避難所にいなくても、支援は届くのか ―「場所中心」から「被災者中心」へ変える新しい防災―「指定外」「在宅」「ホテル」「車中泊」等〜20260713全国防災関係人口ミートアップ。

全体サマリー
今回の議論が示したのは、これからの災害支援を「指定避難所をどう改善するか」だけで考えることには限界があるということです。
実際の被災者は、指定避難所だけでなく、自宅、車中、ホテル、親族宅、福祉施設、民間事業所、自主避難所など、さまざまな場所で避難生活を送ります。避難先の選択肢が増えることは、人権や尊厳を守る上で重要です。しかし、避難が分散するほど、行政から所在や生活状況が見えにくくなり、必要な支援から取り残される危険も高まります。
一方、行政職員や地域の担い手は減少し、災害時の支援ニーズは増え続けています。行政だけですべての被災者に個別対応することは困難ですが、それを理由に「自助・共助」へ丸投げしてはなりません。行政が標準的な支援と最低限の生活保障を担い、NPO、社会福祉協議会、企業、医療・福祉関係者、地域住民などが、個別の事情に応じた支援を補完する仕組みが必要です。
また、地域コミュニティは命を救う力になる一方、古い役割分担、女性への負担集中、閉鎖性、人間関係のしがらみを抱える場合もあります。「元の地域をそのまま維持すること」が、すべての人にとって最善とは限りません。既存の自治会だけでなく、仕事、趣味、学校、NPO、オンライン、関係人口など、複数のつながりを持つことが、多重のセーフティネットになります。
さらに重要なのが、制度の隙間を歩きながら、困りごとと支援資源を結びつける「フラフラできる人」の存在です。役割や担当を固定されず、住民が相談しやすく、行政と住民、支援者と地域を通訳できる人が、支援からこぼれる人を見つけます。
最終的に必要なのは、避難者を「管理する仕組み」ではなく、どこに避難していても必要な支援が届く仕組みです。
避難所中心から被災者中心へ。
場所を管理する防災から、人の命と暮らしを支える防災への転換が求められています。
特に重要な10の論点
1.「避難所の支援」から「避難者の支援」へ
これまでの制度は、指定避難所を中心に物資や情報を届ける設計になっていました。
しかし、実際には在宅避難、車中泊、ホテル、親族宅、民間施設など、指定避難所以外で暮らす被災者が多数存在します。
避難場所がどこであっても、被災者として必要な支援を受けられる「場所ではなく人を基準とした支援」への転換が必要です。
2.「逃げる場所」と「暮らし続ける場所」は違う
水害時の垂直避難は、差し迫った危険から命を守るためには有効です。しかし、建物の2階へ逃げられても、その後に水や食料、医療、トイレが確保できるとは限りません。
避難計画では、次の段階を分けて考える必要があります。
- どこへ逃げて命を守るか
- その場所で何時間、何日耐えられるか
- その後、どこで避難生活を送るか
- 誰が移動を支援するか
- 自宅や地域へどう戻るか
「避難場所として安全」と「避難生活を送れる」は、同じではありません。
3.避難の選択肢が増えるほど、所在把握が難しくなる
被災者が自分に合った避難先を選べることは重要です。一方、避難先が分散すると、誰がどこにいて、どのような支援を必要としているのか分からなくなります。
必要なのは、行政による一方的な管理ではなく、避難者自身や家族、支援者から次の情報を報告できる仕組みです。
- 無事かどうか
- どこに避難しているか
- 誰と一緒にいるか
- 緊急の支援が必要か
- 医療、介護、福祉上の配慮が必要か
ただし、登録を求めるだけで支援が届かなければ、住民は登録する意味を感じません。情報収集と支援提供を必ず結びつける必要があります。
4.個人情報を「命を守る共有知」として扱う
