名古屋大学 減災連携研究センターが主催したシンポジウム「これからの耐震技術/減災技術 〜全国的な取り組み〜」のサマリーをお届けします。
このシンポジウムでは、地震から私たちの命と暮らしを守るため、国の研究所や大学、そして海外の研究機関がどのような最新技術を開発し、社会に役立てようとしているのかが報告されました。
1. 地震の教訓から進化する「耐震」と「減災」
長江 拓也 准教授(名古屋大学)
過去の大地震の経験から、日本の建物は強くなってきました。しかし、まだ課題は残されています。
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「見た目は大丈夫」の落とし穴: 地震後に建物の安全性を確認する「応急危険度判定」で「緑(安全)」と判定されても、壁の中の柱に致命的なひび割れが入っていることがあります。次の大きな余震で倒壊する危険があるため、見えないダメージを正確に評価する技術が必要です。
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「壊れない」から「直して使う」へ: 今後起こりうる南海トラフ巨大地震では、建物が全くダメージを受けないようにするのは困難です。そのため、「どこが壊れたか」を正確に把握し、建物を解体せずに「直して使い続ける」ための実践的な研究が進められています。
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天井や配管の落下を防ぐ: 建物本体が壊れなくても、天井や配管が落下すれば、病院や避難所として使えなくなってしまいます。こうした「非構造部材」の被害を防ぐ対策も重要です。
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2. 宇宙から建物の安全を見守る
向井 智久 室長(国土技術政策総合研究所)
大地震の後、どの建物が危険かを人が歩いて確認するのには大変な時間がかかります。そこで期待されているのが、人工衛星を使った「建物の健康診断(構造ヘルスモニタリング)」です。
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建物が自らダメージを知らせる: 建物にセンサーを取り付け、人工衛星の測位情報(GPSなど)を活用して、建物の傾きや激しい揺れによるズレをミリ単位で高精度に計測します。
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安全なデータで迅速に復旧: 計測したデータが改ざんされないよう、国の衛星「みちびき」の暗号技術を使ってデータを守ります。これにより、自治体は「どこに被害が集中しているか」を瞬時に把握でき、いち早く救助や復旧に向かうことができるようになります。
3. 建物を丸ごと揺らして被害を防ぐ
田端 憲太郎 上席研究員(防災科学技術研究所)
建物が地震で「どう壊れていくのか」を実際に確かめるため、防災科学技術研究所には「E-ディフェンス」という世界最大級の実験施設があります。
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巨大な振動台での実証実験: 10階建てのビルやマンションを丸ごと振動台に乗せ、過去の大地震の揺れを再現して壊れるまで揺らします。
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階層による被害の違い: 実験の結果、1階では家具が倒れない程度の揺れでも、10階では天井が落ちて家具が飛び交う壊滅的な状況になることがわかりました。「下の階が大丈夫だから上も大丈夫」という思い込みは非常に危険です。
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ダメージを光で知らせる窓ガラス: 地震の揺れで建物が目に見えない限界を超えたダメージを受けた場合、窓ガラスのLEDが「赤」に光って危険を知らせるシステムの実証実験も、実際の小学校で始まっています。
4. 命綱となる「港」を地震から守る
大矢 陽介 グループ長(港湾空港技術研究所)
大地震で道路や鉄道が寸断されたとき、支援物資や自衛隊を運ぶ「海の生命線」となるのが港です。
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港が使えるか素早く判断する: 津波警報が出ている間は、人が海に近づいて被害を確かめることができません。そこで、港に設置した地震計のデータから、港のダメージを瞬時に予測し、担当者のスマートフォンに通知するシステムが開発されています。
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スマホを持って歩くだけで被害を測る: 安全が確認された後、担当者がスマホを持って岸壁を歩くだけで、人工衛星の電波を使って岸壁のズレを正確に測り、「支援の船を着岸させられるか」をその場で判定できる画期的なアプリも実用化が進んでいます。
5. AIを活用したお隣・韓国の地震対策
姜 在道 主任研究員(韓国・ソウル研究院)
日本より地震が少ない韓国・ソウル市でも、最新技術を使った効率的な地震対策が進められています。
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AIで危険な建物を洗い出す: ソウル市には膨大な数の建物があるため、すべてを詳しく調べるのには莫大なお金と時間がかかります。そこで、建物の構造や築年数などのデータから、AIを使って「地震に弱そうな建物」を瞬時に見つけ出すシステムを開発しました。
