
先日、津島高校1年生4名が「探求学習」のために、「弥富の防災」をテーマに弥富防災・ゼロの会の活動についてヒヤリングにみえました。
質問の趣旨を生徒さんに質問しながらお話しました。
高校生に戻った気分で読んでいただければ幸いです
以下、当日お話した記憶をメモしました
弥富の防災を考えよう!
〜弥富防災・ゼロの会の活動から学ぶ〜
はじめに:弥富防災・ゼロの会ってどんな団体?
私たち「弥富防災・ゼロの会」は、愛知県の防災研修「あいち防災カレッジ」に参加した住民が中心となり、2005年6月に弥富市と協力して結成したボランティア団体です。
弥富市は、海面よりも土地が低い**「ゼロメートル地帯」という特徴を持つため、特に水害のリスクが高い地域です。私たちは、この弥富ならではの地域性を深く理解し、災害による「死者ゼロ」を目指して**活動しています。
私たちの目的
弥富防災・ゼロの会は、弥富市における専門性を持った防災ボランティアのネットワークとして、以下の目標のために活動しています。
- 弥富ならではの防災知識を広める: 特に水害に関する知識を、地域の皆さんに分かりやすく伝えます。
- 地域とのつながりを強くする: 自主防災会や行政、地域の団体など、様々な人々との連携を深めます。
- 災害に備える組織づくりを支援する: 災害が起きた時や、その後地域を元に戻す(復興する)時に、情報や人のつながり(ネットワーク)がすぐに機能するように、事前に準備を支援します。
1. 災害ってなんだろう?〜「天災」と「人災」の視点から〜
「災害は忘れた頃にやってくる」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、普段意識していないと、いざという時に困るという意味です。でも、そもそも皆さんは大きな災害を経験したことがないかもしれませんね。
では、「災害」とは一体何でしょうか? 「天災」と「人災」という言葉から考えてみましょう。
- 自然現象と災害の違い: 人が誰も住んでいない太平洋の真ん中で台風がどんなに激しくても、それはただの自然現象です。被害がない限り、「災害」とは呼びません。災害は、人の命や財産に被害が出たときに初めて「災害」となります。
- 伊勢湾台風の例から考える「人災」: 今から65年前(昭和34年)に日本に上陸した伊勢湾台風を例に考えてみましょう。弥富の鍋田干拓では、当時、堤防の裏側がコンクリートで覆われていませんでした。伊勢湾台風の高潮によって海面が最大4mも吸い上げられ、風によって吹き寄せられた荒波が、その未整備な堤防を崩し、海水が地域に流れ込みました。 これを「天災」と呼べるでしょうか? 堤防を計画・設計・施工した国が、高潮を想定していなかったとしたら、それは**「事前の備えを怠った」**結果です。
- 「フーエル・セーフ(多重防御)」という考え方: どんなに準備してもミスは起こりえます。そこで、「フーエル・セーフ(Fail-Safe)」という考え方が重要になります。これは、たとえ一つの防御が破られても、被害を回避したり、最小限に抑えたりするための「多重の防御」を用意しておくことです。 伊勢湾台風の際、堤防が崩れる可能性があることは、この地域(海部郡)の出身者にとっては「常識」でした。そのため、早めに避難した人もいたようです。しかし、長野県など山間部から入植してきた人々は、山崩れは知っていても、堤防が崩れるということを知らなかったため、逃げ遅れて多くの方が亡くなりました。 これは、台風が悪いわけではありません。「正しい情報を伝えなかった」こと、つまり「人災」だったのです。 もし「台風がくれば堤防が破壊されるかもしれない。だから高いところに逃げておけば、少なくとも命は助かる」ということを教えていれば、死ぬことはなかったかもしれません。
これが、「災害」であり、「災害は忘れた頃にやってくる」という言葉の本当の意味です。忘れる以前に、自分が今住んでいる場所に、どのような自然災害のリスクが潜んでいるのかを、常に自ら調べ、知ろうとすることが、私たち「大人」の行動として求められます。
