制度はある。なのに、なぜ被災者は救われないのか 20260817 全国防災関係人口ミートアップ「申請を待つ支援」から、誰一人取り残さない伴走型支援へ 「被災者支援情報交流会〜制度を「知って」「活用する」ために」

16.議論から導かれる本質的な結論
今回の交流会で明らかになったのは、被災者支援の最大の問題が「制度がないこと」だけではないという点です。
本当に深刻なのは、次の分断です。
- 制度と制度の分断
- 部署と部署の分断
- 行政と民間の分断
- 専門家と地域の分断
- 避難期と再建期の分断
- 住宅と福祉の分断
- 支援情報と被災者の分断
被災者の生活は一つにつながっています。しかし、支援する側の仕組みは法律、部署、予算、期限ごとに分かれています。
この分断をつなぐために必要なのが、
- 被災者を中心に制度を組み合わせる仕組み
- 支援状況を共有するDX
- 地域で声をかける「おせっかいな人」
- 専門家へつなぐ中間支援者
- 最後まで伴走する災害版ケアマネージャー
- 都道府県が主導する広域的な支援基盤
です。
最終的に目指すべきなのは、単に「制度を紹介する行政」ではありません。
困っている人を発見し、その人が何を大切にしているかを聞き、必要な制度を組み合わせ、本人が再び自分の生活を選べるところまで伴走する支援
への転換です。
その第一歩は、大きな制度改正だけではありません。
窓口、避難所、訪問先で、
「ほかに困っていることはありませんか」
「ご近所に、支援が必要な人はいませんか」
と尋ねることです。
この「一言の優しさ」と、制度・DX・専門性を組み合わせることが、誰も取り残さない被災者支援につながる――それが今回の交流会の中心的なメッセージです。
全体サマリー
今回の交流会では、熊本地震や千葉豪雨の現場を踏まえ、被災者支援制度が「存在していても、必要な人に届かない」という構造的な問題が議論されました。
被災者支援は申請主義を基本としているため、制度を知り、自分で調べ、期限内に手続きできる人ほど支援を受けやすくなります。一方、高齢者、独居者、障害のある人、情報にアクセスできない人ほど取り残されやすく、制度が事実上の「弱肉強食」になっています。
生活再建の出発点となるのが罹災証明です。最初の判定が低ければ、応急修理、公費解体、生活再建支援金など、その後の選択肢が狭まります。しかし、調査員の経験差、建物内部や地盤被害の見落とし、調査票の非開示などが、適正な判定を難しくしています。
また、支援制度が縦割りで複雑なため、自治体職員であっても制度全体を把握することは容易ではありません。平時には扱わない業務が災害時に一気に発生し、行政職員、建築業者、専門家、ボランティアのすべてが不足する構造になっています。
そこで提案されたのが、支援制度診断アプリなどのDXと、被災者に寄り添う「災害版ケアマネージャー」の組み合わせです。アプリは使える制度の見当をつけ、支援者を本当に人の手が必要な被災者へ集中させることができます。しかし、最後に再建を支えるのは、本人の希望を聞き、手続きや住宅選択に伴走する「人」です。
議論全体を貫いたのは、被災者支援を行政からの恩恵ではなく、生活を再建するための当然の支援として捉えること。そして、住民と行政を対立させず、平時から行政、士業、NPO、自治会、民生委員、企業などが顔の見える関係をつくる必要がある、という考え方でした。
特に刺さる言葉
※自動文字起こしをもとに、意味を変えない範囲で読みやすく整えています。
支援制度の本質を突く言葉
- 「支援は恩恵ではない。堂々と受けていい」
- 「申請主義は、知識があって動ける人だけが制度を使える『弱肉強食』になっている」
- 「支援制度があることと、被災者が実際に使えることは別問題だ」
- 「期限に追われ、置いていかれる被災者を出してはいけない」
- 「行政は、作成して満足では、市民は困る」
- 「住民にとって、窓口の『担当者ガチャ』が一番つらい」
罹災証明をめぐる言葉
- 「罹災証明が、生活再建のすべてのスタートになる」
- 「最初の判定が低ければ、その後の支援の選択肢が閉ざされる」