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効率的な対策で街を安全に: AIの判定と、専門家による目視チェックを組み合わせることで、本当に危険な古い建物を高い精度で割り出し、優先的に耐震補強を進める取り組みが行われています。
パネルディスカッション:これからの防災に必要なこと
シンポジウムの最後には、専門家たちによる意見交換が行われました。
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一人の専門家だけでは解決できない: 建物、人工衛星、IT、AIなど、様々な分野の専門家が協力(異分野連携)しなければ、本当に役立つ防災システムは作れない時代になっています。
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AIに頼りすぎない人材づくり: AIは便利ですが、その結果が「本当に正しいのか」を判断するには、基礎的な知識を持つ専門家が必要です。そうした人材を大学でしっかり育てていくことが求められています。
【まとめ】
一見難しそうな最先端の研究も、すべては「大地震のあとに私たちが安全に建物を使えるか」「支援物資がしっかり届くか」という、私たちの命と暮らしを守るために行われています。技術の進化とともに、誰もが安心して暮らせる社会への取り組みが、着実に進んでいます。
令和8年度(第14回)減災連携研究センターシンポジウム これからの耐震技術/減災技術 〜全国的な取り組み〜
近代から現代への過渡期に現れた鉄筋コンクリート構造物と鉄⾻構造物は、この 100 年余りで急激な発展を遂げ、街並みを⼀変させました。部材が⼀定の⼒を保持して曲がりつづける「粘り」を巧みに利⽤する靱性型の設計法が、それ以前の弾性設計に⽐べ、耐震性を⼤幅に向上させることが 1995 年の兵庫県南部地震において実証されました。これにより超⾼層ビルも盛んに建設されました。このような設計体系が普及した結果、地震後の損傷、機能損失によって使⽤が困難となり事業停⽌が⻑期にわたる問題では、内外装材、設備機器等の⾮構造部分の被害が要因となることが指摘されています。技術的知⾒が相対的に少なかった時代において、先達は⾼度な⼯学判断を⽤いて、我が国の都市を形成する多様なインフラを世に送り出してきました。今後は現在の科学的知⾒を⼗分に利⽤することで、将来起こり得る各種地震に対するインフラの損傷状況を具体的に評価し、事前に構造物の耐震対策を進めるとともに、被災地域における救助・救援活動や復旧対応を遅延なく進めるための災害対応を⾒据えた取組が求められます。旧式の設計による脆く崩れる構造物は社会にはまだ残されていることから、これら⼀定量避けられない被害に対して、被災地域における救助・救援活動や復旧対応を迅速に進めるために、デジタルを活⽤した最新の災害対応を可能とする技術やその普及も求められます。これからは、より包括的な情報に基づき、被害を効率的に軽減し、かつ早期の復興を実現する新たな技術に対する研究開発はますます重要となります。こうした背景のもと、本シンポジウムでは、関連の分野をリードする公的な研究機関が取り組む、広く社会を⾒た研究開発による地震防災の進展、また、連携の場の創出による社会貢献の可能性を議論します。
■日 時 2026年6月19日(金)13:30-17:00 (開場13:00)
■場 所 名古屋大学減災館1階減災ホール・オンライン
■プログラム
13:30-13:40 趣旨説明 鷺⾕ 威(減災連携研究センター センター⻑・教授)
第1部 講演
13:40-14:10 「耐震⼯学の歴史と現状」
⻑江 拓也(減災連携研究センター 研究連携領域 准教授)
1. 制度改正と政策展開の力:兵庫県南部地震の教訓
日本の耐震工学は、被災経験に基づく制度改正の歴史です。1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、旧耐震基準で建てられた4階建ての学校校舎の1階部分が完全に潰れるという凄惨な被害が発生しました。
「もし地震の発生が数時間遅れていたら、児童や教職員に甚大な被害が出ていた」というこの事実は、国を大きく動かしました。
これを受け、文部科学省主導のもと、全国の学校施設の耐震補強が急速に進められました。
技術開発だけでなく、それを「政策」として全国へ展開していくことが、社会の安全を底上げする上で極めて大きな役割を果たしています。
2. 現場の落とし穴:「応急危険度判定OK」に潜むリスク
地震後の評価にも、まだ多くの課題が残されています。
長江准教授は、過去の地震調査で訪れたある私立高校での実体験を語りました。
その校舎は耐震補強済みで、地震後の「応急危険度判定」でも「緑色(使用可能)」の判定を受けており、学校側は通常通り授業を再開していました。
しかし、長江准教授が現場を見ると、柱に致命的な「斜めのひび割れ」が入っていました。
これは、次に強い余震が来れば一気に倒壊に繋がる極めて危険なサインです。
「判定がOKだから」という理由だけで、工学的な根拠を持たない管理者が使用継続を判断してしまうことの恐ろしさ。
南海トラフ地震のような広域災害が起きれば、こうした「見逃し」による二次災害のリスクは跳ね上がります。専門的なリスク評価をどう社会に浸透させるかが急務です。
3. 一生を決める「杭」と「非構造部材」の盲点
建物の骨組みだけでなく、見えない部分や付帯設備の被害も深刻な問題を引き起こします。