災害時の個人情報は、無制限に公開してよいものではありません。しかし、「個人情報だから共有できない」として必要な支援者にも情報が届かなければ、命を守れない場合があります。
目的、共有先、利用期間、本人同意、アクセス権限を明確にした上で、必要最小限の情報を医療、福祉、NPO、地域の支援者と共有する仕組みが必要です。
個人情報を守ることと、個人の命を守ることを対立させてはならない。
5.行政の責任とNPOの役割を混同しない
「標準的な支援は行政、個別課題はNPO」という役割分担は、一つの方向性です。
ただし、行政が対応困難な人をNPOへ丸投げしてよいわけではありません。生活を保障する最終責任は行政にあります。
- 行政は最低限の生活保障、情報、物資、医療・福祉への接続を担う
- NPOなどは個別事情に応じた柔軟な支援を担う
- 中間支援組織は行政と支援団体を調整する
- 国や自治体は民間支援を資金、人材、情報で支える
公助を小さくするための共助ではなく、公助を届かせるための協働が必要です。
6.地域コミュニティには「力」と「危うさ」がある
地域の住民情報、資機材、助け合いによって、多くの命が救われた事例があります。
一方で、平時の閉鎖性や上下関係、女性への炊事・世話役の集中、地域に属したくない人への圧力が、災害時に強く表れることもあります。
したがって、「地域単位で避難すればよい」と一律に決めるのではなく、一人ひとりが地域と一緒に避難するか、別の場所を選ぶかを決められることが重要です。
7.一つではなく「複数のコミュニティ」を持つ
家族、近所、職場、学校、趣味、友人、オンラインなど、人は複数のつながりの中で生きています。
一つの地域コミュニティが失われても、別のつながりがあれば孤立を防げます。災害時に元の地域を守るだけでなく、新しい避難先で生まれるつながりも大切にすべきです。
一人暮らしでも、独りぼっちにしない。
一つの居場所を失っても、人生まで失わない。
8.「フラフラできる人」が制度の隙間をつなぐ
避難所や地域には、担当業務に追われる人だけでなく、住民の話を聞き、困りごとを発見し、対応できる人へつなぐ存在が必要です。
この役割には、次の力が求められます。
- 小さな変化や孤立に気づく力
- 住民が相談しやすい関係をつくる力
- 地域にある人材や物資を見つける力
- 困りごとと支援資源を結びつける力
- 行政と住民の言葉を相互に翻訳する力
役職や担当を固定しすぎると、制度外の問題に気づきにくくなります。自由に動ける調整役を平時から地域につくる必要があります。
9.住民先行型・行政後追い型という発想
住民や民間事業者が自主的に避難場所や見守りの仕組みをつくり、行政が登録、物資、情報、保険、資金などで後ろ盾になる方法が考えられます。
個人宅、寺社、企業、マンションなどを一時避難場所として活用する場合も、平時から住民と受け入れ側が話し合っておかなければ機能しません。
行政がすべてを決めるのではなく、住民の取り組みを公的制度につなぐことが重要です。
10.システムより先に、信頼関係をつくる
台湾のような情報共有基盤を参考にすることは重要です。しかし、技術的にクラウドを構築できても、行政、住民、NPOが互いを信頼していなければ、情報は集まらず、共有も進みません。
必要なのは、システム導入だけではありません。
- 平時から顔の見える関係をつくる
- 情報を何の支援に使うか説明する
- 行政と民間を対等なパートナーとして扱う
- 住民が支援の受け手だけでなく担い手にもなれるようにする
デジタル基盤と信頼関係の両方がそろって、初めて情報が支援に変わります。
原文から拾える「刺さる言葉」
- 「増え続けるニーズと、減り続ける資源」
- 「自然の凶暴化と、社会の脆弱性」
- 「場所の支援から、人の支援へ」
- 「一人暮らしでも、独りぼっちはいない」
- 「命を守るための情報は、共有知である」
- 「住民先行型・行政後追い型」
