
避難所における「分かち合い」の集団サイズ:人類の歴史に学ぶ
災害時、避難所での生活は不安が多く、どのように過ごすべきか悩むことも少なくありません。ここで、人類がこれまでどのようにして集団で協力し、困難を乗り越えてきたのか、その歴史を紐解いてみましょう。
人類が「分かち合い」で生き抜いてきた時代
人類が森を離れ、現在の姿に進化していく過程で重要な役割を果たしたのが、**小集団での「分かち合い」**でした。約700万年前にチンパンジーと共通の祖先から分かれた人類は、数十人からせいぜい100人程度の小さな集団で移動し、獲物を分かち合い、子育てを協力して行うことで生き延びてきました。
縄文時代(約1万6千年前から約3千年前)になると、人々は定住するようになりますが、ここでも**「分かち合い」を基本とした平等な社会**が築かれていたと考えられています。数百人規模の集落で、獲物や採集したものをみんなで分け合い、協力して生活していました。この縄文時代の社会こそが、現在の避難所で目指すべき集団の姿に近いと言えるかもしれません。
弥生時代以降の社会変化と現代への示唆
弥生時代(約3千年前から約1700年前)に入ると、稲作が本格化し、穀物の貯蔵が可能になったことで「富」が蓄えられるようになります。これにより、財産の概念が生まれ、争いが生じたり、特定のリーダーに権力が集中したりと、社会のあり方が大きく変化しました。
現代の私たちの社会は、この弥生時代以降に形成された、ある種の「ヒエラルキー」や「所有」の概念が強く根付いています。しかし、災害時の避難所のような緊急事態においては、縄文時代のような**「今あるものをみんなで分かち合い、助け合う」**という原点に立ち返ることが、何よりも重要になります。
避難所における理想的な集団サイズ
では、具体的に避難所ではどのくらいの人数で協力するのが良いのでしょうか。社会学や組織論における研究成果から、いくつかの示唆が得られています。
- 10人程度の小集団: この規模であれば、個々人が協力し合い、活発なコミュニケーションを取りながら共同作業を進めることができます。例えば、食事の準備や清掃など、特定のタスクを分担するのに適しています。
- 30人程度までの集団: ベンチャー企業などで活力が維持される限界が30人程度という経験則があるように、この規模までは比較的多くの人が主体的に関わり、活発な活動が期待できます。
- 100人から200人程度の集団: 多くの社会学研究が示唆するのは、全員がある程度顔見知りになり、「分かち合い」が可能となる集団のサイズが100人から200人程度という点です。この規模であれば、お互いの状況を把握しやすく、困っている人がいれば自然と助け合える関係性を築きやすいと考えられます。避難所全体の人数がこの規模に収まるのが理想的と言えるでしょう。
もちろん、大規模な避難所では数百人、数千人という人々が集まることもあります。その場合は、全体を100人から200人程度のブロックに区切り、さらにその中に10人程度の小集団を複数配置すると良いでしょう。これにより、大きな集団の中でも、顔の見える範囲での協力関係を維持しやすくなります。
まとめ:縄文時代の精神を取り戻す避難所へ
人類の歴史は、決して強大なリーダーに統率されてきたばかりではありません。むしろ、**「今あるものをみんなで分かち合い、互いを尊重し、助け合いながら生き延びてきた」**歴史の方がはるかに長いのです。
災害という非日常の状況下では、この縄文時代に見られたような、**「老若男女、能力や体力の差を超えて、お互いを尊重し、今あるものを分かち合う」**という精神が何よりも大切になります。避難所は、単に身を守る場所ではなく、人々が協力し、共に困難を乗り越えるための「もう一つのコミュニティ」として機能すべきです。
私たちは、過去の封建的な社会制度に戻る必要はありません。しかし、人類が培ってきた「分かち合い」の知恵を、現代の避難所の運営やコミュニティづくりに活かすことで、より安心で、より助け合える避難所を実現できるはずです。
この歴史から学んだ知恵が、皆さんの避難所での生活に役立つことを願っています。