弥富市五之三地区における「お互い様グループ」形成とパッククッキングを活用した実践的防災ワークショップ企画・実施報告書
1. 序論:地域特性に基づく「地域内滞留」を見据えた新たな防災訓練の必要性
愛知県弥富市五之三地区は、木曽川下流域の海抜ゼロメートル地帯に位置するという極めて特殊かつ脆弱な地理的条件を抱えている。
大規模な地震、とりわけ南海トラフ巨大地震等の発生時には、強烈な地震動による建物の倒壊や液状化現象に加え、地震発生後わずかな時間で甚大な津波および河川氾濫による浸水被害に見舞われるリスクが存在する。
具体的な被害想定によれば、最大クラスの地震・津波が発生した場合、市内全域で約7,900棟の建物が全壊し、約1,200人の死者が発生するという壊滅的な事態が予測されている。
さらに深刻なのは浸水の速度と期間である。地震発生後81分で津波が到達し始め、概ね4時間後には市域の大部分が浸水、地域によっては30分以内に30センチ以上の浸水が生じ、徒歩での避難が極めて困難になることが指摘されている。
加えて、鍋田干拓地などでは最大120日以上という長期間にわたる湛水(水が引かない状態)が続く可能性も示唆されている。
こうした過酷な災害シナリオに対し、行政は県外・市外への広域避難を推進しているものの、避難経路の寸断、渋滞、あるいは避難行動自体の遅れにより、現実には地域外への脱出が間に合わず、地域内に留まらざるを得ない(自宅の2階以上への垂直避難などを含む)住民が多数発生することが確実視されている。
五之三地区防災会は2004年の設立以来、地域防災力の強化に尽力してきたが、公助(行政による支援)が長期間機能不全に陥る孤立状態においては、住民同士の「共助」こそが生存の絶対条件となる。
本報告書は、五之三地区防災会が新たに実施を検討している「約15名規模のワークショップ型防災訓練」の企画・運営スキームについて、網羅的かつ専門的な見地から分析と提案を行うものである。
本訓練の最終目標は、災害発生時に各家庭が孤立することなく、近隣の3〜5世帯が自然発生的にひとつの「お互い様グループ」を形成し、配給物資の共同受領、食材や生活必需品の融通、およびパッククッキングを用いた共同炊事を行える関係性を構築することにある。
この目標を達成するため、訓練導入時の目的説明コンテンツ、ゲーミフィケーションを取り入れた自己紹介・グループ分けの手法、情報共有ワークシートの設計、および実践的なタイムスケジュールを体系的に提示する。
2. 訓練全体の目的と期待される効果(導入説明用コンテンツの構築)
ワークショップの冒頭において、ファシリテーター(運営側)から参加者(区民)に対して訓練の意図と理論的背景を明確に伝え、当事者意識を醸成することが極めて重要である。
参加者が「なぜこのような訓練を行うのか」を深く理解することで、その後の活動の質が飛躍的に向上する。以下に、参加者に対して説明すべき「目的とメリット」の論理構成を詳述する。
第一に、「なぜ3〜5世帯の小規模グループを形成するのか」というシステム上の理由を説明する必要がある。
災害時、弥富市や組合(町内会等)の拠点に支援物資が届いた際、数百世帯の住民が個別に物資を求めに殺到すれば、配給窓口は瞬時にパンクし、大行列による疲弊や混乱が生じる。
しかし、平時から3〜5世帯程度の小規模な共助ユニット(お互い様グループ)を形成しておけば、グループの代表者数名が要請をまとめて組合に伝え、配給物を一括して受け取ることが可能となる。
これにより、自治体や組合側のロジスティクス(物流・配分)の負担が劇的に軽減され、迅速かつ公平な物資供給ルートが確立されるのである。
第二に、リソースの最適化と生存率の向上というメリットである。電気、ガス、水道といったライフラインが途絶した環境において、各家庭が個別にお湯を沸かし、個別に調理を行うことは、貴重なカセットコンロのガスや飲料水の多大な浪費を意味する。
お互い様グループでひとつの大きな鍋と熱源を共有し、後段で実践する「パッククッキング」を用いれば、一度の加熱で複数世帯分の食事を同時に調理できる。