- 「標準的な支援は行政、個別課題はNPO」
- 「多様なコミュニティが、多様なセーフティネットをつくる」
- 「平時のコミュニティが、絶対に良いとは限らない」
- 「バタバタしている人には相談しにくい。フラフラしている人がいると相談しやすい」
- 「フラフラするのは、力がないとできない」
- 「応援するし、応援される。それがパートナーシップ」
- 「お互いの関係性がなければ、災害時に突然『受け入れて』とは言えない」
- 「できるところから広げていく」
- 「行政サービス提供型から、住民先行型・行政後追い型へ」
広報・見出し向けに磨いた「刺さる言葉」
- 避難所にいない人ほど、支援から見えなくなる。
- 「指定外避難所」は、「支援対象外」ではない。
- 逃げる場所を選べても、支援から外れてはならない。
- 支援とは、人を集めて管理することではない。必要な助けを届けることである。
- 避難者を登録する目的は、管理ではなく支援である。
- データを集めただけでは支援にならない。届いて初めて支援になる。
- 個人情報を守ることと、命を守ることを対立させない。
- 共助は、公助を減らすための言葉ではない。
- 行政が全部抱えるのでも、地域に全部背負わせるのでもない。
- コミュニティは命を守る。しかし、ときに人を縛る。
- 元のつながりを守るだけでなく、新しいつながりを生み出す。
- 一つの居場所を失っても、人生まで失わない社会へ。
- 平時のつながりは、災害時の生活インフラである。
- 制度の隙間にいる人を見つけるのは、制度の外を歩ける人である。
- 災害時に必要なのは、答えを持つ人だけではない。困りごとを見つけ、つなぐ人である。
- 仕組みを増やすだけでは足りない。仕組みの間を歩く人が必要だ。
- 避難所の数を増やすだけでなく、避難の選択肢を支える。
- 技術は導入できる。難しいのは、情報を託せる信頼をつくることだ。
- 平時に顔が見えていなければ、災害時に手は届かない。
- 支援する人、される人を固定しない。支え合いは双方向である。
最も重要な一文
これからの防災に必要なのは、指定避難所を増やすことだけではない。どこに避難しても、誰一人支援から取り残されない仕組みを、行政・地域・NPOが平時から一緒につくることである。
避難所中心から被災者中心へ
多様な避難と支援をつなぐ、新しい防災のあり方
全体概要
今回の議論で明らかになったのは、これからの災害支援を「指定避難所をどう整備するか」という視点だけで考えることには限界があるという点です。
災害が発生したとき、すべての被災者が指定避難所へ行くわけではありません。
自宅の2階、車中、親族宅、ホテル、福祉施設、民間事業所、寺社、自主避難所など、避難先は多様化しています。
避難者が自分の健康状態、家族構成、人間関係、仕事、ペットなどに応じて避難先を選べることは、人権と尊厳を守る上で重要です。
しかし、避難先が分散するほど、行政が被災者の所在や生活状況を把握しにくくなり、物資、医療、福祉、生活再建情報などが届かない人が生まれます。
必要なのは、指定避難所にいる人だけを支援する仕組みではありません。
どこに避難していても、その人に必要な支援が届く仕組みへの転換です。
1.「避難場所」と「避難生活」を分けて考える
災害時には、まず命を守る場所へ逃げる必要があります。
しかし、緊急的に逃げ込む「避難場所」と、数日から数カ月にわたって暮らす「避難所」は同じではありません。
例えば水害では、指定避難所へ移動すること自体が危険な場合、自宅や近隣建物の上階へ逃げる垂直避難が必要になります。
しかし、そこで命を守れても、水や食料、トイレ、医療、介護、電気などが確保できなければ、長期間の生活はできません。
また、堤防決壊や土石流、家屋流失の危険がある地域では、垂直避難そのものが成立しない場合もあります。
平時から確認すべきなのは、単に「どこへ逃げるか」だけではありません。