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基礎杭(くい)の被害:熊本地震では、建物自体は無事でも、地中の「杭」が折れて建物が傾く被害が多発しました。杭は一度打てば一生モノであり、後から交換することは困難です。「上物の建物だけでなく、杭自体にも高い耐震性を持たせる設計」の普及が今後の鍵となります。
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非構造部材(天井・配管など)の落下:2023年のトルコ・シリア地震では、ある巨大な大学病院が、構造的には全く問題がなく耐震性も十分だったにもかかわらず、エントランスの天井落下や設備損傷が発生しました。余震の中でギシギシと鳴る音や落下物の恐怖から、病院側は全患者を屋外の公園にテントを張って避難させるという決断を下しました。構造が残っても、天井や配管などの「非構造部材」が壊れれば、施設としての機能は完全に失われてしまうのです。
4. 南海トラフへの備え:「壊れない」から「直して使う」研究へ
来るべき南海トラフ地震では、巨大な長周期地震動が都市を襲い、超高層ビルが長時間にわたって大きく揺さぶられます。
従来の設計の想定を超えるエネルギーが加われば、建物の接合部などは損傷を免れません。
長江准教授は、「全てを壊れないように事前に補強するのは現実的に限界がある」と指摘します。
現在進められているのは、「接合部が切れた・損傷した後に、建物を解体せずにどう補修して使い続けるか」という極めて実践的な研究です。
5. 国境を越える技術連携と「社会実装」への強い意志
こうした研究開発は、日本国内にとどまりません。
台湾にある世界有数の長大な振動台施設を活用し、配管の破損実験や超高層ビルの補修技術の検証を行うなど、国際的な産学共同研究が活発に行われています。
また、トルコのように法改正によって「大規模病院への免震装置導入」が義務化されると、一つの病院で1000個以上の免震装置が必要になるなど、大量生産のニーズが生まれます。
こうした世界的需要に対し、日本の鉄鋼加工技術を用いたダンパー(制振装置)を台湾で実験し、それを日本へ逆輸入してコストダウンと普及を図るなど、ダイナミックな試みも始まっています。
最後に長江准教授は、現在の公的研究プロジェクトにおける厳しい条件に触れました。
「国費を使う以上、3年後に製品化してどれだけ売り上げるか(社会に普及させるか)をコミットしなければならない時代になっている」。
これは単なるビジネス化の話ではなく、「どんなに優れた防災・減災技術も、社会に実装(普及)されなければ人を救えない」という強い使命感の表れです。
ハード(物理的な強度)とソフト(評価・判断手法)を融合させ、産学官そして国境を越えて技術を社会へ実装していく。
日本の耐震工学は今、新たなフェーズへと力強く進んでいます。
14:10-14:40 「衛星情報を活⽤した建築物の構造ヘルスモニタリング技術の現状」
向井 智久(国⼟交通省国⼟技術政策総合研究所 構造基準研究室 室⻑)
近年、国を挙げて国産ロケットの打ち上げや人工衛星の有効活用が推進される中、建設分野においても、こうした最新の宇宙・デジタル技術を積極的に社会実装していくことが強く求められています。
一見すると結びつきのない「人工衛星」と「建築物」ですが、これらを融合させることで、地震発生後の迅速な被災状況の把握と、人命救助・復興へのスピードを劇的に変える可能性を秘めています。
本講演では、人工衛星の測位情報を用いた最新の「構造ヘルスモニタリング(SHM)」技術と、それを支えるデジタルトラストの仕組みについて紹介されました。
1. 応急危険度判定の限界と「人海戦術」からの脱却
地震発生後、被害を受けた建物が安全か危険か(青・黄・赤のステッカー)を素早く判定する「応急危険度判定」。
これは二次被害を防ぐための極めて重要な初動対応ですが、現状は訓練を受けた判定士が2人1組で現場を歩いて回る「人海戦術」に頼っています。
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過去の大震災の教訓:1995年の阪神・淡路大震災では約4万棟の調査に1ヶ月弱で延べ6000人以上が投入され、近年の熊本地震などでは調査対象が10万棟近くに上り、完了までに2ヶ月近くを要しました。
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人材不足の未来:現在、判定士の登録者数は約11万人いますが、人口減少に伴い将来的な減少は避けられません。一方で、地震の脅威は減ることはなく、現場の調査員が瓦礫の中で危険と疲労にさらされながら判定を行う現状の仕組みは、すでに限界を迎えつつあります。
この課題を解決し、自治体が「どこにどれだけ被害が集中しているか」を即座に把握して迅速な復旧計画を立てるためには、建物自身が自らの被災状況を評価する「構造ヘルスモニタリング(SHM)」の導入が不可欠です。
すでに日本建築防災協会による第三者評価制度がスタートしており、民間企業数社がSHMを用いた判定技術の認定(A評価)を取得し、社会実装が始まりつつあります。
2. 衛星情報(GNSS)を活用した建物の変位計測
このSHM技術をさらに進化させる鍵となるのが、「衛星測位(GNSS)」の活用です。
建物に設置したレシーバーで宇宙空間の衛星(最低4つ、実用上は7つ以上が必要)から電波を受信し、建物の変形や揺れを高精度に計測します。
向井室長の研究では、主に以下の2つのアプローチで実証が進められています。