また、各家庭の冷蔵庫に残っている食材や、保有している防災備蓄品を持ち寄ることで、単独の家庭では不足しているリソースを互いに補完し合うことが可能となる。
第三に、「要配慮条件」の共有と心理的負担の軽減である。
災害時において、住民は「必要なものを欲しいと言う」「困っていることを打ち明ける」ことに対し、周囲への遠慮や孤立感から強い躊躇を覚える傾向がある。
平時の訓練を通じて、「我が家には犬や猫などのペットがいるため避難所に入りづらい」「歩行が困難である」「持病があり食事制限がある」といった個人的な要配慮条件をご近所に知ってもらうことで、いざという時に「お互い様」の精神で助けを求めやすい心理的安全性(ソーシャル・キャピタル)が構築される。
第四に、温かい食事の共有による二次被害の防止効果である。
災害時において、レトルト食品や乾パンといった冷たく単調な食事が長期間続くと、栄養の偏りだけでなく、極度のストレスにより心身の健康を損なう「災害関連死」などの二次被害リスクが高まる。
グループで協力して調理した温かい食事を共に囲み、対話しながら食べる行為(共食)は、孤独感を和らげ、連帯感を高め、極限状況下で生き抜く気力を維持するための強力な精神的ケアとして機能するのである。
3. ゲーミフィケーションを活用した相互理解とグループ分け手法
15名程度の参加者を、3〜5世帯(1グループあたり3〜5名程度)に分割するプロセスは、本ワークショップの成否を分ける極めて重要なフェーズである。
単に「A組」「B組」と機械的に割り振るのではなく、防災カードゲームなどの「ゲーミフィケーション(ゲームの要素を非ゲーム領域に応用すること)」を取り入れることで、参加者同士の能動的なコミュニケーションを誘発し、相互理解を深めることができる。
防災領域においては、「クロスロード」や「避難所運営ゲーム(HUG)」、「DICE」など、カードを用いたシミュレーションゲームが多数開発されており、これらが参加者の心理的障壁を下げ、多様な価値観の共有や迅速な意思決定を促す効果があることが実証されている。
本訓練においても、この知見を応用し、参加者自身が自らの状況を記載した「自己紹介シート(カード)」を用いながら、条件に合う仲間を探し出すというアナログなマッチングゲームを実施する。
具体的な進行プロセスとしては、まず参加者全員が着席した状態で、配布されたカードに自身の情報を記入する。
この際、恥ずかしがらずに「苦手なこと」や「抱えている不安」を書くようファシリテーターが心理的なサポートを行う。
次に、参加者全員が立ち上がり、首から下げた(あるいは手に持った)カードを見せ合いながら会場内を歩き回るアイスブレイクの時間を設ける。
ここでファシリテーターは、単にグループを作らせるのではなく、災害時に直面するであろう課題を「お題」として提示し、それに合致する3〜5人のグループを自律的に形成させる。
例えば、「実際に歩いてすぐ声をかけられる距離(同じ組など)に住んでいる人で集まる」という地理的近接性を重視したお題や、「『カセットコンロを提供できる人』と『水を提供できる人』、そして『要配慮条件(ペットや医療事情など)がある人』が必ず1名以上混ざるように集まる」といったリソースの補完性を重視したお題を連続して提示する。
何度かお題を変えてシャッフルと対話を繰り返した後、「実際の災害時に、今日一緒に食事を作るリアルなご近所グループ」として最終的な班を確定させる。
このようなミッション型の活動を通じて、「〇〇さんのお宅にはペットがいるんですね」「私は調理が得意なので任せてください」といった自然な対話が生まれ、プライバシーの壁を越えた「顔の見える関係」が構築されるのである。
4. グループ着目用の防災自己紹介カード(ワークシート)の設計
グループ分けの要となる「防災自己紹介カード」は、災害時の共助に直結する要素に情報を厳選し、直感的に読み取れるフォーマットにする必要がある。
サイズは名札として首から下げるか、バインダーに挟んで見せ合えるA6またはA5サイズが望ましい。
以下に示す表は、カードに印刷するフォーマットの構成案と、それぞれの項目を設ける学術的・実践的根拠である。
