1. 重要なキーワード
この提言の骨格をなす、専門用語や中心的な概念です。
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市民トリアージ / ヘルスケアトリアージ
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空白の72時間(超急性期)
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海抜ゼロメートル地帯(弥富市の特有のリスク)
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防ぎ得る災害死 (PDD: Preventable Disaster Death) / 災害関連死
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生理学的トリアージ(START法)
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ゲートキーパー機能
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4段階のステージ分類(ゾーニング)
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If-Then思考(もし〜ならば、〜する)
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特化型質問(クローズドクエスチョン)
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心理的応急処置 (PFA: Psychological First Aid)
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市民ヘルスケアトリアージカード
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エデュテインメント(教育とエンターテインメントの融合による実践的訓練)
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パラダイムシフト(受援者から支援者への意識変革)
2. 刺さる言葉(抜き書き)
危機感を煽りつつも、市民の主体的な行動を促し、システム導入の必然性を訴えかける強力なフレーズです。
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過酷な現実の提示
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「『空白の72時間』を、地域コミュニティという『共助』の力のみで乗り切らなければならないという過酷な前提が存在する」
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「本来であれば救えるはずの命が失われる『防ぎ得る災害死』」
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システムの絶対的原則
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「『福祉避難所への直接避難は原則として認められない』」
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「強固なゲートキーパー機能を果たさなければならない」
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現場運営のリアルな鉄則
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「『ウナギの寝床』のような配置は絶対に避けるべきである」
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「複雑な判断を排除した『If-Then思考』に基づく行動マニュアルが必須」
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「『どうされましたか?』といったオープンクエスチョンは時間を浪費する」
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訓練と意識改革の本質
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「『マニュアルを読んで理解したつもりになる罠』に陥らない」
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「ただ助けを待つ『受援者』という受動的な立場から、自らの手で地域の命を救う『支援者』という能動的な立場へと劇的に変革させるパラダイムシフトのトリガー」
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3. 論点整理
提言全体を「なぜやるのか(背景)」「何をするのか(アプローチ)」「どうやるのか(実践・訓練)」という構造で整理しました。
① 背景と課題:弥富市の脆弱性と「共助」の必然性
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弥富市は海抜ゼロメートル地帯であり、巨大地震に加えて津波・浸水被害による「長期間の垂直避難」が避けられない。
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公的支援が届かない「空白の72時間」を生き延びるため、また劣悪な環境下での「防ぎ得る災害死・災害関連死」を防ぐためには、市民自身(共助)によるリソース管理とトリアージが不可欠である。