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① 長期的な「静的」変位の計測 建物の傾きや沈下などのゆっくりとした変化を長期的にモニタリングする技術です。この実証実験は、日本最古(1916年建設)の鉄筋コンクリート造建築がある長崎県の「軍艦島(端島)」で行われました。倒壊の危機に瀕している過酷な環境下において、独立電源(ソーラーパネル等)を用いたセンサーで建物のわずかな変位を捉えることに成功しています。
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② 地震時の「動的」変位の計測 地震発生時の激しい揺れ(動的変位)を衛星測位でどこまで正確に測れるかの検証です。建築研究所の屋上に振動装置を設置して検証した結果、0.01mmレベルの微小な変位から、長周期地震動による1mクラスの大きな揺れまで、高精度に計測できることが確認されました。従来の加速度センサーでは建物が傾いた際に誤差が生じやすいという弱点がありましたが、衛星情報を用いることでその課題を克服できる可能性があります。
3. データの改ざんを防ぐ「デジタルトラスト」の必須性
デジタル技術を社会インフラに組み込む上で、絶対に避けて通れないのが「データの真正性(信頼性)」の担保です。
かつて日本を揺るがした耐震偽装事件のように、もし建物の被災データや判定結果が人為的に改ざんされれば、最悪の場合、倒壊による人命の喪失に直結します。
これを防ぐため、国が運用する準天頂衛星「みちびき」の機能が活用されています。
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衛星からの秘密鍵認証:「みちびき」から送信される情報に含まれる秘密鍵を用いて、受信したデータが「間違いなくその時間、その場所にある指定のレシーバーで取得されたもの」であることを証明します。
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タイムスタンプ技術:取得した加速度データなどにタイムスタンプを付与し、第三者による改ざんを物理的・システム的に不可能にする強固な認証機構(デジタルトラスト)の構築が進められています。
4. 復興と未来の技術開発を支える「2つのデータ収集サーバー」
観測され、安全性が担保されたデータは、最終的にどのように社会で活用されるのでしょうか。
向井室長は、出口戦略として「2つの収集サーバー」の開発を進めています。
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自治体向けサーバー(迅速な被災把握と対応) 各建物の被災判定結果(危険度)を集約し、GIS(地理情報システム)上でマップとして可視化します。自治体の災害対策本部はこれを見ることで、「どのエリアに被害が集中しているか」を一目で把握でき、限られた人員(判定士や救助隊)を最適に配置し、迅速な復興計画へつなげることができます。
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アカデミア向けサーバー(科学技術の発展) 大地震時の建物の挙動データは、極めて貴重な情報です。このデータを大学などの研究機関へ共有することで、現行の建築基準法のアップデートや、SHM技術自体のさらなる高度化といった、未来の耐震工学の発展に貢献します。
人工衛星の情報を活用した建築物のモニタリングは、すでに夢物語ではなく、実用化の階段を確実に上っています。
これらの技術が広く社会実装されることで、地震後の迅速な被災判定と、1日も早い復興の実現が期待されます。。
14:40-15:10 「地震防災に資する科学技術に基づく研究開発」
⽥端 憲太郎(国⽴研究開発法⼈防災科学技術研究所 上席研究員/都市空間耐災⼯学研究領域研究領域⻑代理/兵庫耐震⼯学研究センター 副センター⻑)
国土交通省などが実際の「現場での防災・インフラ整備」を担う一方で、文部科学省所管の防災科学技術研究所(以下、防災科研)は、防災に関する「基礎研究と科学技術の開発」を担っています。
本講演では、防災科研が有する世界最大級の実験施設「E-ディフェンス」を活用した実大実験(実物大の建物を揺らす実験)の成果を中心に、データ駆動型の最新の研究開発についてお話しいただきました。
1. 「オールハザード・オールフェーズ」で災害に挑む防災科研
防災科研は、地震、津波、火山噴火、豪雨、豪雪、土砂災害など、あらゆる自然災害(オールハザード)に対し、予測・予防・対応・回復の全段階(オールフェーズ)で災害に強い社会をつくるための研究を行っています。
全国2200ヶ所を網羅する地震津波観測網「MOWLAS(モウラス)」のデータは「緊急地震速報」などに活用されているほか、大型の実験施設を用いた基盤的研究も推進しています。
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大型降雨実験施設(茨城県つくば市): 時間雨量300mmの猛烈な雨と風速25m/sの暴風を再現し、極端気象の研究を行う施設。
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雪氷防災実験棟(山形県新庄市): 実際の雪の結晶を再現し、看板や標識への着雪被害などを検証する世界唯一の施設。
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兵庫耐震工学研究センター(兵庫県三木市): 本講演の主役となる、実大三次元震動破壊実験施設「E-ディフェンス」。
2. 世界最大級の振動台「E-ディフェンス」とは?
