
災害時の情報と向き合う:市民のための「情報リテラシー」向上ガイド
災害時には、様々な情報が飛び交います。その中で、何が正しく、何がそうでないのかを見極め、適切に行動するためには、私たち一人ひとりが「情報リテラシー(情報を正しく理解し、活用する力)」を高めることが不可欠です。
- 「体験」と「事実」を正確に伝えることの難しさ
災害の経験を語る「語り部」や、実際に現場で活動した「支援者」の話は、私たちに大きな学びを与えてくれます。しかし、彼らが語る「体験」や「真実」が、他の人に正確に伝わることは、実は非常に難しいものです。
なぜ伝わりにくいのか?
- 個人の体験は「主観」を含む: 「私が見た、感じた、思った」という個人的な体験は、その人にとっては紛れもない事実ですが、受け取る人によって解釈が変わることがあります。これは、感情や状況が複雑に絡み合うためです。
- メディアの「フィルター」: テレビなどの報道機関は、限られた時間や紙面の中で情報を伝えなければなりません。そのため、伝えたいことを「15秒の映像」や「短い言葉」にまとめようとしがちです。その過程で、伝えたいことの核がずれてしまったり、分かりやすい「美談」に偏ってしまったりすることがあります。例えば、被災地での「感動話」ばかりが報道され、真の課題や苦労が見えにくくなるような「感動消費」につながることも懸念されます。
- 「生存者バイアス」: 災害の語り部となるのは、当然ながら「助かった人」がほとんどです。そのため、助かった人の視点からの情報に偏ってしまい、「助からなかった人々の声」や、避難行動における真の困難が見えにくくなることがあります。
これらの問題は、私たちに「真実が、意図しない形で広まってしまう恐ろしさ」を教えてくれます。
- 災害時の情報との向き合い方:メディアと個人の役割
情報が氾濫する時代だからこそ、私たちは情報を「受け取る側」として、より慎重になる必要があります。
情報を「発信する側」として
- 肩書きに惑わされない: 「防災士」など専門的な肩書きを持つ人でも、それぞれ得意分野が異なります。「防災士だから何でも正しい」と思い込まず、その情報が誰によって、どんな意図で発信されているのかを見極めることが大切です。
- 「ファクト(事実)」に徹する: 例えば、被災地の水道復旧について「断水が解消した」と報道されても、それが「幹線道路の通水が完了した」という意味で、各家庭への給水がまだだった、というような「言葉の解釈のズレ」が起きることがあります。発信する側は、より具体的な「事実」を、曖昧な言葉を使わずに伝える努力が必要です。
- 「結論ありき」の取材をしない: メディアは、伝えたい結論を先に決めて取材するのではなく、現場で起きていることを客観的に、多角的に伝える姿勢が求められます。
情報を「受け取る側」として
- 「自分が確認できない情報は拡散しない」: 災害時も平時も、人から聞いた話や、SNSなどで見かけた情報が、本当に正しいかどうかを自分で確認できない場合は、安易に拡散(リツイートやシェア)しないようにしましょう。デマ(嘘の情報)が広がるのを防ぐために、これは非常に重要な行動です。
- 「情報」を「情報以上」と捉えない: 「この情報が正しい」とすぐに思い込むのではなく、「これはあくまで情報の一つだ」と冷静に受け止めることが大切です。情報は、常に変化し、不確かな部分があるという前提で向き合いましょう。
- 受け手の「情報リテラシー」向上: 最近は、行政の公式情報ではなく、インターネットや動画サイトで防災情報を得る人が増えています。しかし、そこには不正確な情報や、誤解を招く情報も少なくありません。私たちは、正しい情報を見分ける力、情報を深く「咀嚼(そしゃく)」(よく考えて理解すること)する力を高める必要があります。 特に、性暴力などデリケートな情報については、公的な情報だけでは実態が見えにくい「暗数(あんすう)」がある一方で、人から聞いた話(伝聞証拠)だけでは根拠が薄いこともあります。二次被害を防ぐためにも、情報の扱い方には細心の注意が必要です。