- 「住民からの情報は、適正な判定に近づくための宝物だ」
- 「住民と自治体は、決して敵同士ではない」
- 「税務課から福祉課へ、愛のあるバトンを渡す」
- 「調査票がなければ、専門家でも再調査の助言はできない」
人とDXをつなぐ言葉
- 「機械が制度を探し、人がその人の人生に寄り添う」
- 「大事なのは、アプリの先にいる『おせっかいな人』だ」
- 「アプリと人、その両方の良さを生かす」
- 「分かる人はアプリで進み、分からない人に支援者を集中する」
- 「誰が伝えるかによって、情報の届き方は変わる」
- 「防災とは、おせっかいの輪のつながりだ」
行政と地域の責任を問う言葉
- 「避難所の最大の使命は、人を死なせないことだ」
- 「場所の支援から、人の支援へ」
- 「平時の脆弱性が、そのまま災害時に顕在化する」
- 「他に困っている人はいませんか――その一言が支援を広げる」
- 「一言の優しさが、届かなかった支援を動かす」
- 「民間の資産だからと支援しなければ、地域の息の根が止まる」
- 「生活再建が遅れ、働き手や子育て世代が流出すれば、自治体の持続可能性まで失われる」
- 「できる人が、できるときに、できることを、できる分だけ」
論点整理
| 論点 | 現在の問題 | 求められる方向 |
|---|---|---|
| 被害実態の把握 | 特に水害は外から被害が見えず、把握が遅れる | 住民投稿、地図情報、写真、計測機器、戸別訪問を組み合わせる |
| 罹災証明 | 初期判定の見落としや調査員による差が、再建可能性を左右する | 建築士の初期同行、目線合わせ、地盤調査の活用 |
| 調査の透明性 | 調査票が開示されず、再調査の根拠を示しにくい | 調査票・採点根拠の原則開示と専門家相談 |
| 住民と行政の関係 | 窓口が対立の場となり、住民が相談を諦める | 行政・建築士・弁護士が同じ場で再調査を支援する |
| 申請主義 | 動ける人だけが支援を受け、弱い人ほど取り残される | 未申請者を把握して働きかけるプッシュ型支援 |
| 制度の複雑さ | 応急修理や仮設住宅などの手続きが、被災者・業者・職員の負担になる | 現金給付、家賃補助、事後精算など簡素な制度を検討 |
| 情報提供 | 冊子やホームページを作っても、必要な人に届かない | 紙とデジタルを併用し、説明する人までセットにする |
| DX・AI | 制度検索や対象判定を効率化できる一方、誤情報や更新漏れの危険がある | 公的根拠、更新責任、個人情報保護、専門家確認を明確にする |
| 災害版ケアマネ | 高齢者や独居者の再建を最後まで支える人がいない | 地域人材の育成、専門家との連携、報酬と責任範囲の制度化 |
| 民生委員・ケアマネ | 平時から過重負担で、災害時対応がシャドーワークになる | 個人に背負わせず、チームで支える仕組みと財源を用意する |
| 避難所 | 食事、トイレ、衛生管理が毎回混乱する | 命を守る公的責任を明確にしたうえで住民主体の運営を支える |
| 在宅避難者 | 避難所に来ない人の状況やニーズが見えにくい | 公民館などの「小さな拠点」で情報・水・相談を提供する |
| 住宅再建 | 建築費高騰で支援金だけでは自力再建が困難 | 追加支援により自力再建を後押しし、地域流出を防ぐ |
| 災害公営住宅 | 故郷や畑から離れた集合住宅しか選べない場合がある | 私有地・集落内への設置や小規模分散型住宅も検討する |
| 広域支援 | 市町村だけでは人材、知識、調整力が足りない | 都道府県、中間支援組織、士業、NPOを結ぶ常設基盤をつくる |
| 平時の準備 | 災害後に制度や連携先を確認している | 平時から合同研修、模擬相談、情報共有、役割分担を行う |
この議論の核心
最大の問題は、支援制度が少ないことだけではありません。
被災者の生活は一つにつながっているのに、支援制度は部署、法律、期限ごとに分断されていることです。
必要なのは、次の転換です。
- 「申請を待つ支援」から「困っている人を見つける支援」へ