② 解決の構造:二元論的トリアージとゲートキーパー機能
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一次(生理学的トリアージ): START法に基づく生命危機の排除。
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二次(ヘルスケアトリアージ): 福祉的視点(ADL、医療依存度等)に基づくスクリーニング。
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福祉避難所へは直接避難できないため、一般避難所の入り口で市民が「誰をどこへ送るべきか」を見極める強固なゲートキーパー機能を担う必要がある。
③ 実践ツールと運営基準:迷わせない仕組みづくり
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4段階のステージ分類: 医療専門用語を排除し、事実ベースで判定できる4つのステージ(I:搬送、II:福祉避難所、III:配慮スペース、IV:一般スペース)を設定。
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If-Then思考と動線設計: 判断を遅らせないマニュアル化、特化型質問の徹底、滞留を防ぐ横長レイアウト、役割の視覚化(ビブス)。
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市民ヘルスケアトリアージカード: 表面を受付スクリーニング、裏面を生活健康記録(クロノロジー)として使える直感的なツールを開発。
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心のケアと支援者の保護: 被災者への心理的応急処置(PFA)の原則遵守と、支援者自身の共感疲労を防ぐシフト制・デブリーフィングの導入。
④ 訓練と社会実装:エデュテインメントによる体得
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形骸化した訓練を廃し、ゲームや演技を取り入れた実践的な3段階の訓練を実施。
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図上シミュレーション(HUG): 状況判断とIf-Then思考の育成。
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ムラージュ・ロールプレイング: リアルな演技を通じた特化型質問とコミュニケーションの体得。
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総合訓練へのフルスケール実装: 公助・専門家・共助の連携検証とPDCAサイクルの回旋。
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⑤ 結論:パラダイムシフトの実現
このシステムと訓練の導入は、単なるマニュアルの提供ではなく、市民を「助けを待つ人(受援者)」から「地域の命を救う人(支援者)」へと変革させる最大のトリガーとなる。
弥富市における市民主導型ヘルスケアトリアージシステムの構築:福祉避難所向けスクリーニング様式・運営マニュアルおよび実践的訓練プランの提言
序論:広域大規模災害における地域医療の限界と市民トリアージのパラダイムシフト
南海トラフ巨大地震をはじめとする広域大規模災害が発生した場合、被災地の公的医療機関や救急搬送システム等のいわゆる「公助」は、需要の爆発的増加とインフラの寸断により瞬時に機能不全に陥ることが確実視されている。
特に愛知県弥富市は、市域全体が海抜ゼロメートル地帯という極めて脆弱な平坦面に位置しており、地震の揺れそのものに加えて、津波や堤防決壊に伴う河川氾濫による大規模かつ長期的な浸水被害リスクを抱えている 。
発災直後から津波の最大浸水に達するまでの十数時間、さらには水が引くまでの数日間、市民は地域内の指定された堅牢な高層建築物への垂直避難を余儀なくされ、外部からの医療支援や救急隊が到達するまでの「空白の72時間(超急性期)」を、地域コミュニティという「共助」の力のみで乗り切らなければならないという過酷な前提が存在する 。
この極限状態において、限られた医療資源および福祉資源を最大限に生かし、本来であれば救えるはずの命が失われる「防ぎ得る災害死(Preventable Disaster Death: PDD)」や、避難所生活の長期化・環境悪化に伴う「災害関連死」を抑止するための戦略的かつ科学的なアプローチが「市民トリアージ」および「ヘルスケアトリアージ」の社会実装である 。
本報告書では、弥富市の地域防災計画および福祉避難所指定の最新の実情を基盤として、医療従事者ではない一般市民や自主防災組織が、要配慮者(高齢者、障害者、妊産婦、難病患者等)の健康状態や生活機能(ADL)を的確にスクリーニングし、安全な避難環境へと繋ぐための実践的な様式(トリアージカード)、行動科学に基づいた運営マニュアル、および平時の教育訓練プランを網羅的かつ詳細に提言する。
市民主導型トリアージの概念的基盤と構造的意義
トリアージの歴史的変遷と災害医療における二元論的アプローチ
トリアージという概念は、元来フランス語の「選別する(trier)」という動詞に由来し、羊毛などの品質を仕分けする商業用語であったものが、ナポレオン戦争時代の軍医によって戦傷者の救命順位を決定する軍事医療の現場に導入されたことに端を発する 。