1995年の阪神・淡路大震災では、旧耐震基準の建物が甚大な被害を受けました。
しかし、事後の調査だけでは「建物が地震の揺れの中で、具体的にどのようなプロセスを経て破壊に至ったのか」という根本的なメカニズムまでは分かりませんでした。
この教訓から「実際の揺れで、実物大の建物を破壊するまで揺らし、その過程を克明に記録する」ために建設されたのがE-ディフェンスです。
重さ1200トンの巨大な振動台(広さ約300平方メートル)の上に、6階建ての鉄筋コンクリート造や10階建てのビルを丸ごと乗せ、過去の大地震の揺れを3次元で正確に再現することができます。
2005年の運用開始以来、これまで130回以上の大規模実験が行われてきました。
3. 実大実験から見えてきた「リアルな課題と解決策」
E-ディフェンスを用いた実験は、これまでの常識を覆す多くの知見をもたらしています。
① 「壊れるプロセス」の可視化と耐震補強の証明
旧耐震基準の木造住宅を2棟用意し、片方には約500万円の耐震補強を施して阪神・淡路大震災クラスの揺れを加えた実験では、補強なしの家は一瞬で全壊したのに対し、補強した家はダメージを受けつつも倒壊を免れ、中の人の命が守られることが実証されました。
また、鉄筋コンクリートの柱に「斜めのひび割れ(X字の亀裂)」が入り、中のコンクリートが崩落していくプロセスを克明に記録することで、対策技術の確立に大きく貢献しています。
② 高層ビルの「階層」による被害の格差
10階建てのマンションを想定した実験では、興味深い結果が出ました。
同じ建物内でも、1階では「震度5相当」の揺れで家具が倒れない程度の被害でも、10階の部屋では天井材が崩落し、家具が激しく飛び交う壊滅的な状況になることが確認されたのです。
「自分のいる1階が大丈夫だから、上の階も大丈夫だろう」という思い込みは非常に危険であり、発災直後にコミュニティ内で迅速に情報を共有する仕組みの必要性が浮き彫りになりました。
③ 「見えないダメージ」を可視化するLEDセンサー(社会実装モデル)
複数回の激しい揺れ(本震と巨大な余震など)を受けた建物は、見た目が元通りに見えても内部の耐力(見えないダメージ)が低下していることがあります。
そこで、建物の窓ガラス等にセンサーとLEDライトを一体化させたシステムを設置する共同研究が行われました。
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緑色:安全
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赤色:設計上の限界値を超えた(深刻なダメージ履歴あり) 地震直後に建物の外観が元に戻っていても、揺れの最中に限界を超えていればLEDが「赤」を保持するため、応急危険度判定での見落としを防ぐことができます。このシステムは現在、愛知県豊橋市の小学校に実装され、実際の行政対応と連携した実証実験が進められています。
④ 非構造部材の国際共同研究
建物本体の骨組みだけでなく、天井や配管、設備機器といった「非構造部材」の損傷評価も重要です。
台湾の研究機関(NCREE)や韓国の機関と連携し、「どのような確率で設備が壊れ、復旧にどれくらいのコストがかかるか」といった実践的な評価手法の構築が行われています。
4. データを「共有」し、未来の防災へ繋ぐ
E-ディフェンスで得られた膨大なデータ(数百のセンサーデータ、数十台のカメラ映像、破壊に至る詳細な報告書)のうち、公開可能な100以上の実験データは「データアーカイブシステム」を通じてオンラインで無償公開されています。
研究者による数値シミュレーション(デジタルツイン)の検証や、民間企業の新技術開発、さらには一般向けの防災啓発コンテンツなど、あらゆる場面での活用が期待されています。
今後は、高い建物だけでなく「大空間(広いスパンを持つ構造物)」や、建物を支える「地盤(液状化現象など)」に関する大規模実験も予定されています。
物理空間でのリアルな破壊実験と、デジタル空間でのシミュレーション技術を融合(データドリブン)させながら、防災科研はこれからも「災害に強い社会」の実現に向けて最前線を走り続けます。
15:10-15:40 「地震後の係留施設の利⽤可否判断と現在の取り組み」
⼤⽮ 陽介(国⽴研究開発法⼈海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所 地震防災研究領域 耐震構造研究グループ グループ⻑)
建築物に関する耐震技術に続き、本講演では物流や緊急輸送の要となる「港湾施設」の地震対策に焦点が当てられました。
大規模地震が発生した際、道路や鉄道が寸断された被災地へ支援物資や人員を運ぶための「海の生命線」となるのが港湾です。
しかし、一般の方々が立ち入る機会の少ない港湾施設で、地震後にどのような被害が生じ、どのように「使える・使えない」を判断しているのかはあまり知られていません。
本講演では、港湾特有の被害メカニズムと、最新のデジタル技術を活用した迅速な利用可否判断(被災後すぐに船を着けられるかどうかの判定)の取り組みについて解説されました。
1. 港湾施設の耐震設計と、地震時の重要な役割
日本の港湾基準は、過去の大地震の教訓を経て進化してきました。
特に1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)を契機に基準が大きく見直され、「地震で被害を受けても、なんとかして使う」ための利用可否判断が重視されるようになりました。
大地震時、港湾には通常利用の船に加えて、自衛隊や支援物資を積んだ船が殺到し、オペレーションが極めて困難になります。
