【提言書】弥富市の災害対応力を劇的に高める「自律考動型」防災訓練への転換
〜「こなす行事」から「命を守る・考える訓練」へ〜
1. 提言の背景と弥富市における現状の課題
弥富市は海抜ゼロメートル地帯という特有の地理的条件を持ち、水害や地震への備えは市政の最重要課題です。しかし、現在の防災訓練において、全国の自治体と同様に以下の課題が懸念されます。
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訓練の形骸化(パレード型・展示訓練化): 法令や計画に基づく「訓練の開催自体」が目的となり、決められたシナリオ通りに動く儀式や見せ物になっていないでしょうか。
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「わが事化」の欠如とやらされ感: 「正論(法令上の義務)」だけでは職員や住民は動きません。マニュアルを「覚えること」に終始し、参加者が自身の役割を認識せず、想定外の事態における無力感に繋がっています。
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受講後の姿の不在: 訓練終了後に「誰が、どのような行動をとれる状態になっていたいか」という明確な目標像が欠如しています。
2. 実効性を高める訓練企画の「3つの転換」
いざという時に「動ける」弥富市を作るため、以下の転換を図る新しい訓練プログラムを提案します。
① 「覚える」から「考える」訓練(Don’t memorize! Think!)への転換
マニュアルにない「想定外」が必ず発生する災害現場では、自ら考える力が必須です。
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討議型訓練の先行実施: いきなり実働訓練(対応型)を行うのではなく、「状況付与型図上訓練」や「クロスロード」などの討議型手法を導入します。正解を教え込むのではなく、「このままだとマズイ」という気づきを参加者自身に生ませます。
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自問自答の誘発: 「答えが出ないこと」自体を気付きとし、状況に応じて「自分ならどう動くか」を言語化させます。
② 「本番」から「事前準備(プロセス)」重視への転換
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準備段階こそが最大の訓練: 訓練当日を「成果発表の場」と再定義します。事前の企画段階から関係部署(防災担当以外の福祉・土木部門等)や関係機関(警察・消防・NPO等)を巻き込みます。
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組織の目線合わせ: 訓練前の段階で、部署間で「これはうちの仕事ではない」といった摩擦を乗り越え、喧々諤々と議論し合う過程(プロセス)自体を最大の訓練成果と位置づけます。
③ 「義務」から「インセンティブ(動機付け)」への転換
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地域・企業へのアプローチ: 住民や企業を巻き込む際は、単なる義務感ではなく「楽しい」「役に立つ」「メディアに取り上げられる(企業価値向上)」といった、各属性に刺さるインセンティブを提示し、興味関心の入り口を広げます。
3. 令和〇年度 弥富市総合防災訓練アクションプラン(案)
本年度は、災害対策本部メンバー(幹部職員)および各部署の防災担当者を対象に、「自分ごと化」と「組織の目線合わせ」を目的とした実践型プログラムを実施します。
■ 実施スケジュールとステップ
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【STEP1:事前訓練】〇月上旬:オリエンテーションとミニ・ワーク
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単なる趣旨説明ではなく、ミニワークを実施。「大規模水害と地震が複合発生した場合、自部署はどうなるか?」を問いかけ、自問を促します。
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【STEP2:目線合わせ】〇月中旬:各部署での対応方針の言語化
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各部署にて、与えられた想定に対する役割確認と対応方針を検討・書き出し(言語化)を行います。
