害のおそれがある | 車移動に固執せず、直ちに最寄りの高く安全な場所へ避難する |
| 発災後、自宅の構造と周辺状況が安全 | 自宅で生活を続ける在宅避難を選択肢とする |
| 自宅が浸水・損壊し、生活継続が困難 | 指定避難所、親族宅、ホテル、福祉避難所等へ移る |
5-1.台風時は早期広域避難が基本
木曽三川下流部の広域避難計画では、大規模な高潮・洪水時には浸水想定区域外への避難を基本とし、浸水域内の高い建物は、逃げ遅れた場合に命を守る緊急避難先と位置づけています。
ただし、広域避難には、避難先不足、交通渋滞、公共交通の輸送力、要配慮者の移送、自治体間調整などの課題が残っています。
だからこそ、広域避難を放棄するのではなく、次の改善が必要です。
- 台風上陸の24時間以上前を視野に入れた早期判断
- 市外の親族・知人宅、宿泊施設、自治体間協定による避難先確保
- 鉄道、バス、福祉車両を組み合わせた避難計画
- 自動車避難の対象、経路、時間帯を整理した渋滞対策
- 要配慮者、病院・福祉施設、観光客、外国人への個別対応
- 「空振り」を許容する地域合意
5-2.垂直避難と在宅避難を区別する
垂直避難は、水害や津波が切迫した際、建物の上階などへ移動して命を守る緊急行動です。
在宅避難は、発災後に自宅の安全が確認できる場合に、自宅で避難生活を続けることです。
両者は目的も時間軸も異なります。2階へ逃げられたとしても、建物の流失・倒壊リスク、想定浸水深、浸水継続時間、備蓄、トイレ、電源、医療の条件が整わなければ、長期の在宅避難はできません。
市民には、「広域避難先」「近くの緊急時避難場所」「自宅で生活を継続できる条件」の三つを、あらかじめ決めておくことが求められます。
6.南海トラフ地震と津波――予知ではなく、確率と被害想定に基づく
地震調査研究推進本部は、南海トラフ地震の発生確率を最も高い「Ⅲランク」と評価しています。
愛知県が2026年6月に公表した最新の被害予測では、理論上最大モデルにおける弥富市の最大津波高は3.3m、30cmの津波が到達する最短時間は80分とされています。
ただし、地震直後には津波より先に、次の被害が起きる可能性があります。
- 強い揺れによる建物・家具の倒壊
- 液状化による道路の沈下や段差
- 堤防、水門、橋梁、排水施設の損傷
- 停電、断水、通信障害
- 火災と交通混乱
「津波到達まで80分あるから余裕がある」と考えるのは危険です。
揺れが収まったら、周囲の状況を確認し、徒歩を基本として、速やかに最寄りの緊急時避難場所などへ移動する必要があります。
弥富市は、市内や周辺に自然の高台がないため、高い建物を「緊急時避難場所」に指定しています。
指定階、入口、夜間の解錠方法、収容可能人数は変更される可能性があるため、最新情報を確認する必要があります。
7.地域主導の防災――共助を公助につなぐ
7-1.「弥富防災・ゼロの会」の役割
「弥富防災・ゼロの会」は、愛知県の防災リーダー養成の流れを受け、2005年6月に市民団体として結成されました。
名称には、「ゼロメートル地帯」と「災害による被害者ゼロ」の二つの意味が込められています。
同会は、防災ウォーキング、危険箇所の確認、防災冊子の作成、防災講座、避難所運営訓練など、地域に根差した啓発を続けてきました。
こうした活動の強みは、住民が地域の地形、家族構成、生活上の困り事を、日常の関係の中で把握できる点にあります。
ただし、共助には限界があります。自主防災会や自治会の少数の役員だけに、数百世帯の避難誘導、安否確認、要配慮者支援を負わせることはできません。
行政は、少なくとも次を担う必要があります。
- 標準的な支援と最低限の生活保障
- 避難情報、救援情報、被害情報の集約
- 要配慮者の個別避難計画の作成支援
- 物資、福祉、医療、保健の専門支援
- 地域団体、NPO、企業との協定と訓練
- 支援から漏れた人を発見する調整機能
7-2.3~5世帯の小さな助け合い