そのため、現在では港湾法が改定され、国が管理を代行して「どの岸壁が使えて、どの船をどこに着岸させるか」という利用調整と利用可否判断を迅速に行う仕組みが整えられています。
2. 港湾特有の被害メカニズム(令和6年能登半島地震の事例から)
令和6年(2024年)能登半島地震においても、発災直後から国による迅速な利用可否判断が行われました。港湾施設(岸壁)の代表的な構造と被害パターンは以下の通りです。
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ケーソン式岸壁:海の中にマンションのような巨大なコンクリートブロック(ケーソン)を沈め、その後ろに土砂を埋めて造る岸壁。地震の強い揺れを受けると、ケーソンが海側へ押し出され、背後の地面が大きく沈下(段差が発生)します。ただし、コンクリートの塊であるケーソン自体が壊れることは少ないため、背後の段差を土砂で埋めるなどの応急復旧を行えば、船を着岸させることが可能です。能登半島地震でも、発災からわずか数日でこの応急復旧が行われ、支援船が着岸しました。
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矢板式岸壁:海と陸の境界に鋼鉄の板(矢板)を打ち込む構造。地中の見えない部分で矢板が折れ曲がる被害が多く発生します。
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桟橋:海中の硬い地盤まで杭を打ち、その上に板を乗せる構造。地上からは被害が見えにくいものの、地震のシミュレーションと現地の変位(ズレ)データを照らし合わせることで、「杭が損傷している可能性がある」と判断し、重量制限などの条件付きで利用再開する措置が取られました。
3. 「人が入れない時間」をAI・デジタルで補う
広域災害となる南海トラフ地震などでは、専門家が全港湾を歩いて回る「人海戦術」には限界があります。
また、大津波警報が発令されている間は、誰も海に近づくことができません。
そこで港湾空港技術研究所では、「現地に行かなくても、デジタルデータで被害を予測する」技術の開発を進めています。
① PSI(港湾地震動指標)による即時予測
全国の港湾に設置された地震計のデータから、港湾施設の被害と相関が高い「PSI(Port Seismic Index)」という指標を即座に計算し、スマートフォン等に一斉通知するシステムです。
これにより、現地入りする前に「どの港の、どの岸壁に甚大な被害が出ているか」の概略評価が可能になります。
② 数値シミュレーションとの連動
中部地方整備局などで構築が進んでいるシステムでは、地震発生と同時にPSI値を計算し、それを事前に用意した「施設ごとの数値シミュレーション結果(PSI値が〇〇なら、杭が〇〇cmズレる等)」と照合します。
これにより、港の図面上の岸壁が「安全(青)」か「危険(赤)」かで即座に色分けされ、被害の全体像を瞬時に把握することができます。
4. 現場での調査を劇的に変える「スマホ×衛星測位」
津波警報が解除され、現地調査に入る段階でも最新技術が活躍します。
大地震後は地殻変動により日本列島そのものが大きく動くため、従来の測量データだけでは「岸壁が壊れて動いたのか、地面ごと動いたのか」の判断が困難になります。
そこで開発されたのが、RTK-GNSS(高精度衛星測位)を活用したスマートフォンアプリ「バスターミナル(BASS-Terminal)」です。
現場の作業員がスマホを持って岸壁を歩くだけで、地殻変動の影響を補正しながら岸壁の変位量を正確に計測できます。
さらに、計測した変位データをアプリ内のシミュレーション結果と突き合わせることで、「このズレ幅なら、地中の杭は折れておらず安全に使える」といった利用可否の判定結果が、その場でスマホ画面に表示される画期的なシステムです。
現在はさらに研究が進み、AIによる画像認識を活用し「スマホのカメラを岸壁に向けて歩くだけで、変位と被害状況を自動判定する」技術の開発(内閣府SIP・ブリッジ課題)も進められています。
まとめ
「被災した施設を、いかに早く、安全に見極めて使い倒すか」。 港湾の地震対策は、事前の「耐震補強」だけでなく、事後の「利用可否判断の迅速化」というフェーズへと大きく進化しています。
衛星情報、AI、シミュレーション技術を駆使したこれらの取り組みは、将来の巨大災害時において、被災地を救う「希望の船」を1日でも早く着岸させるための強力な武器となります。
15:40-16:10 「ソウルの地震リスクと簡易耐震性能の評価⽅法の構築」
姜 在道(ソウル研究院 インフラ技術研究室 主任研究員)
本シンポジウムの最後を飾るのは、韓国・ソウル研究院の姜 在道(カン・ジェド)主任研究員による、海外の最新事例の報告です。姜氏は名古屋大学や日本の防災科学技術研究所(防災科研)での研究経験を持ち、現在はソウル市の地震対策やインフラ安全研究を牽引しています。
地震国・日本とはまた異なる地震環境を持つ韓国・ソウルにおいて、どのように地域全体の地震リスクを可視化し、膨大な数の既存建物の耐震性能を効率よく評価しているのか。
本講演では、AIやデータベースを駆使したソウル市の先進的な取り組みが紹介されました。
1. ソウル市の地震環境とリスク評価の必要性
韓国は日本に比べると地震が少ない地域ですが、ソウル市の周辺には「追加令(チュガリョン)断層」などの断層帯が存在しています。
近年は観測技術の向上により小さな地震が多数観測されており、歴史的にも被害を伴う地震が発生した記録があるため、決して地震と無縁ではありません。
限られた予算と人員の中で効率的に防災対策を進めるためには、「市内のどこが最も危ないのか」を相対的に評価する「地震リスクの可視化」が不可欠です。