- 「制度を説明する支援」から「再建まで伴走する支援」へ
- 「部署中心の支援」から「被災者一人ひとりを中心とした支援」へ
- 「行政だけで抱える対応」から「地域・専門家・民間との共同対応」へ
- 「災害後に考える仕組み」から「平時に準備する仕組み」へ
結局、被災者を救うのは制度の数ではなく、制度と人をつなぎ、最後まで再建に伴走する仕組みだというのが、今回の議論の最も重要な結論です。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g21605022.htm
https://www.ebara.com/jp-ja/newsroom/2025/20251219_02/
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/kenko_fukushi/sisetuseibihojyokin_saigai.html
https://sadahiro-law.com/suigairec/
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/25134.pdf
被災者支援情報交流会・詳細サマリー
1.交流会の目的
今回の交流会は、熊本地震と千葉豪雨を受け、被災者が生活再建支援制度を「知り、実際に活用できる状態」をどうつくるかを考えるために開催されました。
中心となったのは永野海弁護士による問題提起です。一方的な講演ではなく、自治体職員、弁護士、建築士、大学関係者、NPO、自治会、防災関係者など約170人が、現場の経験や疑問を持ち寄る対話形式で進められました。
議論の根底にあったのは、次の問題意識です。
被災者支援制度は数多く存在する。しかし、制度があるだけでは被災者は救われない。必要な人が制度を知り、理解し、期限内に申請し、生活再建まで使い切れる仕組みが必要である。
2.被災者支援を難しくしている四つの構造的要因
被災者支援の問題は、一つの制度の欠陥だけで起きているのではありません。交流会では、おおむね次の四つの要因が複雑に絡み合っていると整理されました。
① 法律・制度の問題
災害救助法、被災者生活再建支援法、応急修理、公費解体、応急仮設住宅、災害公営住宅、税制上の支援など、制度が細かく分かれています。
制度ごとに対象、条件、申請先、期限、必要書類が異なり、被災者は自分が何を使えるのかを簡単には判断できません。
② 運用の問題
同じ制度でも、自治体によって説明や取扱いに差が生じる場合があります。特に罹災証明、応急修理、再調査などは、現場の判断や情報提供の仕方が被災者の再建に大きな影響を与えます。
③ 人手不足
不足しているのは自治体職員だけではありません。
- 被害認定調査を行う職員
- 建築士や弁護士などの専門家
- 修理や解体を行う事業者
- 避難所を運営する人
- 被災者に制度を説明する人
- 高齢者などに伴走する支援者
あらゆる分野で人が足りず、複数の災害が同時に起きれば、限られた支援者をどこへ派遣するかという問題も生じます。
④ 建築費・物価の高騰
住宅の修理や再建、仮設住宅、災害公営住宅の建設費は以前より大幅に高くなっています。
従来の支援金額を前提とした制度では、現在の建築費に対応できません。制度上は再建支援があっても、実際には住宅を建てられないという状況が生まれています。
3.災害直後に起きる問題
3-1.水害の被害は外から見えない
地震では建物の倒壊などが外から見えやすい一方、水害では、外観に大きな変化がなくても、建物内部が深刻な被害を受けている場合があります。
例えば、壁の内部、床下、断熱材、配管、給湯器、電気設備などが被害を受けても、外から見ただけでは分かりません。
行政が被害実態を把握するためには戸別訪問が必要ですが、全戸を調査するには大きな時間と人員を要します。その間にも、被災者は修理や避難先の判断を迫られます。
提案された改善策
- 住民や支援者が被害情報を地図上へ投稿する
- 写真や浸水深、孤立状況を共有する