大規模災害では、自治会全体が一つの単位として動くより、近隣の3~5世帯程度が日常的に声を掛け合う方が機能しやすい場合があります。
小さな単位で共有できるのは、例えば次のような事項です。
- 誰が避難に時間を要するか
- 災害時に連絡が取れない場合の確認方法
- カセットコンロ、簡易トイレ、蓄電池などの共有
- 乳幼児食、アレルギー対応食、常用薬などの必要性
- 一緒に調理・食事をする仕組み
ポリ袋を使った湯煎調理は、少ない水と熱源で複数の料理を作る方法の一つです。
ただし、使用する袋の耐熱性、食品衛生、火気、換気、一酸化炭素中毒に注意し、屋内で発電機や炭火を使ってはなりません。
こうした「食べる防災」は、備蓄技術だけでなく、孤立を防ぎ、体調変化に気づく機会にもなります。
7-3.要配慮者情報は、必要性と保護を両立する
要配慮者の情報を地域で共有することは、命を守る上で重要です。
一方、病歴、障がい、介護、服薬などは、慎重に扱うべき個人情報です。
避難行動要支援者名簿や個別避難計画の情報は、災害対策基本法と地域防災計画に基づき、避難支援に必要な範囲で共有する必要があります。
平時の外部提供では、原則として本人同意などの要件があり、提供を受けた者には秘密保持と適正管理が求められます。
災害が発生し、生命・身体の保護に特に必要な場合には、本人同意がなくても必要な範囲で提供できる場合があります。
「班長が知っているから大丈夫」という非公式な運用だけに頼らず、次のルールを明確にすべきです。
- 何のために集めるか
- 誰が閲覧できるか
- どこまで共有するか
- どのように保管・更新・廃棄するか
- 漏えい時にどう対応するか
- 本人が訂正や共有停止を求める方法
8.災害物流DX――「中京圏の気質」ではなく、制度として設計する
災害時には、指定避難所だけでなく、自宅、車中、親族宅、ホテル、民間施設など、さまざまな場所に避難者が分散します。どこにいても、本人または支援者が所在と必要な支援を報告できる仕組みが必要です。
必要な機能
- 所在確認
避難先、世帯人数、連絡方法を登録できる。 - ニーズ把握
水、食料、薬、介護用品、乳幼児用品、充電、移動支援などを選択式で報告できる。 - 重複と漏れの防止
どの支援団体が、誰に、何を、いつ届けたかを必要な範囲で共有する。 - 支援優先度の判断
命・健康への危険度、孤立状況、物資残量を基に優先順位を決める。 - デジタルを使えない人への代替手段
電話、紙、戸別訪問、自治会、民生委員、福祉事業者からの代理登録を用意する。 - 停電・通信障害への備え
オフライン様式、無線、衛星通信、紙台帳への切替手順を整備する。 - 個人情報保護
閲覧権限、利用目的、保存期間、操作記録を明確にする。
DXは、端末やアプリを導入すること自体が目的ではありません。支援を必要とする人を見つけ、適切な支援につなぎ、制度の隙間を可視化するための手段です。
9.学校を地域防災の拠点にするための条件
9-1.「必ず引き渡す」「絶対に留め置く」のどちらにも固定しない
大規模災害時の児童・生徒の引き渡しは、保護者が学校へ来れば直ちに行うという単純な運用では安全を確保できません。
暴風、冠水、津波警報、道路被害、火災などがある中で保護者の車が学校へ集中すれば、交通混乱と二次災害を招く可能性があります。
一方、「どの災害でも児童を学校に留め置く」と一律に決めることも適切ではありません。
学校自体が浸水想定区域にあり、建物の高さ、構造、備蓄、トイレ、電源が十分でない場合もあります。
文部科学省の手引を踏まえ、学校ごとに次の条件を定める必要があります。
- 校舎内待機、上階への二次避難、別施設への避難の判断基準
- 津波警報、避難情報、震度、浸水状況に応じた引き渡し停止基準
- 通学路と保護者の移動経路の安全確認
- 引き渡し可能な保護者・代理人の事前登録
- 通信が途絶した場合のルール
- 数日間の留め置きに必要な水、食料、トイレ、薬、寝具
- 医療的ケア児、障がいのある児童・生徒への対応