- いつ避難を始めるのか
- 徒歩や車で安全に移動できるのか
- 緊急避難先で何時間、何日過ごせるのか
- その後、どこへ移動するのか
- 高齢者や障害者の移動を誰が支えるのか
- 避難先の施設や住民が受け入れを承知しているか
命を守る行動から避難生活、さらに生活再建までを連続して考える必要があります。
2.指定避難所以外にも多くの被災者がいる
東日本大震災などでは、行政が指定避難所への支援に集中した結果、在宅避難者へ物資や情報が届かない問題が起きました。
能登半島地震でも、民間事業所や自主避難所、車中、親族宅、ホテルなどへ避難した人が多数いました。
指定避難所ではない場所が、実際には地域住民の命を守る拠点として機能した例もあります。
しかし、行政がその存在を知らなければ、食料、飲料水、衛生用品、医療、福祉などの支援につながりません。
そのため、民間企業、寺社、マンション、個人宅など、災害時に地域住民を受け入れる意思のある場所を、平時から登録しておく仕組みが重要です。
登録制度は、施設を行政の管理下に置くためのものではありません。
- 避難者の存在を行政が把握する
- 物資や情報を届ける
- 必要に応じて医療・福祉支援へつなぐ
- 危険が高まった場合に別の場所へ移送する
- 運営者だけに過大な負担を負わせない
こうした公的支援につなげることが目的です。
3.避難の選択肢と所在把握を両立させる
避難者が自分に合った場所を選べることは大切です。
一方、避難先が多様になるほど、行政から被災者が見えなくなるという矛盾が生まれます。
特に把握が難しいのは、次のような人です。
- 被災した自宅に残っている人
- 自宅の2階だけで生活している人
- 車中泊を続けている人
- 親族や知人宅を転々としている人
- ホテルやネットカフェなどを移動している人
- 遠方へ縁故避難した人
- 地域との関係が薄く、自治会にも属していない人
- スマートフォンやデジタル機器を使えない人
必要なのは、行政が避難先を制限することではありません。
避難者本人、家族、地域支援者などが、現在の所在と必要な支援を報告できる仕組みです。
最低限、次の情報を登録できるようにする必要があります。
- 本人と家族の安否
- 現在の避難先
- 誰と一緒にいるか
- 食料や生活用品の不足
- 医療、介護、障害、服薬などの支援ニーズ
- 今後の移動予定
- 連絡可能な方法
LINEやウェブだけでなく、電話、紙、訪問、地域の代理登録など、複数の手段が必要です。
そして最も大切なのは、登録した情報が実際の支援につながることです。
登録しても何も届かないのであれば、住民は登録する意味を感じません。
所在把握は行政の管理のためではなく、必要な支援を届けるために行われるべきです。
4.「増え続けるニーズ」と「減り続ける資源」
災害時に支援を必要とする人や課題は増え続けます。
一方で、人口減少や職員削減、高齢化によって、自治体職員、消防団員、民生委員、自治会役員、医療・福祉人材などの支援資源は減少しています。
避難先が多様化すれば、支援対象となる場所も増えます。
指定避難所だけでなく、在宅避難者、自主避難所、車中泊者、遠方避難者にも対応するとなれば、行政だけですべてを担うことは困難です。
しかし、そこで「自分で対応できる人は自分で」「地域で助け合って」とするだけでは、公助の責任放棄になりかねません。
考えるべきなのは、公助を減らすための自助・共助ではなく、限られた公的資源を本当に支援が必要な人へ届けるための役割分担です。
- 行政は、最低限の生活保障と標準的な支援を担う
- 医療・福祉職は、専門的支援を担う
- NPOは、個別事情に応じた柔軟な支援を担う
- 社会福祉協議会や中間支援組織は、支援者同士を調整する
- 地域住民は、安否確認や身近な助け合いを担う
- 国や県は、人材、資金、情報基盤を支える