- 水分計などで見えない浸水被害を数値化する
- 行政、保健師、NPO、地域住民が戸別訪問を分担する
- まず被害が深刻と思われる地域をDXで絞り込む
DXは戸別訪問を不要にするものではなく、限られた人員を優先度の高い地域へ振り向ける手段として位置づけられました。
3-2.避難所は「人を死なせない場所」
避難所について、最も重要な目的は「快適性」以前に、災害関連死を防ぎ、人の命を守ることだと指摘されました。
食事、トイレ、睡眠環境、衛生、温度管理、医療、プライバシーなどが不十分であれば、避難所そのものが命を脅かす場所になります。
避難所運営を住民主体にすることは重要ですが、それによって行政や国の責任がなくなるわけではありません。
整理すると、次の二つを両立させる必要があります。
- 命を守るための最低基準を行政が保障する
- 実際の運営には住民や地域団体が主体的に関わる
「自主運営」という言葉が、公的責任を曖昧にするために使われてはならないという問題意識です。
3-3.食事・トイレ・物資調整の専門性
避難所では、食事の数だけを確保すればよいわけではありません。
- 同じ食品が連日続いていないか
- 高齢者や乳幼児、アレルギーのある人に対応できているか
- 夏場の食中毒を防げるか
- 配送中の温度管理ができているか
- トイレや手洗い環境が維持されているか
こうした調整には専門性が必要です。
災害のたびに自治体職員が初めて取り組むのではなく、避難所、食事、物資、トイレなどの分野ごとに、経験を持つ人材や団体へ一定の業務を任せる仕組みが必要だとされました。
4.罹災証明が生活再建の入口を決める
4-1.最初の判定が、その後の支援を左右する
罹災証明は、単なる被害の証明書ではありません。
判定結果は、次のような制度の対象になるかどうかを左右します。
- 被災者生活再建支援金
- 応急修理
- 公費解体
- 仮設住宅
- 税や保険料の減免
- 義援金
- 自治体独自の追加支援
最初の判定が実態より低ければ、その後どれほど支援策が追加されても、被災者が対象にならない可能性があります。
そのため、罹災証明は生活再建の「最初の関門」であり、「スタート地点」だと位置づけられました。
4-2.「甘い・厳しい」ではなく、調査の限界が問題
自治体職員からは、住家被害認定調査は国の基準と点数表に従って行っており、調査員が恣意的に甘くしたり厳しくしたりするものではない、との意見が出されました。
これに対し、永野弁護士は、職員が意図的に厳しい判定をしていると批判しているのではないと説明しました。
本質的な問題は、次の点にあります。
- 調査員の多くは建築士ではない
- 外観調査だけでは内部被害を判断できない
- 地盤被害や構造上のひび割れの意味を評価しにくい
- 応援職員が短期間で交代するため、判断の目線を統一しにくい
- 一度大量に低い判定を出すと、後から全体を修正するのが難しい
つまり、個々の職員の姿勢よりも、専門知識がなくても短時間で大量に判定しなければならない制度設計に問題があるという指摘です。
4-3.初動段階から建築士を入れる
改善策として、調査開始前に建築士と自治体職員が数十件を一緒に確認し、被害の見方を共有する方法が提案されました。
特に必要とされたのは、次の取組です。
- 前任調査班と後任調査班の「目線合わせ」
- 地盤被害調査票の積極的な活用
- 水平器などを使った傾斜の確認
- 建築士による構造被害の助言
- 調査員向けの実物研修
- 調査中に発見された事例の共有
災害後に一から方法を検討するのではなく、平時から建築士会などと協定を結び、同行調査や相談体制を準備する必要があります。
4-4.調査票の開示が必要
再調査を求めようとしても、自治体がどの部分をどのように採点したのか分からなければ、住民や専門家は具体的な意見を出せません。
そのため、住家被害認定調査票や採点根拠の開示が重要だと指摘されました。
調査票を開示すれば、単に再調査の申請が増えるという懸念もあります。しかし、建築士や弁護士が事前に内容を確認すれば、判定が変わる可能性のない申請を減らし、見落としの可能性がある案件に絞ることもできます。