2. 「大人」として防災を考えるということ
「大人」の行動とは、単に情報を受け取るだけでなく、自ら調べたことについて、そのリスクを避けるために、自分の判断と力でどこまで行動できるかを考えることです。
- 「問い」を立てる力: もちろん、誰かに聞かなければ分からないこともあります。でも、ただ「どうしたらいい?」と答えを求めるだけでは「子ども」です。大人としては、「どんな危険が潜んでいるのか?」「その危険が潜んでいる根本的な理由は何か?」という、根本的な「問い」を自ら立て、深く掘り下げていく姿勢が必要です。
- 解決策は無限大: 根本的な問題が正しく理解できたとき、解決策は一つではありません。簡単だけど効果が薄い方法もあれば、難しいけれど効果の高い方法もあります。それらの中から、状況に最も適した選択をするのは、あくまで「大人」としての私たち人間です。
- 常に変化に対応する「大人」の姿勢: 「災害は忘れた頃にやってくる」という格言のもう一つの大切な意味は、「状況は日々変化している」ということです。昨日調べた情報が、今日そのまま使えるとは限りません。解決策も常に変化し、進化しています。だからこそ、私たちは常に最新の情報にデータを入れ替え、災害という「変数」が与えられたときに、自分の中の「方程式」に当てはめて、どれが最適かを常に計算し直す必要があります。 スポーツの世界で「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言われるように、防災においても、たとえ運よく被害を免れたとしても「なぜうまくいったのか」を冷静に分析し、そしてもし被害があったなら、それを「運が悪かった」で済まさずに、「どうすれば負けないか」「負けるにしても被害を最小限に抑えるにはどうすればいいか」を常に考え続けるのが「大人」の態度です。
3. 探求学習は「大人になるための試練」
皆さんは今、「探求学習」に取り組んでいますね。これは、まさに皆さんが「大人になれるかどうか」の試練を与えられているのだと考えてください。
「周りの人が災害に対して危機意識が薄いからダメだ」で終わってしまったら、それはまだ「子ども」です。
「大人」というのは、自分だけでなく、周りの人間も含めて、常に変化するこの自然や社会環境の中で、防災に対する備え(個人の備え、地域の備え、行政の備え)の前提条件を理解し、目の前の人や自分につながる様々な人に対して、常に正しく見て判断し、働きかけることができる人のことです。
つまり、**「防災とは大人になること」**なのです。
探求学習を通じて、皆さんが自ら調べ、自ら大人として判断し、見て聞いたことについて「自分ならどうできるか」「自分が他の人にどう働きかけるか」というところまで考えてこそ、探求学習の課題に「答えた」と言えるでしょう。そして、それが皆さんの人生にとって、意味のある時間であったかどうかを左右するポイントになります。
津島高校生として、自律して考え、行動できる「自立した大人」への歩みを進められることを祈念しています。頑張ってください。
私たちの活動内容(補足)
弥富防災・ゼロの会は、市民の防災意識を高め、地域全体の防災力を向上させるために、多岐にわたる活動を行っています。
1. 調査研究・情報発信
地域の災害リスクを深く理解し、それに対応するための具体的なツールや知識を提供しています。
- 地域のリスク調査: 2007年には「防災ウォーキング」で地域の危険箇所をチェックしました。
- ガイド・マニュアル作成:
- 2011年「減災の手引き(風水害編)」:風水害から命を守るために、早く安全な場所へ避難することの重要性を解説。
- 2014年「避難マニュアル」:避難の大原則や、弥富市の避難場所を学区ごとに記載。
- 2015年「ゼロメートル地域の防災ガイド」:災害から身を守るために、自分自身で判断し、的確な行動をとる方法を指南。
- 2018年「防災豆辞典」:防災に関する専門用語を、イメージしやすいように読み方や意味を分かりやすく解説。