原則は、安全が確認できるまで学校で保護し、危険な状況で保護者に迎えを求めないことです。
その後の引き渡しは、学校、地域、道路、家庭側の安全を確認して行います。
9-2.教職員だけに避難所運営を背負わせない
学校を地域の防災拠点として活用する場合、児童・生徒の安全確保と教育再開を担う教職員に、避難所運営の全責任まで負わせてはなりません。
平時から、行政、自主防災会、自治会、PTA、福祉・医療関係者、NPOなどの役割を決めておく必要があります。
具体的には、次の取組が有効です。
- 学校ごとの避難所運営委員会
- 避難所運営ゲームや図上訓練
- 夜間・休日を想定した鍵の管理
- 児童保護区域と一般避難者区域の分離
- ペット、要配慮者、感染症への対応区画
- 備蓄倉庫、非常電源、受水槽、トイレの浸水対策
- 教育再開と避難所縮小の手順
学校を「安全要塞」と呼ぶのではなく、災害ごとの安全性と限界を確認した上で、地域の救援拠点として機能させることが重要です。
10.弥富市に求める8つの実行提言
提言1 住所・建物単位の「わが家の避難計画」を全世帯で作る
高潮、洪水、内水、津波、地震について、避難先、移動開始時刻、移動手段、垂直避難先、家族の連絡方法を一枚に整理します。高齢者・障がい者世帯には作成支援を行います。
提言2 台風時の早期広域避難を実効化する
市外避難先、バス・福祉車両、鉄道利用、渋滞対策、避難開始の判断基準を具体化し、自治体間協定と訓練で検証します。
提言3 逃げ遅れた人のための緊急時避難場所を増やす
収容可能人数だけでなく、浸水深、基準水位、建物構造、入口、解錠、夜間利用、備蓄、トイレを確認し、地域ごとの不足を公表します。
提言4 排水機場・水門・排水路の強靱化計画を見える化する
耐震性、耐水性、非常用電源、燃料、遠隔監視、部品在庫、応援体制を点検し、更新順位、概算費用、完成年度を示します。
提言5 堤防と流域治水を一体で評価する
堤防だけ、ポンプだけに頼らず、水田保全、田んぼダム、雨水貯留、開発規制、建物のかさ上げ、重要施設の浸水対策を組み合わせます。
提言6 避難所以外の被災者も支援する
在宅、車中、親族宅、ホテル、民間施設などにいる避難者が、所在とニーズを報告できる仕組みを整えます。物資、医療、福祉、保健の巡回支援を制度化します。
提言7 小さな共助単位と専門支援をつなぐ
3~5世帯程度の声かけ単位を育てつつ、自治会任せにせず、行政、民生委員、福祉事業者、医療、NPO、中間支援組織が支える体制をつくります。
提言8 毎年、計画を数字で検証する
次の指標を毎年度公表します。
- 個別避難計画の作成率
- 広域避難先を決めた世帯の割合
- 緊急時避難場所の地域別収容率
- 排水施設の非常用電源稼働時間
- 学校・福祉施設の避難確保計画と訓練実施率
- 在宅避難者の把握訓練に要した時間
- 要支援物資の要請から配送までの時間
- 訓練で判明した課題と改善状況
おわりに
海抜ゼロメートル地帯では、災害を完全に防ぎ切ることはできません。しかし、被害を減らし、命を守り、生活の再建を早めることはできます。
そのために必要なのは、ハード対策かソフト対策か、公助か共助か、広域避難か垂直避難かという二者択一ではありません。
堤防、排水、流域治水、土地利用、避難、在宅支援、学校、福祉、医療、地域の助け合い、情報共有を重ね合わせることが重要です。
そして、すべての出発点に置くべきなのは、行政の管理や運営の都合ではなく、被災者一人ひとりの命、尊厳、生活です。
地域のつながりは大きな力になります。しかし、その力を持続可能なものにするには、行政が責任を果たし、専門機関が支え、情報と支援が必要な人へ確実に届く制度を整えなければなりません。
「被害者ゼロ」を目指すとは、危険を過小評価することでも、住民に自己責任を求めることでもありません。危険を正確に伝え、早く安全に避難できる選択肢を増やし、どこに避難していても支援から取り残さない地域をつくることです。