4-5.牧之原市の協働事例
議論では、牧之原市において、自治体の税務担当職員、建築士、弁護士が同じ相談会場で協働した事例が紹介されました。
流れは次のとおりです。
- 自治体が調査票をその場で出す
- 建築士と弁護士が建物写真と調査票を照合する
- 見落としの可能性がある部分を特定する
- 建築士が自治体職員に専門的な説明をする
- 再調査では、その部分を重点的に確認する
この方法により、根拠の乏しい再調査申請を減らしながら、必要な案件では効率的に適正な判定へ近づけることができたとされました。
これは「住民対行政」という対立ではなく、住民、専門家、行政が同じ目的に向かって動くモデルです。
5.申請主義が生み出す「支援の格差」
5-1.動ける人ほど支援を受けられる
現行制度の多くは、被災者本人が制度を知り、自ら申請することを前提としています。
しかし、災害直後の被災者は、次のような状況に置かれます。
- 家族や知人を失っている
- 自宅が壊れ、生活の拠点を失っている
- 仕事や介護、子育てを続けなければならない
- 避難先を転々としている
- 書類を失っている
- 心身ともに疲弊している
- インターネットを使えない
- 制度用語を理解できない
この状態で複数の制度を調べ、期限を管理し、書類を揃えることを求めれば、知識があり、家族や専門家の支援を受けられる人ほど有利になります。
そのため、申請主義が「弱い人を支える制度」ではなく、「知識があって動ける人が支援を取っていく弱肉強食」に変わっている、という厳しい指摘がありました。
5-2.「自分より大変な人がいる」という遠慮
被災者の中には、自分の被害を過小評価し、支援を受けることを遠慮する人もいます。
- 「うちは大した被害ではない」
- 「もっと困っている人がいる」
- 「役所に迷惑をかけたくない」
- 「支援を受けるのは申し訳ない」
しかし、後から支援制度が追加されたり、税の雑損控除や保険手続きで罹災証明が必要になったりする可能性があります。
支援を「行政からの恩恵」と考えると、被災者同士の遠慮や奪い合いが生まれます。支援は生活を再建するために用意されたものであり、条件を満たす人は堂々と利用してよいという意識を、平時から共有する必要があります。
5-3.プッシュ型支援への転換
申請を待つだけでなく、行政が未申請者を把握し、必要な制度を案内するプッシュ型支援が求められました。
窓口で一つの相談が終わったとき、職員や支援者が、
「ほかに困っていることはありませんか」
「ご近所に困っている人はいませんか」
と一言尋ねるだけでも、支援につながっていない人を発見できる可能性があります。
制度を全面的に変えるには時間がかかりますが、この「一言の優しさ」は、今すぐ始められる改善策として強調されました。
6.応急修理制度の使いにくさ
6-1.制度を待つと、修理が遅れる
水害では、濡れた床や壁、断熱材を早く撤去し、乾燥させなければ、カビや腐朽が進行します。そのため、被災者はできるだけ早く修理したいと考えます。
一方、応急修理制度は、自治体を介した手続きや業者との調整が必要です。制度を知らずに先に契約や支払いを済ませると、支援の対象外になる可能性があります。
このため、被災者は次の板挟みになります。
- 制度を待てば、生活環境の回復が遅れる
- 先に修理や支払いをすると、支援を使えない可能性がある
6-2.制度が職員と業者の負担を増やしている
応急修理制度は、被災者だけでなく、自治体職員や工事業者にも複雑な書類や手続きを求めます。
平時には行っていない業務を、最も人手が足りない災害時に自治体へ集中させる構造になっています。業者側も手続きを敬遠し、制度を利用できる工事業者が限られる場合があります。
議論では、現行の委託・精算方式だけでなく、次のような簡素化が必要ではないかとの意見が出ました。
- 被災者への現金給付
- 後からの補助金方式
- 自分で購入した部材への補助
- 家賃補助との併用
- 一定額までの事後精算