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【STEP3:訓練当日】〇月下旬:状況付与型・図上訓練(成果発表)
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事前の予定調和を崩す「正解のない状況(例:避難所の長期化、主要道路の寸断等)」を付与。その場での意思決定と、部署間の連携対応力を問います。
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【STEP4:振り返り】〇月〜:マニュアルの改訂と日常への落とし込み
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浮き彫りになった課題を整理し、計画へ反映。この「状況把握・課題解決・チーム内連携」のプロセスは、職員の日常のマネジメント能力向上にも直結します。
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4. 弥富市トップ(市長・幹部)へのお願い
この新しいアプローチを成功させる最大の鍵は、意思決定層の理解と強力な後押しです。 「なぜ今、やり方を変える必要があるのか」「失敗や意見の衝突を歓迎する」というメッセージをトップから発信していただくことで、全庁的な「わが事化」のスイッチが入り、弥富市の防災力は確実に次の次元へと進化します。
弥富市の災害対応力を劇的に高める「自律考動型」防災訓練への転換に関する総合的分析と戦略的展望
1. 序論:海抜ゼロメートル地帯における災害対応のパラダイムシフトと本提言の意義
気候変動に伴う極端な気象現象の常態化や、南海トラフ巨大地震等の広域複合災害リスクが切迫する現代において、地方自治体の災害対応能力の抜本的な強化は国家的な最重要課題となっている。
とりわけ、愛知県弥富市は市域の大部分が海抜ゼロメートル地帯に属し、木曽三川や日光川水系に囲まれるという極めて特異かつ脆弱な地理的条件を有している。
既往最大規模の台風(中心気圧910hPaクラス)と高潮が重なった場合や、巨大地震に伴う強震・津波が発生した場合、市域全体が長期間にわたって深く水没する恒常的なリスクが存在しており、従来の「市域内での完結」を前提とした防災体制では物理的・制度的な限界を迎えることが明白となっている 。
このような極限的な環境下において、行政機関がいかにして市民の生命を守り、都市のレジリエンス(回復力)を維持するかが問われている。
本稿は、弥富市において提案された「自律考動型」防災訓練への転換(「こなす行事」から「命を守る・考える訓練」への移行)に関する提言書を中核とし、組織論、情報マネジメント、広域連携、および行動科学の観点から徹底的な分析を行うものである。
本提言が目指す、法令や計画に基づく形式的な「パレード型・展示訓練」からの脱却は、単なる実務の改善にとどまらない。それは、行政組織の意思決定のあり方、民間セクターとの共創、さらには上位機関(県・国)を巻き込んだ次世代の防災アーキテクチャの構築に直結する極めて戦略的な試みである。
本報告では、各種の先行研究、被災自治体の教訓、最新のデジタルトランスフォーメーション(DX)の動向を統合し、本提言が弥富市にもたらす多角的な波及効果とその実装に向けた実践的アプローチを詳述する。
2. 提言の背景と弥富市における現状の課題の深層分析
本提言書が指摘する「現状の課題」は、全国の多くの自治体が抱える普遍的な問題であると同時に、弥富市のようなゼロメートル地帯においては、それがそのまま「致命的なリスク」へと直結する性質を持っている。
ここでは、提言に示された課題群を、行政機能の限界、組織心理学、および情報インフラの脆弱性という3つの次元から深掘りして分析する。
2.1 地理的脆弱性と「公助」の早期限界・行政機能のメルトダウンリスク
弥富市の災害対応を難しくしている根本的な原因は、圧倒的な地理的脆弱性と限られた行政リソースとの著しい乖離である。
市域全域が水没するような極限シナリオにおいては、市庁舎自体の機能不全や市職員自身の被災が避けられない 。
弥富市の総職員数は約200名強であるが、夜間・休日の発災や、主要道路の寸断等の悪条件下において、初動対応に実際に稼働できる実働人員は約100名程度にとどまると推計されている 。
この極めて限られた人員で、広域避難の誘導、避難所の開設・運営、要配慮者の支援といった「ソフト面の対応」と、河川堤防の応急処置や道路啓開、インフラ復旧といった「ハード面の対応」を同時に遂行することは物理的に不可能である 。