その後、第一次世界大戦以降に現代のトリアージの基礎が確立し、現代の災害医療においては「最大多数に最大の利益を(The greatest good for the greatest number of patients)」という功利主義的倫理観に基づく究極の資源配分システムとして機能している 。
災害現場におけるトリアージは、決して単一のアプローチで完結するものではなく、発災直後の急性期における「生理学的トリアージ(一次トリアージ)」と、避難所等の生活空間において中長期的に実施される「ヘルスケアトリアージ(二次・福祉トリアージ)」という二元的なプロセスによって構成される 。
第一のプロセスである生理学的トリアージは、主にSTART法(Simple Triage and Rapid Treatment)等のアルゴリズムに基づき、傷病者の救命を最優先として「歩行」「呼吸」「循環(脈拍)」「意識」の4項目を極めて短時間(概ね30秒以内)で評価し、赤(最優先治療群)、黄(待機的治療群)、緑(治療不要・軽処置群)、黒(死亡・救命困難群)の4区分に分類する手法である 。
この評価は高度な医学的診断を伴わないため、明確な手順と判断基準の訓練を受けていれば、医療従事者ではない一般市民や消防団員であっても実施可能であり、超急性期において市民が一次トリアージを担う意義は極めて大きいとされている 。
第二のプロセスであるヘルスケアトリアージ(福祉スクリーニング)は、生理学的トリアージにおいて「緑(歩行可能・軽症)」と判定された者、あるいは目立った外傷がなく自力で避難してきた要配慮者を対象に、避難所生活における健康維持と生活機能の低下防止を目的として実施されるものである 。
ここでは、基礎疾患の有無、継続的な服薬の必要性、必要な医療機器(人工呼吸器、在宅酸素療法、人工透析など)の有無、日常生活動作(ADL)の自立度、精神活動や認知機能の状態、アレルギー、および感染症のリスクが総合的に評価される 。
この福祉的視点に基づくスクリーニングこそが、その後の避難所運営の質を決定づける中核的要素となる。
弥富市における福祉避難所の運用実態とトリアージの連動性
ヘルスケアトリアージの重要性を理解する上で、弥富市における指定避難所および福祉避難所の運用体制を把握することが不可欠である。
災害対策基本法に基づく福祉避難所は、一般の指定避難所での生活が困難な要配慮者を対象として、二次的に開設される避難所である 。
弥富市においては、施設の堅牢性や設備要件を満たす施設が1次から3次にわたって指定されている。
弥富市が公開している最新の指定状況(令和7年11月更新)によれば、海抜ゼロメートル地帯という特性から、すべての福祉避難所において避難場所が2階以上の高層階に設定されていることが最大の特徴である 。
ここで極めて重要な運営上の原則が存在する。
それは「福祉避難所への直接避難は原則として認められない」という点である 。
被災者は発災直後、まず身の安全を確保するために指定避難所(学校の体育館や高層階など)へ一次避難を行う。
その後、当該避難所に配置された保健師や、訓練を受けた市民(避難所運営委員会)によるスクリーニング(ヘルスケアトリアージ)を経て、対象者の要配慮の程度と福祉避難所の受入体制(被害状況や人員確保状況)のすり合わせ(マッチング)が行われた上で、初めて福祉避難所への移送が決定されるのである 。
したがって、各一次避難所の初動運営を担う一般市民や自主防災組織が、続々と押し寄せる避難者の健康状態や福祉的ニーズを入口段階で迅速にトリアージし、「一般避難所で対応可能な者」「福祉避難所へ優先的に移送すべき者」「直ちに医療機関へ搬送すべき者」を選別する強固なゲートキーパー機能を果たさなければならない。
この選別と情報伝達のプロセスが機能不全に陥れば、一般避難所の劣悪な環境下で要配慮者の持病が悪化し、あるいは必要な医療機器の電源が喪失し、結果として災害関連死を大量に誘発する致命的なリスクが生じることになるのである 。
避難所におけるヘルスケアトリアージ・スクリーニング基準の体系化
一般市民が混乱を極める避難所の現場で迷いなくスクリーニングを実施するためには、医学的な専門用語を排除し、観察可能な事実に基づく明確な判断基準(アルゴリズム)を提示する必要がある。
本稿では、弥富市避難所運営マニュアル等の基準を統合・拡張し、避難者を的確にゾーニングするための「保健福祉的視点に基づくトリアージ基準(4段階のステージ分類)」を以下の通り体系化する 。
段階的スクリーニングフローとステージ分類
スクリーニングは、避難者が施設に到着した瞬間から開始される。
最初のステップは、START法に準拠した生命危機の排除である。
自力歩行が不可能であり、呼吸数に明らかな異常(早すぎる・遅すぎる)がある、あるいは意識が混濁している場合は、直ちに「赤タグ(最優先治療群)」として医療従事者への引き継ぎ、または救急要請を行う 。
この生理学的トリアージを通過した者(緑タグ相当者)に対してのみ、以下の福祉的ステージ分類を適用する。
感染症スクリーニングの徹底
新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、避難所における感染症対策の重要性は飛躍的に高まっている。
ステージ分類の判定以前に、受付段階での検温、咳、味覚・嗅覚障害、全身の倦怠感、下痢や嘔吐といった症状の有無をリストで厳格に確認する必要がある 。
これらの症状が一つでも認められた場合、一般の避難者と動線を完全に分離し、「発熱者・有症状者ゾーン」へと直接誘導し、専用のチェックシートへ記入させるゾーニングを徹底しなければならない 。
避難所受付・ヘルスケアトリアージ実践運営マニュアル
一般市民や自主防災組織が、怒号や悲鳴が飛び交いパニック状態に陥りやすい発災直後の避難所で、円滑かつ的確にトリアージを実施するためには、複雑な判断を排除した「If-Then思考(もし〜ならば、〜する)」に基づく行動マニュアルが必須である 。