ソウル研究院では、日本の東京都が1970年代から行っている「地域危険度測定調査」の手法や、米国の「HAZUS(ハザス)」などのシステムを参考に、ソウル市の地域特性に合わせた独自の地震リスク評価手法を構築しました。
2. 3つの視点からなる「相対的リスク評価」
ソウル市の地震リスク評価は、地盤のハザードマップと建物のデータベースを重ね合わせ、以下の「3つのリスク」を相対的に評価します。
① 建物の損傷リスク
地震の揺れは「地盤の硬さ」によって大きく増幅されます。
ソウル市内には約2万9000件のボーリング調査データがありますが、地盤の硬さを表す「N値(せん断波速度を推定する指標)」が含まれていないデータも多く存在しました。
そこで姜氏のチームは、N値がないデータからでも地盤の特性を推定できるAIモデルを構築(日本のK-NET等のデータで検証し、約85%の精度を確認)。これにより、ソウル全域の詳細な地盤ハザードマップを作成しました。
これに建物の構造形式や建築年(耐震基準の有無)のデータを掛け合わせることで、地域ごとの「建物の損傷率」を算出しています。
② 地震火災リスク
阪神・淡路大震災や能登半島地震でも見られたように、木造建築などが密集する地域では火災による延焼リスクが極めて高くなります。
米国の延焼評価モデルをベースに、地域の建物密度や風向きなどの条件をシミュレーションし、大規模な火災に発展する危険性が高いエリアを割り出しました。
③ 緊急対応の困難度(避難リスク)
災害発生時に「どれだけスムーズに避難・救助活動ができるか」を評価します。
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活動空間の不足:地域の人口に対して、避難所やオープンスペース(公園など)がどの程度確保されているか。
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移動の困難度:道路の幅員やネットワーク網を分析し、がれき等で道が塞がれやすい、あるいは消防車が入りにくいエリアを特定します。
【評価結果から見えたこと】
これらの評価をマップ化すると、エリアごとの特性が浮き彫りになります。
例えば、ソウルの中心部である江南(カンナム)エリアは比較的新しい高層ビルが多いため、損傷する「棟数」は少なくても、被害を受ける「延床面積」が圧倒的に大きくなります。
一方、旧市街地は古い建物が密集しているため、倒壊の危険性や火災リスク、避難の難しさが突出して高いことがわかりました。
3. AIを活用した「簡易耐震性能評価(スクリーニング)」
危険な地域が特定されたら、次はその地域にある個別の建物の耐震補強を進める必要があります。
しかし、ソウル市が管理する公共施設だけでも約7000棟、民間を含めれば膨大な数の建物があり、すべてに詳細な耐震診断(莫大な費用と時間がかかる)を行うことは不可能です。
そこで、米国などで導入されている「スクリーニング(簡易評価で優先順位をつける手法)」を韓国向けに構築しました。
AIによる一次スクリーニング
政府が保有する建築物データベース(構造、階数、面積など)の基本情報だけをAIに入力し、耐震性能を瞬時に判定するシステムを開発しました。
過去に国が行った詳細な耐震診断報告書(約220棟分)と、AIの判定結果を比較したところ、約65%の精度で「NG(耐震性不足)」の建物を的中させることができました。
目視調査(二次スクリーニング)との組み合わせ
AIだけではカバーしきれない約35%の誤差を埋めるため、米国FEMAの手法を韓国の設計基準にアレンジした「目視調査」を組み合わせました。
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優先順位1(即時対応):AI判定で「NG」、かつ現地での目視調査でも「NG」となった建物。最も危険性が高いため、早急に詳細な耐震診断と補強を実施する。
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優先順位2(計画的対応):AIか目視のどちらかで「NG」となった建物。用途(高齢者施設や子供向け施設など)に応じて期限を決め、順次診断を行う。
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優先順位3(後回し):AIでも目視でも「OK」となった建物。当面は現状維持とする。
この「AI+目視」のハイブリッド方式を導入した結果、危険な古い建物を97%の精度で抽出できるようになりました。これにより、無作為に全棟調査を行う場合と比べて、耐震性能評価にかかる費用を約3分の1にまで大幅に削減することが可能となります。
まとめ
「リスクを面で捉え、点(建物)の対策に優先順位をつける」。 姜氏の研究は、限られたリソースの中で社会の安全性を最大化するための極めて合理的かつ実践的なアプローチです。
日本と韓国、それぞれのアプローチやデータを共有し合うことで、両国の耐震工学・防災技術はさらに高いレベルへと発展していくことが期待されます。
16:10-16:15 休憩
第2部 パネルディスカッション
16:15-16:55 パネルディスカッション
パネリスト:向井、⽥端、⼤⽮、姜
司会:⻑江
シンポジウムの最後には、登壇者全員によるパネルディスカッションが行われました。現在の研究開発の最前線から一歩引き、「10年〜15年後の未来の課題」や「異分野連携」「人材育成」をテーマに、国の研究所・海外の研究機関・大学それぞれの視点から率直な意見が交わされました。
1. 複雑化する社会課題と「異分野連携」の必須性
議論の冒頭、国土技術政策総合研究所(国交省)の向井氏から、現在の技術開発における「異分野連携」の絶対的な必要性が語られました。