それにもかかわらず、多くの自治体の業務継続計画(BCP)は各課の通常業務をベースとした「縦割り」の構造を残しており、市域全体が機能停止に陥るダイナミックな危機事態を想定しきれていない 。自前のリソースのみで事態を収拾しようとする「自前主義」や、特定の担当者に過度な負担が集中する体制は、意思決定の遅延を招き、最悪の場合は行政機能のメルトダウン、ひいては職員のメンタルヘルス悪化や離職リスクの増加を引き起こす 。
平成28年熊本地震における熊本市女性職員50の証言や、2015年鬼怒川水害における常総市の初動対応の検証報告書が示す通り、経験のない大災害に直面した際の現場の混乱と業務過多は、平時の想像を絶するものである 。
2.2 防災訓練の形骸化と「受講後の姿」の不在がもたらす組織的硬直化
現在の防災訓練に対する最大の批判は、それが「法令や計画に基づく義務の消化」すなわち「開催自体」が目的化している点にある。
あらかじめ決められたタイムラインやシナリオに沿って動く「パレード型・展示訓練化」は、一見すると統制が取れているように錯覚させるが、その実態は参加者に「マニュアルを覚えること」を強いる儀式に過ぎない。
この形式主義がもたらす弊害は深刻である。
第一に、参加者の中に当事者意識(わが事化)が育たず、「やらされ感」が蔓延する。
第二に、特定の条件下での被害想定に基づき単純化されたシナリオに依存するため、想定外の現象(ブラック・スワン事象)が発生した際に、組織や個人が自ら判断して行動する適応能力(アジリティ)が完全に喪失される 。
第三に、最も致命的な欠陥として「受講後の姿の不在」が挙げられる。
訓練終了後に「誰が、どのような状況下で、どのような行動をとれる状態になっていたいか」という明確な目標像(ビジョン)が設計されていないため、訓練が単なる一過性のイベントとして消費され、組織の真のレジリエンス向上に結びついていないのである。
宮城県名取市閖上保育所における東日本大震災時の避難事例の研究が示すように、マニュアルにない極限状況下においては、現場の人間(この場合は保育士)が瞬時に迫られる「意思決定」こそが命を分けるのであり、暗記型の訓練ではこの決断力を養うことは不可能である 。
2.3 情報マネジメントのボトルネックと「未入力=被害ゼロ」の悲劇
既存の訓練や計画が見落としがちなもう一つの重大な課題が、被災極限状態における「情報入力の負荷」とそれに伴う支援の遅延である。
上位機関(愛知県や国)が救助部隊や物資支援を迅速に送り込むためには「正確かつリアルタイムな被害データ」が必須となる 。
しかし、被災現場における浸水、停電、通信障害、そして圧倒的な業務過多という状況下で、煩雑な災害情報システムへデータを手入力することは著しく困難である 。
自治体からのシステム入力は単なる事後報告ではなく、県の意思決定(GISマッピング等)や国からの激甚災害指定、民間インフラへの情報配信を自動的に駆動する「絶対的な起点(トリガー)」として機能する 。
現場が疲弊しシステム入力が滞れば、上位機関のダッシュボード上では「被害データが存在しない空白地帯」すなわち「被害ゼロ」とみなされ、支援の優先順位が著しく低下する致命的なリスク(未入力=被害ゼロの悲劇)を伴う 。
現在のパレード型訓練では、このような「情報インフラのアクセス集中によるダウン」や「入力作業者の認知負荷の限界」といった実戦的な脆弱性が全く検証されていない。
3. 実効性を高める訓練企画の「3つの転換」に対する多角的評価と展開
上記のような構造的・致命的な課題を打破するため、提言書は訓練企画に対する「3つの転換」を掲げている。
本節では、これらの転換がいかにして行政組織の行動様式を変容させ、実効性のある防災力へと昇華されるのかを、先進事例や行動科学的アプローチを交えて詳述する。
3.1 「覚える」から「考える」訓練(自律考動型)への転換と討議の重要性
マニュアルに規定されていない「想定外」が必ず発生する災害現場において求められるのは、手順の暗記ではなく、状況を俯瞰し自ら考える力である。
この転換の中核をなすのが、「討議型訓練」と「対応型訓練(実動訓練)」の明確な使い分けと、前者の先行実施である。
いきなり体を動かす対応型訓練を実施しても、参加者は決められた役割を演じることに終始してしまう。
そこで、「状況付与型図上訓練」や「クロスロード(ジレンマゲーム)」などの討議型手法を導入し、「正解のない状況」を意図的に作り出すことが重要となる。
滋賀県高島市において平成28年に実施された「シナリオなし」の総合防災訓練の事例が示すように、あえて細部のシナリオを設けず、災害対策本部の各対策班に次々と状況のみを付与し、自主的に対策を考えさせるアプローチは、新たな想定漏れや問題点を見つけ出し、参加者の思考を極限まで引き上げる効果がある 。