本章では、時間軸(フェーズ)に沿った具体的な運営手順を提示する。
フェーズ0:準備とレイアウト(動線)の構築(発災直後〜2時間)
避難所の機能は、空間のレイアウトと動線(ゾーニング)の設計によって決定づけられると言っても過言ではない。
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動線の最適化: 避難所の入口に受付を設ける際、奥へ向かって細長く伸びる「ウナギの寝床」のような配置は絶対に避けるべきである。入口に対して横長に広くトリアージポストを配置することで、滞留を防ぎ、スタッフの視認性と移動効率を劇的に向上させることができる 。
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役割の可視化とビブスの着用: 混乱した現場で「誰が何の責任者か」を一目で識別できるよう、役割ごとに色分けされたビブスや腕章を着用する。例えば、赤=全体指揮(リーダー・決断特化)、黄=情報収集・外部連絡班、青=救護・トリアージ班(最前線)、緑=避難誘導班といった形で視覚的な統制を図る 。
フェーズ1:一次スクリーニング(入口での迅速な仕分け)
避難者が入口に到着した際、青ビブスを着用したトリアージ班が最初の接触を持つ。ここでは、詳細な問診は行わず、特化型質問を用いて数秒単位での仕分けを行う。
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コミュニケーションの技術: 「どうされましたか?」といったオープンクエスチョンは、相手に状況を長く語らせてしまい、平均して53秒の時間を浪費する。これを「歩けますか?」「息苦しさはありますか?」といった「はい/いいえ」で答えられる特化型質問(クローズドクエスチョン)に変更することで、判定時間は平均27秒まで短縮されるという実証データが存在する 。
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If-Then行動基準:
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If 自力で歩行しており、明らかな大出血や外傷がなく、呼吸も安定している Then 一般受付(フェーズ2)の列へ誘導する。
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If 家族に抱えられており歩行できない、または呼吸が荒い・浅い、呼びかけに対する反応が鈍い Then 一般受付を通さず、即座に「救護スペース」へ直行させ、待機している医療従事者や救急隊へ引き継ぐ 。
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フェーズ2:ヘルスケアトリアージの実施と情報集約
一次スクリーニングを通過し、一般受付の列に並んだ避難者に対し、黄ビブスの情報班またはボランティアが「市民トリアージカード(後述)」を配布し、記載を求める。
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ボランティアによる事前介入: 判定責任者(リーダーや保健師)の前に到着するまでの待機時間を利用し、ボランティアが避難者から事前に状況を聞き取り、それを簡潔にまとめて責任者に伝達する「事前介入」を行うことで、判定プロセスはさらに20秒近く短縮される 。視覚障害者、手の震えがある高齢者、日本語に不慣れな外国人に対しては、ボランティアが積極的に代筆を行う 。
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カードに基づくゾーニング判定: 記載されたカードを回収した判定責任者は、前述の「トリアージ基準(ステージ分類)」に基づき、瞬時に避難者を誘導する。
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人工透析や在宅酸素のチェックがある場合(ステージII以上)、赤ビブスのリーダーへ報告し、弥富市災害対策本部(健康福祉部)への連絡と、福祉避難所への移送車両手配を直ちに開始する 。
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車椅子利用者、視覚・聴覚障害者、妊産婦がいる場合は、段差がなく、壁伝いに移動でき、情報が入りやすい「要配慮者スペース」へ誘導する 。
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フェーズ3:生活環境の維持と心理的応急処置(PFA)
避難所運営において、トリアージは受付時の1回で完了するものではない。
避難者の健康状態は、過酷な環境下で時間の経過とともに刻一刻と変化(悪化)する。そのため、アンダートリアージ(過小評価)を防ぐべく、定期的な巡回と再評価を継続しなければならない 。
このフェーズにおいて最も留意すべきは、被災者の精神的負担(トラウマ)の軽減である。
発災直後の被災者は、家屋の喪失や死別体験により、強い絶望感やフラッシュバックに苛まれるリスクを抱えており、PTSD(心的外傷後ストレス障害)へと移行する可能性がある 。
市民ボランティアは、精神科医のような専門的なカウンセリングを行う必要はないが、国際的な基準である「心理的応急処置(Psychological First Aid: PFA)」の原則を厳守して接する必要がある 。
| PFAに基づく被災者への心理的ケアの原則(DoとDon’t) |