ただし、修理や支払いの取扱いは災害、自治体、制度適用時点によって異なるため、個別案件では必ず自治体や専門家への確認が必要です。
7.情報が届かない理由
7-1.制度の一覧表を配るだけでは不十分
支援制度の冊子や一覧表は必要ですが、被災直後の人に大量の情報を渡しても、理解できるとは限りません。
被災者は、「制度名を知りたい」のではなく、次のことを知りたいのです。
- 自分は何を使えるのか
- 今、何を先にすべきか
- いつまでに何をしなければならないか
- 修理してよいのか
- どこへ相談すればよいか
- 自宅に戻れるのか
- 今後いくら必要になるのか
制度別の説明ではなく、被災者の時間軸に沿った「生活再建のロードマップ」が必要です。
7-2.「何を伝えるか」だけでなく「誰が伝えるか」
行政が立派なガイドブックを作っても、市民が存在を知らなければ意味がありません。
また、同じ情報でも、信頼している自治会長、民生委員、ケアマネジャー、地域のボランティアなどから説明されれば、受け止め方が変わります。
したがって、情報提供は次の三点をセットで考える必要があります。
- 分かりやすい資料
- 使える制度を絞り込むツール
- 被災者に説明し、伴走する人
8.DX・アプリの可能性
8-1.生活再建支援ナビ
自治体職員が被災者の状況を入力すると、利用できる可能性のある制度を表示し、申請状況を庁内で共有できる仕組みが紹介されました。
こうしたシステムがあれば、担当職員が制度全体を暗記していなくても、
- 仮設住宅を申請できるのに未申請
- 基礎支援金は申請済みだが加算支援金は未申請
- 次に必要な手続きが残っている
といった状況を把握できます。
「自分の担当制度だけを見る」のではなく、被災者が生活再建のどの位置にいるかを、庁内全体で共有できることが大きな利点です。
8-2.「被災地のおせっかい」アプリ
交流会では、被災者と会話しながら使える生活再建支援アプリの実践例が紹介されました。
このアプリの特徴は、単に条件を入力して制度名を表示するだけではなく、
- 元の場所に住み続けたいか
- 近所の人と離れたくないか
- 生活の中で何を大切にしたいか
といった本人の希望を確認しながら、再建の方向を考えられることです。
つまり、被災者に答えを押しつけるのではなく、被災者自身が選択に参加する設計になっています。
8-3.DXが支援者を増やす
アプリを使えば、すべての支援者が専門家でなくても、一定の情報提供が可能になります。
専門家が制度の基本構造と根拠を整備し、地域の支援者がアプリを使って被災者と話し、難しい案件だけを弁護士や建築士につなぐ形です。
これにより、
- 自力で進められる人はアプリで進む
- 少し支援が必要な人には地域の人が伴走する
- 複雑な案件へ専門家を集中する
という支援の振り分けが可能になります。
8-4.DXだけでは解決しない
一方、デジタル化には注意点もあります。
- 高齢者などがスマートフォンを使えない
- 制度改正がアプリに反映されない危険
- AIが誤った制度を案内する可能性
- 個人情報の取扱い
- 災害による通信障害
- 画面だけでは本人の本当の希望を把握できない
したがって、紙とデジタルの併用、根拠法令の明示、更新責任の明確化、専門家への接続が不可欠です。
DXの役割は人を排除することではなく、人にしかできない伴走へ時間を振り向けることです。
9.災害版ケアマネージャーの必要性
9-1.高齢者を家族だけでは支えられない
過疎地域では、親だけが地元に残り、子どもは遠方で生活している世帯が増えています。
災害後、高齢者が元の場所で住宅を再建したいと思っても、子どもが反対することがあります。
子ども側にも、
- 高齢になってから多額の借金をしてほしくない
- 災害公営住宅に入った方が安全ではないか
- 遠距離で支援し続けることができない
- 将来の介護や相続が心配
といった事情があります。
一方、高齢者本人は、長年住んだ地域を離れたくない、畑仕事を続けたい、近所の人と暮らしたいと考えます。