| 項目名(カード記載事項) | 記入例 | 災害時・訓練時における着目点と設定根拠 |
|---|---|---|
| 氏名・フリガナ | 弥富 太郎(ヤトミ タロウ) | 互いを名前で呼び合うための基本情報。親近感の醸成に直結する。 |
| 年齢(年代) | 60代 |
高齢者は体力面に不安がある一方、地域の歴史や知識が豊富である。若年層は力仕事や情報収集に長ける。世代間補完を促す指標となる。 |
| 居住地区(組名等) | 五之三地区 〇〇組 |
地理的な近接性を示す。実際に災害が起きた際、「向こう三軒両隣」として物理的に声をかけ、助け合える距離かどうかの判断基準となる。 |
| 提供できる・得意なこと | カセットコンロ提供、料理 |
自身の強みやリソースを可視化する。災害時は誰もが「支援される側」になり得るが、同時に「支援する側」にもなれることを自覚させるエンパワーメント効果を持つ。 |
| 災害時に不安なこと(要配慮条件) | 犬がいる、歩行困難、持病 |
本ワークショップの最重要項目。ペットの同行避難問題や、持病(食事制限)、移動困難などの個人的事情を事前に共有する。平時にこれを開示することで、災害時のSOSを発信しやすくする。 |
| 今回持ち寄ったもの(訓練用の仮定) | お米2合、ツナ缶、ポリ袋 |
本訓練における「食材の融通」を可視化する。各家庭からの持ち寄りで一食が完成するプロセスを体験するための項目である。 |
運用上の重要な留意点として、個人情報の保護と心理的安全性への配慮が挙げられる。
持病や身体的制約といったセンシティブな情報を他者に開示することに強い抵抗を感じる参加者も想定される。
したがって、ファシリテーターは事前の説明において、「書ける範囲で全く構わない」「もし抵抗があれば、今日はゲーム用の架空の設定(ロールプレイ)として、あえて『犬を飼っている設定』などを書き込んで参加しても良い」とアナウンスし、参加への心理的ハードルを徹底的に下げることが求められる。
5. パッククッキングを通じた共助の体験と資源の最適化
グループ分けが完了した後、形成された3〜5名のグループをひとつの「疑似的なお互い様ユニット」と見なし、共同炊事体験を実施する。
ここで採用すべき手法が「パッククッキング(ポリ袋調理)」である。
パッククッキングとは、高密度ポリエチレン製(耐熱温度120℃以上を推奨)のポリ袋に食材と調味料を入れ、空気を抜いて口を縛り、沸騰した湯の中で一定時間加熱(湯煎)する調理法である。
五之三地区のような大規模水害により長期間ライフラインが途絶し、完全に孤立することが想定される地域において、この調理法は極めて理にかなった科学的優位性を持っている。
最大の利点は、究極の節水と衛生管理の確立である。加熱に使用する鍋の水はポリ袋に保護された食材に直接触れないため、泥水や風呂の残り湯、川の水などの「汚れた水」であっても熱媒体として繰り返し再利用することが可能である。
調理後は、熱いポリ袋を開いてそのまま深めのお皿や紙コップにかぶせて食べるため、食器を汚すことがなく、洗い物が一切出ない。
これは断水時の深刻な水不足を解消すると同時に、不十分な洗浄による食中毒などの感染症リスクを完全に排除する手段となる。
また、個別ニーズ(多様性)への同時対応が可能である点も、地域コミュニティにおける共助の観点から非常に重要である。
ひとつの大きな鍋で、複数の異なるポリ袋を同時に湯煎できるため、「塩分を控えた高齢者や持病者用の食事」「乳幼児向けの柔らかい離乳食」「アレルギー原因物質を完全に排除した食事」などを、交差汚染(クロスコンタミネーション)の危険性を冒すことなく、同一の熱源で同時に調理できる。
自己紹介カードで共有した「要配慮条件」に対し、即座に実践的な解決策を提示できる点において、パッククッキングは単なる調理法を超えたコミュニティケアのツールとなる。
さらに、栄養素の保持という観点でも優れている。
ポリ袋内で密閉状態にして加熱するため、ビタミンCなどの水溶性ビタミンや食材の旨味が茹で汁として流出せず、高い栄養価を保持したまま摂取できる。