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推奨される行動(Do – すべきこと) ・穏やかな声で、ゆっくりと、簡潔な言葉で話しかける 。 ・水、食料、トイレの場所、毛布など、まずは基本的な身体的ニーズが満たされているかを確認し、環境を整える 。 ・相手が話したい様子であれば、途中で遮らず、批判せずにじっくりと耳を傾ける(傾聴する)。 ・現在起きている事実や、今後の支援策について、正確で現実的な情報を伝える 。 |
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避けるべき行動(Don’t – してはいけないこと) ・「なぜ逃げ遅れたのか」「どんな怖い思いをしたのか」など、トラウマとなる体験の詳細を無理に聞き出すこと 。 ・「頑張って」「すぐに良くなるから」といった、根拠のない安易な励ましを行うこと 。 ・「こうするべきだ」と支援者の価値観や経験を押し付けたり、被災者の感情を否定すること 。 ・被災者を弱者と決めつけ、「○○してあげる」といった恩着せがましい態度をとること 。 |
同時に、市民トリアージを担う住民自身もまた被災者であり、他者の悲惨な状況に直面し続けることで「二次受傷(共感疲労)」に陥る危険性が高い 。
運営組織は、個人の使命感に依存することなく強制的なシフト制を敷き、確実な休息時間を確保するとともに、支援者同士で感情やストレスを共有し合えるデブリーフィングの仕組みを構築することが、持続可能な避難所運営の鍵となる 。
弥富市版 市民ヘルスケアトリアージカード(スクリーニング様式)の設計
専門的な医学知識を持たない市民が、パニック状態の中で正確かつ迅速に情報を収集するためには、使用する帳票(カード)のインターフェースが極めて重要となる。
本提言では、国内外の災害医療支援で標準化されている「J-SPEED(災害時診療録)」の概念や、厚生労働省が推奨する「避難所ラピッドアセスメントシート」の構造を、一般市民でも直感的に理解できる平易な日本語に落とし込んだ「弥富市版 市民ヘルスケアトリアージカード」を設計した 。
このカードは、表面を受付時の初期スクリーニング用(避難者本人またはボランティアが記入)、裏面を避難所滞在中の継続的な生活健康観察記録(クロノロジー)用とする両面仕様を想定している。
カード自体がカルテとして機能し、後に到着するDMAT等の医療チームや保健師へシームレスに情報を引き継ぐためのツールとなる 。
【様式提言】弥富市福祉避難所向け 市民ヘルスケアトリアージカード
【表面】受付時スクリーニング(避難者または支援ボランティアが記入)
【裏面】滞在中の生活健康記録(クロノロジー)
裏面は、避難者の手元または就寝スペースの壁に掲示(またはバインダーで管理)し、日々の巡回時に保健師やボランティアが体調の変化(血圧、体温、睡眠状態、新たな痛みの訴え、処方薬の配布記録など)を時系列で追記していく自由記述式のカルテとして活用する 。
実践的市民トリアージ訓練(エデュテインメント)プランの提案
綿密に設計されたマニュアルやカードであっても、それを平時の訓練で使いこなし、身体で覚えていなければ、極限状態の災害現場では決して機能しない。
「マニュアルを読んで理解したつもりになる罠」に陥らないためには、従来型の「校長先生の話を聞くだけ」「一列に並んで歩くだけ」の形骸化した防災訓練から脱却し、参加者自身が突発的な状況に直面し、自らの頭で判断して行動する「実践的・ロールプレイング型」の訓練プログラムを構築する必要がある 。
ここでは、市民向けの災害医療教材集として実績のある「トリアージ72」や「災害医療タッチ」などのエデュテインメント(教育とエンターテインメントの融合)手法を取り入れ、市民が楽しみながら真剣に学べる3段階の訓練プログラムを提案する 。
第1段階:図上シミュレーション訓練(状況判断とIf-Then思考の育成)
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訓練の目的: 避難所運営の全体像、ゾーニングの概念、および市民トリアージカードを用いた判定フローを、座学とゲーム形式を通じて頭に叩き込む。
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対象者: 弥富防災・ゼロの会会員、各地区の自主防災組織役員、指定避難所の施設管理者(学校教職員など) 。
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実施手法: 静岡県が開発したHUG(避難所運営ゲーム)を弥富市の特性に合わせてカスタマイズして実施する。テーブル上に広げた体育館の平面図に対し、次々と読み上げられる「状況カード」を配置していく。
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例題付与: 「インスリン投与中で、車椅子に乗った高齢の女性が到着しました」「38度の熱があり、激しく咳込んでいる男性が来ました」
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グループワーク: 参加者はグループで議論し、「この人はトリアージカードのステージIIに該当するから、体育館ではなく別室の感染症隔離室へ案内する」「インスリンが必要なので、弥富市本部へ連絡して福祉避難所への移送を要請する」といった判断を制限時間内に行う 。
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学習効果: この訓練を繰り返すことで、「この状況なら、こう動く」というIf-Then思考が潜在意識に刷り込まれ、想定外の事態における意思決定のフリーズを防ぐことができる 。
第2段階:ムラージュを用いたロールプレイング訓練(実践的コミュニケーションスキルの習得)