- 実態調査: 2020年には「弥富市地域防災活動実態調査」を実施し、地域の防災活動の現状を把握しました。
- 研究発表会: 2023年には「水問題から災害時のロジスティック(物資輸送や人の動き)を考える研究発表会」を開催しました。
2. 講演会・講座・展示
知識を伝えるだけでなく、参加者が自ら考え、行動するきっかけを作るための活動です。
- 防災市民講座(企画協力): 2007年には弥富市主催の講座に協力し、伊勢湾台風の記録や、堤防・橋の現場見学、気象学習などを通じて、市民が手作りのハザードマップを作成する機会を提供しました。
- 防災展・学習交流会:
- 2019年「水害に学び未来に備える防災展」、2020年「水害に学び未来を描く 防災学習交流会」など、体験型や対話型のイベントを定期的に開催。
- 2021年からはオンライン形式で「水害の基礎講座」「水害についてみんなで語ろう」を実施。国土交通省、愛知県、弥富市防災課など、専門機関の担当者を招き、木曽三川の高潮・津波対策、緊急輸送道路、弥富市の防災活動など、具体的な話題を提供しています。
- 伊勢湾台風追悼行事への協力: 2022年には伊勢湾台風追悼行事(クローバーテレビでの特番放送、朝日新聞掲載)に参加し、災害の教訓を次世代に伝承しました。
3. 防災施設見学会
実際に防災施設を訪れ、目で見て学ぶことで、防災への理解を深めています。
- 水管理施設: 水資料館、日光川排水機場、高須輪中排水機場、鍋田川水門、海部南部水道組合など、弥富の水害対策の要となる施設を見学。
- 学習施設: 豊田市防災学習センター、名古屋地方気象台、名古屋港防災センター、名古屋大学減災館など、広域的な防災拠点も視察しています。
4. 出前講座・防災行事協力
地域に密着した活動を通じて、住民一人ひとりの防災意識向上をサポートしています。
- 地域での出前講座: 各地域の自主防災会や、児童館、ふれあいサロンなどで、無料の出張講座と実演を実施しています。
- 出張講座の内容: 「ゼロメートル地域の災害と命を守る要点」をテーマに、地図や写真で分かりやすく工夫されたスライドを使用し、場所や参加者層に合わせて内容を調整。防災を身近に感じてもらえるよう努めています。
- 防災イベントへの協力: 健康フェスタ、八穂クリーンセンターリサイクルフェアー、高校での防災講座(海翔高校・愛知黎明高校)、海部地区総合防災訓練など、地域の様々な防災イベントや学校の防災教育に協力しています。
5. 訓練等への参加・協力
行政や他団体と連携し、実践的な訓練にも参加しています。
- 愛知県・弥富市津波・地震防災訓練、海部南部消防組合消防職員技術発表会、消防団出初式、弥富市地域防災会議・国民保護協議会、木曽三川下流部広域避難実現プロジェクトなど。
6. 取材協力
メディアや地域づくり活動への協力も行っています。
- NHK(水郷の塔収録)、FMななみ(防災ひとくちメモ)、メ~テレ防災特番「池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ」など、様々なメディアの取材に協力しています。
私たちからのお願い
弥富防災・ゼロの会は、各地域の特性を考慮した上で、「何が足りないのか」「何を伸ばしていくべきなのか」を明確にし、地域ごとの防災力を高めていくことを願っています。
災害から命を守り、地域を継続させていくためには、自主防災会や自治会の役員、福祉、医療、地域の様々な会社、建設業者、NPO、行政など、災害時に現場に立つ人々が、顔の見えるつながりを少しずつ広げていくことが不可欠です。
公開学習会では、この地域の水害がなぜ起きるのか、どのような治水対策がとられているのかなどについて学び、講演後には小グループでの自由な意見交換の時間を持ちます。この小さな交流から「持続的な地域の防災」への大きな交流へと繋げていきたいと考えています。
「地域の防災力」を高めるために、皆様のご参加とご協力を心よりお待ちしております。
弥富防災・ゼロの会