生活再建には、法律や住宅だけでなく、家族関係、介護、収入、本人の尊厳まで含めた調整が必要です。
9-2.再建には長期の伴走が必要
高齢者が住宅を再建するには、次の支援が必要になる場合があります。
- 支援制度の説明
- 罹災証明や再調査の手続き
- 複数の工事見積もりの取得
- モデル住宅の見学
- 契約内容の確認
- 家族との話し合い
- 福祉・介護制度との接続
- 仮住まいから恒久住宅への移行
これらを一人で行うことが難しい人に、長期的に寄り添うのが「災害版ケアマネージャー」の考え方です。
9-3.誰が担うのか
候補として挙げられたのは、
- 民生委員・児童委員
- ケアマネジャー
- ケースワーカー
- 自治会役員
- 地域のボランティア
- 学生
- 元公務員
- 士業
- NPO職員
などです。
ただし、既存の担い手に無償で仕事を追加するだけでは持続しません。ケアマネジャーや民生委員は、平時から多くの世帯を担当し、制度外の支援をシャドーワークとして背負っています。
必要なのは、個人の善意だけに依存せず、
- 業務範囲
- 研修制度
- 報酬
- 責任
- 専門家への相談経路
- 被災者情報へのアクセス権限
を制度化することです。
10.地域の「おせっかい」と小さな拠点
10-1.地域には支援の入口となる人がいる
被災地では、制度に詳しくなくても、困っている人に声をかけ、LINEを読んであげたり、申請を手伝ったり、一緒に泣いたりする人がいます。
こうした「ほどよいおせっかい」が、行政や専門家につながっていない被災者を発見します。
重要なのは、地域のおせっかいな人を専門家にすることではなく、最低限のツールと知識を渡し、必要なときに専門家へつなげられるようにすることです。
10-2.自治会による共同発注の例
能登の集落では、個々の住民では業者を呼べなかったブルーシート工事について、自治会が希望者を取りまとめ、業者と交渉した事例が紹介されました。
共同で依頼することで、
- 業者が遠方まで来る採算を確保できる
- 住民が個別に交渉する負担を減らせる
- 不適切な業者や詐欺を防ぎやすい
- 地域全体の進捗を把握できる
という利点があります。
10-3.公民館などの「小さな拠点」
在宅避難者が多い場合、指定避難所だけを支援拠点にしても、情報が届きません。
地域の公民館や集会所に、
- 水
- 洗濯
- 入浴
- 物資
- 情報
- 相談
- 住民同士の交流
を集めれば、在宅避難者の状況を把握する入口になります。
生活に必要なサービスを提供する場所と相談窓口を組み合わせることで、困りごとを自然に聞き出せます。
11.自力再建を支えることは自治体を守ること
建築費が高騰する中、支援金や義援金だけで住宅を再建するのは困難です。
自力再建できない被災者が増えれば、災害公営住宅への入居が増えます。災害公営住宅は必要な制度ですが、自治体には将来にわたって、
- 建物の維持管理
- 修繕
- 空室対策
- 入居管理
- 家賃管理
などの負担が残ります。
一方、住民が地域内で住宅を再建できれば、
- 人口流出を抑えられる
- 固定資産税などの税収を維持できる
- 商店、医療、介護など地域サービスを残せる
- 地域コミュニティーを維持できる
という効果があります。
したがって、被災者への追加支援は、個人への救済であると同時に、自治体の将来を守る投資でもあります。
12.災害公営住宅と本人の尊厳
災害公営住宅が市街地の集合住宅として整備されると、集落に住んでいた高齢者は、長年の土地や人間関係から切り離される場合があります。
住宅だけ確保されても、
- 畑仕事ができない
- 近所付き合いがなくなる
- 移動手段がない
- 孤立する
- 生きがいを失う
という問題が起こります。
そのため、公営住宅は単に戸数や建設費で考えるのではなく、
- 元の地域との距離
- 一戸建てや小規模分散型の可能性
- 私有地への仮設・公営住宅設置
- 交通や医療、買物環境
- 本人が大切にしてきた生活
を考慮する必要があります。
「住宅を与えること」と「その人らしい暮らしを再建すること」は同じではありません。