山形市における高層ビルでの火災・地震の複合災害を想定したブラインド型訓練においても、参加者に事前内容を知らせないことで、より実践に近い緊張感と自己判断能力の向上が確認されている 。
ここで重要となるのが「ファシリテーションの重要性」である。正解を教え込むのではなく、「このままだと自部署の業務は破綻する」という気付き(自問自答の誘発)を参加者自身に生ませるためには、優れたファシリテーターが不可欠である。
ファシリテーターは、参加者が沈黙したり安易な結論に逃げたりした際に、適度な認知的負荷(「もしこの時点で通信が途絶したらどうするか?」等)を追加し、思考を深めさせる役割を担う。
「答えが出ないこと」自体を訓練の価値とし、状況に応じて「自分ならどう動くか」を言語化させるプロセスが、組織の不確実性への耐性を高めるのである。
3.2 「本番」から「事前準備(プロセス)」重視への転換と組織の目線合わせ
二つ目の転換は、防災訓練の概念そのものの再定義である。訓練当日を単なる「成果発表の場」と位置づけ、その前段の「事前準備(プロセス)」こそが最大の訓練であるとするアプローチは、行政特有の縦割り構造を破壊する強力なツールとなる。
事前の企画段階から、防災担当部署だけでなく、福祉、土木、建築、さらには警察、消防、NPO等の関係機関を巻き込むことで、各ステークホルダーが持つ前提条件の違いが浮き彫りになる。
災害対策本部は、意思決定の中枢であり、多数の傷病者や課題が同時に発生した場合に、どの業務を優先し、どの業務を後回しにするかという「トリアージ(対応の優先順位付け)」を行わなければならない 。
このトリアージの基準を平時の段階で合意形成しておくプロセスが「組織の目線合わせ」である。
準備段階において、「それはうちの部署の仕事ではない」「マニュアルにはそう書いていない」といった摩擦や衝突が生じることは不可避であり、むしろ歓迎すべき事象である。
このようなコンフリクトを喧々諤々と議論し合い、乗り越えていく過程自体を最大の訓練成果と位置づけることで、発災時に生じるセクショナリズムや意思疎通の齟齬を未然に防ぐことができる。
3.3 「義務」から「インセンティブ(動機付け)」への転換と民間共創のパラダイム
三つ目の転換は、住民や企業といった外部ステークホルダーを巻き込む際のアプローチの刷新である。
単なる「法令上の義務」や「社会的責任(正論)」を振りかざしても、民間セクターの自発的な行動は引き出せない。
各属性に刺さる明確なインセンティブ(「楽しい」「役に立つ」「メディアに取り上げられる」等)を提示し、興味関心の入り口を広げることが不可欠である。
例えば、地域住民や子供向けには「イザ!カエルキャラバン!」のような、おもちゃの物々交換と防災教育を組み合わせたアートプロジェクト・アプローチが極めて有効である。
先行研究によれば、このようなアートの要素を導入した防災プログラムは、参加のハードルを下げ、地域コミュニティ内のリスクコミュニケーションを劇的に促進する効果があることが実証されている 。
企業に対するアプローチとしては、昨今のESG(環境・社会・ガバナンス)投資の文脈を活用することが戦略的に重要である 。
企業が自治体の防災・減災活動に積極的に関与し、資源を提供することは、企業価値を高め、投資家からの評価(ESG価値)を向上させる直接的な要因となる 。
このスキームを利用すれば、「民による国土強靭化」を実現することが可能である 。
弥富市はすでに、広域避難の文脈において民間企業や大学との先進的な協定ネットワークを有している。
これらの資源を「訓練のプロセス」に組み込み、協定先企業のPR価値を高めるインセンティブ設計を行うことで、形骸化した紙の協定を「生きたインフラ」へと転換することができる。
| 協定先機関 | 協定の概要と提供されるリソース | 期待されるインセンティブと波及効果(ESG価値) |
|---|---|---|
| 愛知学院大学 |
日進キャンパス学院会館(544平米)を広域避難場所として提供 |
大学の社会的貢献(SDGs)のアピール、学生の防災教育やボランティア参加機会の創出 |
| 重環オペレーション(株) / 海部地区環境事務組合 |
八穂クリーンセンターを津波・高潮等の緊急時避難所として提供 |
地域インフラ企業としての信頼性向上、事業継続性の証明、地域住民との関係強化 |
| 名港海運(株) |
西二区物流センター南1号の一部を消防車両等の避難・活動拠点として提供 |
物流拠点の強靭性のアピール、ESG投資家に対するリスクマネジメント能力の証明 |