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建築・土木の枠を超える: 現在の国や社会が求める課題(例:センサーを用いた建物の被災判定システム「SHM」など)は、もはや建築工学や土木工学の単独分野では解決できません。
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多分野との融合: センサーを正確に設置する技術、データを解析する構造技術、それを広く通信で伝える情報技術、さらに人工衛星(JAXA等)やGIS(地理情報システム)など、他分野の専門機関とスクラムを組まなければ、社会実装可能なシステムは作れないフェーズに入っています。
防災科学技術研究所(文科省)の田畑氏、港湾空港技術研究所(国交省)の大矢氏もこれに同意し、「普遍的な技術をいかに社会にアピールし、他分野とマッチングさせていくか」が今後の研究所の大きな課題であると述べました。
2. AI時代の危機感と「本質を理解する人材」の育成
ソウル研究院の姜(カン)氏からは、研究現場に浸透するAI(人工知能)技術に対する強い危機感が示されました。
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ブラックボックス化への懸念: 現在、データ処理やシミュレーションの多くをAIに任せることができるようになりました。しかし、AIが導き出した結果が「本当に正しいのか」を工学的に判断・検証するためには、ベースとなる高度な専門知識が不可欠です。
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「AIを使えるだけの人」からの脱却: 根本的な物理現象や力学を理解しないままAIだけを操作する研究者が増えれば、将来的に技術の信頼性が担保できなくなります。「本質的な基礎知識を持つ人材」をどう育てていくかが、今後の大きな課題として提起されました。
【トピック】日韓の「データ公開」に対する法整備の違い
会場からの質問をきっかけに、地盤データの公開に関する日韓の違いも話題に上りました。
姜氏が「ソウル市の膨大なボーリング(地盤)データを利用してAIモデルを構築した」と語ったことに対し、日本の研究者から「日本では民間データが公開されておらず、そこまでのデータ収集は難しい」との声が上がりました。
韓国では近年、地下開発に伴う周辺の安全管理を目的とした法律が整備され、民間が実施した地盤データであっても、国や市のシステムに登録・共有することが義務付けられています。こうした法整備の差が、防災研究のスピードに影響を与えている実態が浮き彫りになりました。
3. 国の研究所が「大学」に期待する役割とは?
名古屋大学の鷺谷センター長からの「国の研究所から見て、大学に何をリクエストしたいか?」という問いに対し、各パネリストから明確な期待が寄せられました。
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次世代の人材供給元としての役割(田畑氏・姜氏): 研究所単独ではゼロから人を育てることは困難です。大学には、研究の基礎体力を持った「質・量ともに優秀な人材」を育成し、研究所へ送り出してほしいという強い期待が示されました。共同研究を通じて、学生に研究所の現場を経験させる取り組みも重要です。
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10〜20年先を見据えた「基礎研究」の土台(鷺谷センター長): 国や自治体の研究所は、どうしても「社会実装」や「即効性のある政策課題」に注力しがちです。だからこそ大学は、目先の1〜2年で役に立つことだけでなく、10年、20年先の未来を見据えた「尖ったアイデア」や「基礎研究」をしっかりと担い続けるべきであると再確認されました。
16:55-17:00 まとめ 富⽥ 孝史(減災連携研究センター 副センター⻑・教授)
各機関の特色と、市民生活を守る技術の未来
最後に、富田氏(名古屋大学)より本シンポジウムの総括と閉会の挨拶が行われました。
「各省庁・機関の特色が結集し、私たちの生活を守っている」
本日は、大学とは異なるアプローチを持つ「政府系研究所」の取り組みを俯瞰する貴重な機会となりました。
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国土交通省系(向井氏・大矢氏): 災害直後にビルや港湾をいかに早く・安全に使い倒し、復旧や緊急輸送に繋げるかという「現場の実装技術」
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文部科学省系(田畑氏): 大規模な実証実験を通じて現象の真理を追究し、データを公開して未来の科学技術の発展に寄与する「基礎研究」
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ソウル研究院(姜氏): 都市のシンクタンクとして、コストを抑えながら地域全体のリスクを可視化し、政策に直結させる「評価・管理技術」
一見すると専門的で難しい内容に見えるかもしれませんが、これらの技術開発は、「大地震が起きた後に、私たちが安全に建物を利用できるか」「支援物資が港から無事に届くか」という市民の命と生活に直結する不可欠なものです。
それぞれの機関が役割を果たし、さらに異分野や大学と連携していくことで、これからの耐震・防災技術はさらに進化していきます。今後とも、産学官連携による防災・減災研究へのご理解とご支援をお願い申し上げます。本日は誠にありがとうございました。
■開催形式:現地参加 + zoom ウェビナー(オンライン)
■参加費 :無料