13.民間施設の再建と地域の持続可能性
医療機関、福祉施設、商店、事業所などは民間資産ですが、地域の生活を支える公共的な役割を担っています。
建物や水道設備の復旧ができず、閉院・廃業・撤退すれば、地域住民の生活基盤そのものが失われます。
特に地方では、被災後に働き手や子育て世代が流出すると、人口減少が加速し、自治体の存続にも影響します。
したがって、
「民間資産だから公的支援の対象外」と単純に切り分けると、地域全体の息の根を止める可能性がある
という指摘が出されました。
個人住宅だけでなく、医療、福祉、雇用、商業などを含めた地域再建の視点が必要です。
14.市町村だけでは支え切れない
市町村は被災者に最も近い行政ですが、自らも被災し、職員や庁舎、通信、道路などに被害を受けます。
その市町村だけに、避難所運営、罹災証明、仮設住宅、生活相談、公費解体、復興計画などを集中させるのは限界があります。
そこで、次の三つが必要だと整理されました。
① 広域自治体による調整
都道府県が、市町村間の応援職員、専門家、NPO、事業者などの配置を調整する必要があります。
② 中間支援組織
行政と住民、専門家、NPOの間に立ち、現場の声を政策へつなぐ組織が必要です。
単なる連絡会ではなく、現地を確認し、行政と議論し、制度運用の改善を提案できる組織が求められます。
③ 民間が動くための財源
善意や持ち出しだけでは長期支援を続けられません。
- 人件費
- 交通費
- 事務所費
- 通信費
- 専門家への謝金
- 地域拠点の運営費
などを支える復興基金や助成制度が必要です。
15.平時から準備すべきこと
今回の議論は、災害後の対応だけを扱ったものではありません。むしろ、災害が起きてから連携先や制度を調べても間に合わないという点が強調されました。
平時に準備すべき事項は次のとおりです。
- 被災者支援の総合窓口を決める
- 住家被害認定調査の研修を行う
- 建築士会、弁護士会、土地家屋調査士などと協定を結ぶ
- 行政、社協、NPO、地域団体の合同訓練を行う
- 生活再建支援制度を使ったワークショップを実施する
- 紙とデジタルの支援ガイドを準備する
- 被災者情報を共有する仕組みと権限を整理する
- 災害ケースマネジメントの人材を育成する
- 公民館など地域の小さな支援拠点を決める
- 他自治体の優良事例を積極的に取り入れる
自治体には、民間企業のようにノウハウを囲い込む理由はありません。能登町などが作った優れたガイドブックや、他自治体の運用を共有し、平時から「真似して備える」ことが重要だとされました。
16.議論から導かれる本質的な結論
今回の交流会で明らかになったのは、被災者支援の最大の問題が「制度がないこと」だけではないという点です。
本当に深刻なのは、次の分断です。
- 制度と制度の分断
- 部署と部署の分断
- 行政と民間の分断
- 専門家と地域の分断
- 避難期と再建期の分断
- 住宅と福祉の分断
- 支援情報と被災者の分断
被災者の生活は一つにつながっています。しかし、支援する側の仕組みは法律、部署、予算、期限ごとに分かれています。
この分断をつなぐために必要なのが、
- 被災者を中心に制度を組み合わせる仕組み
- 支援状況を共有するDX
- 地域で声をかける「おせっかいな人」
- 専門家へつなぐ中間支援者
- 最後まで伴走する災害版ケアマネージャー
- 都道府県が主導する広域的な支援基盤
です。
最終的に目指すべきなのは、単に「制度を紹介する行政」ではありません。
困っている人を発見し、その人が何を大切にしているかを聞き、必要な制度を組み合わせ、本人が再び自分の生活を選べるところまで伴走する支援
への転換です。
その第一歩は、大きな制度改正だけではありません。
窓口、避難所、訪問先で、
「ほかに困っていることはありませんか」
「ご近所に、支援が必要な人はいませんか」
と尋ねることです。
この「一言の優しさ」と、制度・DX・専門性を組み合わせることが、誰も取り残さない被災者支援につながる――それが今回の交流会の中心的なメッセージです。