4. 情報マネジメントとデジタル変革(DX)の統合:次世代防災アーキテクチャ
自律考動型訓練の効果を極大化し、「未入力=被害ゼロの悲劇」を回避するためには、訓練の中にデジタルトランスフォーメーション(DX)の実装と検証を組み込むことが不可避である。
アナログな情報収集能力には限界があり、AIやIoT、クラウドを駆使した新しい防災体制の構築が急務となっている 。
第一に、入力負荷の極小化とリアルタイム連携である。弥富市は愛知県に対し、マイナンバーカード等を活用した「デジタル避難者受付アプリ」の先行導入モデル都市となることを提案している?(未確認)
現場の職員が紙で受付を行い、後からシステムに手入力する旧来の手法を完全に排除し、オフライン蓄積・通信復旧後の自動連携機能を備えたアプリを用いることで、職員の業務負担を劇的に軽減できる。
訓練においてはこのアプリを実際に使用し、高齢者等のデジタル弱者に対する対応プロセスを含めて検証する必要がある。
第二に、AIと外部委託(BPO)の積極的な活用である。災害予測、SNS上の被害情報の自動解析とマッピング、データ入力の自動化にAIを導入することで、早期警戒や的確なリソース配分が可能となる 。
さらに、夜間や休日の監視業務、情報集約業務の一部を外部の専門業者に委託することで、24時間365日の対応体制を担保しつつ、市職員の過度な負担と離職リスクを解消することができる 。
第三に、システムの堅牢性を試す「入力特化型ブラインド訓練」の実施である。
シナリオ非開示の図上訓練の中で、意図的に特定の通信インフラをダウンさせたり、アクセス集中(負荷テスト)を引き起こしたりすることで、愛知県のシステムの脆弱性(UIの使いにくさや遅延)を客観的に抽出する 。
専門外の応援職員であっても直感的に操作できる強靭なシステムになっているかを検証し、完全な確定数値を待たずに概数で見切り発車入力するルールの徹底など、情報渋滞を解消するための新しい決裁フローを確立することが求められる 。
5. 令和〇年度 弥富市総合防災訓練アクションプランの戦略的解剖
提言書において提示された4つのステップからなるアクションプランは、ここまで論じてきた「思考力の養成」「組織の目線合わせ」「プロセスの重視」を具現化するための、極めて精緻な組織開発プログラムとして設計されている。
ここでは、各ステップの背後にある理論的意図と期待される効果を詳細に解剖する。
【STEP1:事前訓練】オリエンテーションとミニ・ワークによる「解氷」
実施概要: 趣旨説明に加え、「大規模水害と地震が複合発生した場合、自部署はどうなるか?」という問いを投げかけ、自問を促す。 分析と意図: 組織開発の理論における「解氷(Unfreezing)」のプロセスである。日常業務の延長線上にある平時の思考モード(正常性バイアス)から参加者を引き剥がし、「既存の計画では対応できない」という強烈な危機感を植え付ける。ここで重要なのは、明確な答えを出すことではなく、自己の業務が災害時にいかに無力化するかを直視させることである。
【STEP2:目線合わせ】各部署での対応方針の言語化と摩擦の表出化
実施概要: 各部署で与えられた想定に対する役割確認と対応方針を検討し、書き出す(言語化する)。 分析と意図: 暗黙知を形式知に変換するプロセスである。各部署が言語化した方針を持ち寄ることで、必ず「業務の重複」や「対応の空白地帯」、さらにはインフラ復旧(土木系)と民生対応(福祉系)との間のリソース争奪といったコンフリクトが表面化する。前述の通り、ゼロメートル地帯における弥富市の限られた人員(実働約100名)では、すべてをこなすことは不可能である 。このステップにおいて、市は「避難所運営・安否確認(ソフト業務)」に人員を集中特化し、「道路啓開等のハード業務」は愛知県へ権限委譲するという「選択と集中」の合意形成(トリアージ)を行うことが真の目的となる 。
【STEP3:訓練当日】状況付与型・図上訓練(成果発表)によるストレステスト
実施概要: 事前の予定調和を崩す「正解のない状況(避難所の長期化、主要道路の寸断、通信途絶等)」を付与し、その場での意思決定と部署間連携を問う。 分析と意図: 討議型訓練のハイライトであり、組織の「アジリティ(機敏性)」を試すストレステストである。ブラインド型(シナリオ非開示)で次々と降りかかるインシデントに対し、災害対策本部がいかにして情報を集約し、優先順位をつけ、限られたリソースを再配分できるかを検証する。ここでは、AIによる被害予測データの活用や、前述の協定先企業(大学や物流企業等)とのリアルタイムな連携・リソース要請のシミュレーションも組み込まれるべきである。正解のない中で「最善の判断」を下す経験が、受講後の姿(=想定外に直面してもフリーズせず、自律的に考動できる職員)を形成する。