災害時に不足しがちな根菜類なども柔らかく煮込むことができ、被災という極限のストレス下において、日常に近い温かい食事を提供することは、二次被害を防ぐための最も効果的な手段の一つである。
本ワークショップにおける調理体験は、単に料理の手順を学ぶだけでなく、「物資の融通と共有」のプロセスをシステムとして組み込むことが求められる。
まず、グループの代表者が、組合の本部を模したステーションに出向き、「私たちは4世帯のグループです。お米と水を支給してください」と要請し、配給ルートのシミュレーションを体験する。
その後、各参加者が持参した、あるいはカードに記載した缶詰や野菜をグループ内で見せ合い、「このツナ缶と、そちらのトマト缶を合わせて洋風の煮物を作ろう」と協議してメニューを決定する。
この一連のプロセス自体が、コミュニケーションと合意形成の高度な訓練となる。
実践するレシピとしては、限られた時間(湯煎時間約20〜30分)で完了し、かつ満足度の高いメニューを設定する。
主食となる基本の白米は、無洗米と水を1:1.2の割合でポリ袋に入れ、30分程度吸水させた後に30分湯煎することでふっくらと炊き上がる。
副菜としては、各家庭から持ち寄ったツナやサバの缶詰に、乾燥野菜や切り干し大根を合わせ、少量の調味料とともにポリ袋で揉み込み、主食と一緒に鍋で湯煎するメニューが推奨される。
これにより、火を使うのはカセットコンロでお湯を沸かす時だけで済み、エネルギーの劇的な節約に繋がる。
6. ワークショップの実践的タイムスケジュールと進行管理
約15名の参加者を対象とし、導入説明からグループ分け、共同調理、実食、そして振り返りに至るまでの一連のプロセスを、総所要時間2時間30分から3時間の枠内に収める標準的なタイムスケジュールを提示する。
以下の表は、各フェーズにおける具体的な活動内容と、ファシリテーターの役割を構造化したものである。
| 経過時間 | フェーズ名称 | 具体的な活動内容とファシリテーターの役割 |
|---|---|---|
|
0:00 – 0:15 (15分) |
1. 導入説明とオリエンテーション |
訓練全体の目的を説明する。五之三地区の水害・地震リスクの過酷さを共有し、「地域内での共助」が不可欠であることを説く。参加者に対し「今日は失敗を恐れず、互いに声を掛け合うことを最大の目的にする」と宣言し、心理的ハードルを下げる。 |
|
0:15 – 0:40 (25分) |
2. 自己紹介シート記入とグループ分けゲーム |
自己紹介カードへの記入時間を設ける(約5分)。その後、全員で歩き回りながらカードを見せ合うアイスブレイクを行う(約10分)。ファシリテーターが「近所の人」「補完し合えるリソースを持つ人」などの条件(お題)を出し、3〜5名のグループを形成させる(約10分)。最終的に3〜4グループを確定し、各テーブルに着席する。 |
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0:40 – 1:00 (20分) |
3. リソースの確認と調理計画(合意形成) |
各グループ内で、メンバーのカードに記載された「提供できるもの」と「要配慮条件」を深掘りする。代表者が本部へ配給物資(米、ポリ袋など)を要請・受領しに行く。持ち寄った食材を確認し、誰が何を食べるか(アレルギー等の確認を含む)を相談してメニューを決定する。 |
|
1:00 – 1:30 (30分) |
4. パッククッキング仕込みと湯煎開始 |
ファシリテーターがパッククッキングの注意点(袋の空気をしっかり抜く、上部で固く結ぶ、鍋底の熱で袋が溶けないよう耐熱皿を敷く等)をレクチャーする。各グループで食材をポリ袋に仕込み、ひとつの鍋に全員分の袋を投入してカセットコンロを点火する。 |
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1:30 – 2:00 (30分) |
5. 湯煎中の対話(ミニ・ワークショップ) |
湯煎にかかる約30分の待ち時間を有効活用し、テーブルごとに情報交換を行う。例えば、災害時の簡易トイレの備えや、日常的に消費しながら備蓄する「ローリングストック法」の実践状況などについて、ファシリテーターが話題を提供する。 |