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訓練の目的: 実際の人間を相手にして、START法に基づく一次スクリーニングと、カードを用いた福祉トリアージの「コミュニケーション技術」を体得する。
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実施手法:
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傷病者役の作り込み: 訓練参加者の半数を「避難者・傷病者役」とする。市販のタトゥーシールや化粧品を用いたムラージュ(模擬外傷)を施し、各人に「症例カード」を配布する。症例カードには「あなたは視覚障害があり、足に切り傷を負ってパニックになっている設定です。誘導されるまで大声で助けを求めてください」といった演技指導が記載されている 。
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トリアージ実践: 残りの半数が「トリアージ班」となり、次々と訪れる迫真の演技をする避難者役に対し、特化型質問(「歩けますか?」「息苦しさはありますか?」)を用いてスクリーニングを実施する。情報をカードに記入し、適切なエリアへ誘導するまでのタイムを計測する 。
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相互評価(ピアレビュー): 訓練終了後、専門家からの指導だけでなく、傷病者役を務めた市民参加者自身から「最初の声かけが強すぎて不安になった」「どこに行けばいいのか指示が分かりにくかった」などのフィードバック(相互評価)を行う。当事者の視点を共有することで、飛躍的な学習効果が得られる 。
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第3段階:弥富市総合防災訓練へのフルスケール実装とPDCAサイクルの回旋
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訓練の目的: 弥富市役所(公助)、医療従事者やDMAT(専門家)、および市民(共助)の異なるレイヤーが一体となった、シームレスな連携フローの検証と課題抽出。
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実施内容: 毎年実施されている弥富市総合防災訓練(まちなか避難訓練等)のプログラム内に、本トリアージシステムをフルスケールで組み込む 。
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シナリオの展開例:
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南海トラフ地震が発生し、津波警報が発令。市民が白鳥コミュニティセンター(指定福祉避難所兼一次避難所)に殺到する設定とする。
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施設入口で市民トリアージ班が受付スクリーニングを実施。そこで「赤タグ」の重症者を発見したと想定し、トランシーバーを用いて敷地外の救急隊や近隣の医療救護所へ的確に引き継ぐフローを実践する 。
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同時に、人工呼吸器を装着した要配慮者(ステージII)を特定し、市災害対策本部へ専用回線で連絡。近隣の高度福祉施設(特別養護老人ホーム等)へのリフト付き車両を用いた移送手配を模擬的に行う 。
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評価とPDCAサイクルの徹底: 訓練は「実施して終わり(やりっぱなし)」にしてはならない。終了後には必ず全参加者でデブリーフィング(振り返り)を行い、カードの記入項目に漏れがなかったか、動線に滞留が生じなかったかを検証する。抽出された課題をもとにマニュアルやカードの様式を改訂し、次年度の訓練へと繋げるPDCAサイクルを回し続けることが不可欠である 。
結語:共助のシステム化による「防ぎ得る災害死」の根絶に向けて
広域大規模災害時において、医療や行政の公的支援が到着するまでの「空白の72時間」を支え、地域の命を繋ぐのは、間違いなく地域住民自身の力(共助)である。
特に弥富市のような、津波と長時間の浸水リスクに晒される海抜ゼロメートル地帯においては、限られた高層建築物という閉鎖空間での健康被害を防ぐ「市民主導のヘルスケアトリアージ」の成否が、被災者のその後の運命、ひいては地域の存続そのものを左右すると言っても過言ではない。
本報告書で提言した、保健福祉的視点に基づく4段階のステージ分類、感染症スクリーニングや精神的ケア(PFA)の原則を内包した実践的な「市民ヘルスケアトリアージカード」、およびエデュテインメント手法を取り入れた3段階のロールプレイング訓練プランは、単なる防災のツールの提供にとどまらない。
これらは、市民の防災意識を、ただ助けを待つ「受援者」という受動的な立場から、自らの手で地域の命を救う「支援者」という能動的な立場へと劇的に変革させるためのパラダイムシフトのトリガーである 。
一般市民が確固たる自信を持ってスクリーニングを実行し、医療従事者や福祉専門職と共通の言語(カード)を用いて情報共有ができるシステムを平時から構築しておくことで、怒号と混乱が支配する発災直後の現場においても秩序を保つことができる。
そして、限られた貴重な資源を、真に支援を必要とする要配慮者のもとへ確実に届けることが可能となるのである。弥富市における本トリアージシステムの社会実装と、絶え間ない実践的訓練の継続が、未知の大災害に打ち克つための最も強靭な地域防災力の要となることを確信する。