重要なのは、それぞれを分断するのではなく、一つの支援ネットワークとしてつなぐことです。
5.地域コミュニティは万能ではない
災害時には、「地域のつながりが大切」「地域単位で避難するべき」と言われます。
実際、住民がどの家に誰が住んでいるか、どこが空き家か、誰が高齢者や障害者か、どこに重機や工具があるかを知っていたことで、倒壊家屋から住民を救出できた事例があります。
地域の知識と人間関係は、行政の名簿だけでは代替できない重要な資源です。
一方、地域コミュニティには負の側面もあります。
- 女性に炊事や世話役が集中する
- 古くからの上下関係が持ち込まれる
- 地域に属したくない人が排除される
- 少数意見が聞かれにくい
- 人間関係のしがらみから避難や帰還をためらう
- 「地域のため」という理由で個人の希望が抑えられる
したがって、元の地域をそのまま維持することだけを目標にしてはなりません。
地域と一緒に避難したい人もいれば、別の場所へ避難したい人もいます。一人ひとりが選べることが、人権と尊厳を守る上で重要です。
6.複数のコミュニティが孤立を防ぐ
人は、家族や自治会だけで生きているわけではありません。
職場、学校、趣味、友人、ボランティア、スポーツ、オンライン、福祉サービスなど、さまざまなコミュニティに属しています。
複数のつながりを持っていれば、一つの居場所を失っても、別の場所から支援や情報を受け取れます。避難によって元の地域から離れても、新しい避難先で人間関係が生まれることもあります。
二次避難先でラジオ体操、買い物支援、サロン活動などを続けたことで、別々の地域から来た避難者の間に新しいつながりが生まれた事例もあります。
復興では、元のコミュニティを守ることだけでなく、新しいコミュニティが育つ環境をつくることも重要です。
一人暮らしでも、独りぼっちにしない。
一つの居場所を失っても、人生まで失わない。
7.制度の隙間を歩く「フラフラできる人」
今回の議論で象徴的だったのが、「フラフラできる人」の必要性です。
災害対応では、行政職員も支援団体も自分の担当業務に追われます。その結果、担当の境界にある問題や、どの制度にも当てはまらない人が見落とされます。
そこで必要になるのが、特定の仕事に縛られず、避難所や地域を歩き、住民と雑談し、小さな困りごとを見つける人です。
その役割は、単に自由に歩き回ることではありません。
- 孤立している人に気づく
- 相談しにくい人の声を聞く
- 支援制度に当てはまらない課題を発見する
- 地域の人材や物資を見つける
- 困りごとと支援できる人を結びつける
- 行政と住民の間を通訳する
- 支援者同士の重複や空白を調整する
こうした役割には、経験、信頼、観察力、調整力が必要です。
バタバタしている人には相談しにくい。
フラフラしている人がいるから、話せることがある。
行政や支援組織にも、業務を細かく固定しすぎず、地域を横断して動ける調整役を配置する必要があります。
8.行政と住民の対立を「通訳」がつなぐ
災害時には、行政は公平性、制度、期限、安全性を重視します。一方、住民は自分や家族の具体的な生活事情を訴えます。
両者の間で言葉や優先順位が異なるため、行政対住民という対立関係になりやすくなります。
その間に入り、双方の事情を理解して通訳する人が必要です。
- 住民の生活上の困難を行政の制度に翻訳する
- 行政の制約を住民に分かる言葉で説明する
- 意見の強い人だけでなく、声の小さい人の意見を拾う
- 話し合いの場を中立的に進行する
- 合意できない点と、合意できる点を整理する
NPO、中間支援組織、生活支援コーディネーター、ファシリテーターなどが、この役割を担うことが考えられます。
9.個人情報を「命を守る共有知」に変える