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2:00 – 2:40 (40分) |
6. 実食および反省会(振り返り) |
火を止め、数分間蒸らした後に鍋から袋を取り出す。器に袋を被せて実食を開始する。温かい食事を共に味わいながら、リラックスした雰囲気の中で、次項で詳述する反省会(振り返りディスカッション)を実施する。 |
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2:40 – 2:50 (10分) |
7. 全体共有とクロージング |
各グループの代表者から、反省会で得られた気づきを発表してもらう。ファシリテーターが全体を総括し、平時からの近所付き合い(近助)の重要性を改めて呼びかけ、訓練を終了する。 |
7. 振り返り(反省会)の設計とコミュニティレジリエンスへの還元
本ワークショップのハイライトであり、学習効果を最も高めるフェーズが、自分たちで協力して作った温かい食事を共有しながら行う「実食と反省会(振り返り)」の時間である。
災害心理学や社会学の観点からも、同じ釜の飯を食うという「共食」の行為は、極限状態における人々の不安を取り除き、他者に対する警戒心を解き、連帯感や信頼関係を急速に構築する効果があることが実証されている。
この心理的にリラックスした安全な空間の中で反省会を行うことが、単なる訓練を「生きたコミュニティ形成」へと昇華させる鍵となる。
反省会においてファシリテーターは、各グループ内で以下の問いに基づくディスカッションを促す。第一に、「気づき(発見)」の共有である。
自己紹介カードを見せ合ってグループを作った際、普段の近所付き合いでは知らなかった新たな発見(見えにくい持病の存在、ペットの有無、隠れた特技や趣味など)はあったかについて語り合わせる。
これにより、地域住民に対する解像度が上がり、相互理解が深まる。
第二に、「困難と課題」の抽出である。
実際にパッククッキングの食材を分け合ったり、代表者が配給を受けに行ったりしたプロセスにおいて、何が難しかったか、あるいはどのような遠慮が生じたかを言語化させる。
さらに、「実際の災害が発生し、電気が消え、水が出ない夜間であった場合、どうやってこのグループのメンバーで集まり、連絡を取り合うか」といった、より現実的かつ厳しい状況設定に基づくシミュレーションを議論させる。
第三に、「今後のアクションプラン」の策定である。
今日の体験を踏まえ、家に帰ってから自身の家庭の備蓄をどのように見直すか、そして次にご近所さんと道で会ったとき、どのように声をかけるかといった具体的な行動変容を促す。
訓練の結びとして、ファシリテーターはワークショップ全体の総括を行う。
災害時、行政からの公的な支援物資が到着し、それが末端の各家庭にまで行き渡るには、数日間のタイムラグと著しい混乱が必ず発生する。
その空白の期間において、住民の命と尊厳を繋ぐのは、今日同じ鍋の食事を分け合ったような「ご近所同士のお互い様」の精神に他ならない。
今回の訓練を通じて、「あの家には犬がいる」「あの人は料理の手際が良い」「あの家には工具がある」といったミクロな情報が共有されたこと自体が、災害に強いまちづくり(ソーシャル・キャピタルの蓄積)の確実な第一歩である。
最後に、備蓄食品は押し入れの奥にしまい込むのではなく、日常的に消費しながら不足分を買い足していく「ローリングストック法」を各家庭で実践すること、そして、時々は家庭の食卓でもあえてパッククッキングを試し、いざという時のための技術を忘れないように保ち続けることの重要性を説き、本ワークショップを締めくくる。
五之三地区におけるこの新たな取り組みは、単なる防災知識の伝達から、「共助の実体験」へとパラダイムシフトを図る極めて先駆的な試みである。
海抜ゼロメートル地帯という絶望的にも見える環境条件下において、本ワークショップが住民同士の絆を強固にし、未来の災害を生き抜くための強靭なコミュニティレジリエンスを育む礎となることが期待される。