【STEP4:振り返り】マニュアルの改訂と日常のマネジメントへの落とし込み
実施概要: 浮き彫りになった課題を整理し、計画へ反映。このプロセスを職員の日常のマネジメント能力向上に直結させる。 分析と意図: 訓練を「一過性の行事」で終わらせず、組織の血肉とするための「再凍結(Refreezing)」のプロセスである。訓練で抽出されたシステムの脆弱性や連絡網の不備を即座にマニュアルや地域防災計画に反映(動的改訂)させる。さらに重要なのは、この「状況把握・課題解決・チーム内連携」というサイクルを回す経験が、平時の行政課題(人口減少、福祉対応等)を解決するための高度なマネジメント能力の底上げに直結するという点である。訓練は防災担当者だけのものではなく、全庁的な人材育成(HRM)の強力なエンジンとなる。
6. 組織変革を牽引するトップマネジメントの役割とファシリテーションの極意
この劇的かつ高度な「自律考動型」訓練へのアプローチを成功させるための最大の鍵は、システムやマニュアルの優劣ではなく、意思決定層(市長、副市長、各局長等のトップマネジメント)の深い理解と強力な後押しである。
従来の行政組織には、「失敗を許さない」「減点主義」という官僚主義的な文化が根付いていることが多い。そのような心理的安全性の低い環境下でブラインド型訓練や正解のない状況付与を実施しても、参加者は萎縮し、「間違えないこと」や「責任を回避すること」に終始してしまい、新たな課題を発見する貴重な機会を逸してしまう。「備えたことしか、役には立たなかった」という官僚たちの震災対応の教訓が示すように、平時の計画至上主義は有事の致命傷となる 。
したがって、訓練の開始に先立ち、トップ自らが「なぜ今、やり方を変える必要があるのか」「本訓練における失敗、混乱、そして意見の衝突を大いに歓迎する」という力強いメッセージを発信することが絶対的な前提条件となる。トップが「無知や失敗を許容する姿勢」を示すことで初めて、全庁的な「わが事化」のスイッチが入り、組織全体の心理的安全性が担保された実効性の高い訓練が実現する。
さらに、これらのプロセスを円滑に進めるためには、高度なファシリテーション能力を持つ人材の育成・配置が不可欠である。ファシリテーターは単なる進行役ではなく、参加者の思考の盲点を突き、意図的に意見を対立させ、最終的に建設的な合意形成へと導く「プロセスの専門家」でなければならない。初期段階においては、防災と組織開発の双方に知見を持つ外部専門家(コンサルタントや学識経験者)をファシリテーターとして招致し、その技術を市の中核職員にトランスファーしていくスキームが推奨される。
7. 結論:愛知県全体のレジリエンスを牽引する「弥富市モデル」の確立に向けて
弥富市の災害対応力を高めるための「自律考動型」防災訓練への転換は、単に年に一度の行事のスタイルを変えるという表面的な業務改善にとどまらない。それは、海抜ゼロメートル地帯という極めて過酷な脆弱性を抱える小規模自治体が、自前主義の限界を直視し、広域連携、民間セクターとの共創、そして次世代のデジタルテクノロジー(AI・API連携等)を統合して、行政の災害対応アーキテクチャ全体を根本から再設計するための起爆剤である。
暗記型・パレード型の訓練を廃し、ブラインド型の状況付与によって職員の「考える力」と「アジリティ」を鍛え上げる。当日のパフォーマンスではなく、事前準備における他部署や外部機関(大学、民間企業等)との激しい議論と「目線合わせ」のプロセスを重視する。そして、ESG投資という新たなインセンティブを活用して地域企業を強力に巻き込み、情報システムのDX化を推進することで「未入力=被害ゼロの悲劇」を確実に回避する。これら「思考」「組織」「情報」の3つのレイヤーの変革が有機的に結びつくことで、初めて弥富市の真のレジリエンスが確立される。
弥富市は、圧倒的な地理的ハンデキャップを抱える「支援を待つだけの脆弱な被災地」としての立場に甘んじるべきではない。むしろ、その過酷な条件を逆手に取り、次世代の防災DX(デジタル受付の実証、広域情報連携の実装)と、人間の思考力を極限まで高める実戦的訓練を融合させる「実証実験フィールド(テストベッド)」として、愛知県全体、ひいては全国のゼロメートル地帯を抱えるあらゆる自治体の防災力向上を牽引するパイオニア的役割(=弥富市モデルの構築)を果たすことが強く期待される 。この「こなす行事」から「命を守る・考える訓練」へのパラダイムシフトこそが、未知の複合災害から市民の命と生活を守り抜き、弥富市の防災力を確実に次の次元へと進化させる唯一にして最強の戦略である。