行政が保有する個人情報を無制限に公開することはできません。しかし、「個人情報だから共有できない」として、医療、福祉、NPOなどの支援者に必要な情報が届かなければ、被災者を救えない場合があります。
必要なのは、個人情報保護か情報共有かという二者択一ではありません。
- 共有する目的を支援に限定する
- 共有する情報を必要最小限にする
- 誰が閲覧できるかを決める
- 本人同意や代理登録の方法を整える
- 利用記録を残す
- 災害対応後に情報を削除・更新する
こうしたルールを平時から準備する必要があります。
地域住民が持つ情報も、重要な「共有知」です。ただし、地域内で無制限に広めるのではなく、見守りや救助に必要な範囲で管理しなければなりません。
個人情報を守ることと、個人の命を守ることを対立させてはならない。
10.デジタル化だけでは問題は解決しない
台湾では、行政機関が被害状況、避難者数、支援物資、支援活動などを共有する情報基盤が整備されているとの紹介がありました。
日本でも技術的には同様のシステムを構築できます。
しかし、自治体や省庁ごとに異なるシステムを使用し、入力項目やデータ形式も統一されていなければ、情報を集めても共有できません。
さらに、最大の問題は技術ではなく、行政組織や社会の関係性です。
住民やNPOを支援の対等なパートナーとして扱わず、行政内部だけで情報を囲い込めば、優れたシステムがあっても支援にはつながりません。
必要なのは、共通のデータ設計と、情報を託せる信頼関係の両方です。
データを集めただけでは支援にならない。
必要な人に届いて、初めて支援になる。
11.住民先行型・行政後追い型の防災
地域住民や民間事業者が自主的に避難場所や見守りの仕組みをつくり、行政がそれを制度、情報、物資、保険、財源などで支える考え方が示されました。
例えば、地域の話し合いで安全な個人宅、寺社、企業、マンションなどを一時避難場所として決め、行政が防災マップや登録制度に位置づける方法です。
住民の自発的な取り組みには、行政制度にはない柔軟性があります。一方、住民だけに責任を負わせることはできません。
行政は、住民の取り組みを規制するだけでなく、継続できるように後ろから支える必要があります。
行政が全部決めるのでも、地域に全部背負わせるのでもない。
住民が先に動き、行政が責任を持って支える。
12.平時の信頼が、災害時の支援を動かす
民間施設や個人宅を避難場所として利用する場合、災害が起きてから突然「受け入れてください」と頼んでも、円滑に進むとは限りません。
平時から次のような準備が必要です。
- 避難先の候補を複数探す
- 受け入れ側と顔を合わせる
- 何人まで受け入れられるか確認する
- 鍵、トイレ、水、電源、備蓄を確認する
- 高齢者や障害者の個別避難計画を作る
- 住民を含めた設営・受け入れ訓練を行う
- 行政、福祉、地域、NPOの連絡先を共有する
支援制度やデジタルシステムだけでは、人は動きません。最後に支援を動かすのは、相手を信頼して頼れる関係です。
結論
これからの防災に必要なのは、指定避難所の数を増やし、環境を改善することだけではありません。
自宅、車中、ホテル、親族宅、民間施設など、どこに避難していても、必要な支援につながる仕組みが必要です。
そのためには、行政が標準的な支援と最低限の生活保障を担い、NPO、福祉、医療、企業、地域住民、中間支援組織が、それぞれの力を持ち寄る必要があります。
さらに、避難者自身が所在や支援ニーズを報告できる仕組み、必要な情報を安全に共有するルール、制度の隙間を発見して人と支援をつなぐ調整役が欠かせません。
そして、すべての出発点に置くべきなのは、行政の管理や運営の都合ではなく、被災者一人ひとりの人権と尊厳です。
避難所中心から被災者中心へ。
場所を管理する防災から、どこにいても命と暮らしを支える防災へ。
平時の信頼と多様なつながりが、災害時に誰一人取り残さない支援を生み出します。
